「水鏡に映りし姿」
「おい、お前ホントに大丈夫かぁ?」
「う…うーん…。」
誰なんだお前は?私にそんな口調とは、どんな身分なんだ?
そう聞いてみたかったが、うまく言葉を発せない、どうやら高い所から落ちた衝撃で、頭を打ったらしい。
「まぁ、今日はゆっくり休め。」
「…待て……。」
「…は…?」
「お前は、…誰なんだ?」
やっと言えた、今のライトにはこれが精いっぱいだった。
「…私か…私の名は、そうだな…」
彼女はためらった末に、「ツタージャのランだ。」そう言った。
「…ッ!?」
ツタージャ?ツタージャがなぜ人間の言葉を話せるんだ…?
「さあ、自己紹介は済んだ。今日はもう寝るんだな」
自分をツタージャと言っている彼女は、少々面倒くさそうに言った。
このまま眠るなんて、無理だ。だっていろいろなことがわからな過ぎる。ツタージャが人間の言葉を話す…?それにライトの母親姉妹が治める国の住人が助けてくれたのだったら、必ず敬語で話すはずだ。それなのに彼女は…
「あともう一つ聞きた……」
「明日聞け!…今日はもう寝ろ…。」
「まだ夜なんかじゃないぞ?」そう言おうとした直前には、もうランの技に眠らされていた。
次の日……
「おい!起きろ朝だぞ!」
「…早くないか?」
「は?」
「だってお前が私を助けたのは、昼下がりくらいじゃなかったか?」
ランはライトの顔をまじまじと見た。そして、あきれたような顔をすると、「ふぅ…。」とため息をついた。
「お前頭を打っておかしくなったのではないか?」
「え?なぜ?」
「なぜ…って…お前は星空から落ちてきたんだぞ?今、朝が来たとしてもおかしくないだろう?」
「星空ぁ〜?」
そういうと、ライトはランにぐっと顔を近づけた。ランが、「ちっ…近い…。」と言っているのを完全に無視して、
「確かに星は見えたが、それは頭を打ったからではないのか?」
ランはまた大きなため息をつくと、
「バカか、お前は、」
とつぶやくように言った。
「見ず知らずのお前なんかにバカだなんていわれたくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
突然のライトの叫びに、さすがのランも一歩後ずさりした。
「確かに私は国語も算数も理科も社会も全然だめだ!ただ足だけが速いような人間だ!しかしだなおま……」
「…!?ちょっと待て、」
「なんだ?!まだ話は終わってないぞ!」
「お前今、自分のことを人間…と?」
ランは突然鋭い目つきになった。ライトのことを、睨むように見ている。その目つきのまま、ランはライトに1歩2歩と近づいてくる。それに合わせてライトは、1歩2歩と後づさりしていく。
「いっ…いきなりなんだ?」
「人間?…バカなことを、今のお前は完ぺきにピカチュウではないか。」
「……は…?」
ライトはとても驚いた顔をした。無理もない、だっていきなり自分はピカチュウだと言われたのだから……。
「な…なんてことを言うの……。」
驚きすぎて、いつもの口調ができない。ランはライトは本当は随分繊細な女の子だと知って、少しニヤっとした。
「なんで笑っていられる……?」
「いや、少し気になっただけだ。…フフ、いつもその口調でいればとても愛らしい女なのにな。」
「……。」
ライトは、ランにすっかり弱みを握られてしまった。
「五月蠅い…。弱みを握ったからって、私はお前なんかに従わないからね!」
「ハハハ!その方がいい!絶対にその方がいい!その口調に加え、二人称をあなたとか君にしたら最高だな!」
「……なんなの?あな……た…」
「おお!!?」
「っていうか本当に女かお前!?」
ランは少々悔しそうに、「あぁ〜。」といった。
「それに私がピカチュウだっていう証拠はあるのっ!?」
「証拠か…そうだな。」
そういうと、ランはライトの手をつかみ、すぐそばにあった泉へと連れて行った。
「ほら、覗いてみろ。」
しかし、ライトは一向に覗こうとしない。
「どうした?証拠が知りたいのだろう?」
「いや…でも……。」
ライトは、また泉に吸い込まれるのではないかと思い、泉日近づくのが、怖くなってしまったのであった。しかし、証拠も知りたい。
彼女は悩んだ末、のぞいて見ることに決めた。
「………!?」
すると、本当に自分の姿がピカチュウだったのだ。
「な…何で……?」
「さあ、これで信じないわけにはいかないだろう?」
ランはついでに、「この泉は自分の姿がはっきりと映るのだ。」と、泉の説明もした。
「それにしてもお前は随分泉を覗くのを怖がっていたな、どうしたんだ?」
「聞いてくれる?」
「ああ。」
ランはライトの目をしっかり見ると、「私でよければ。」そう言った。
――――実は