出会い
僕は気付けば海岸に来ていた。落ち込んだり、上手くいかないことがあったりすると、よくここに来る。ここに来ると不思議と元気が出てくるのだ。
そして天気のいい今日はクラブ達が泡を吹いていて、その泡が夕日と重なり、とても美しい光景となっていた。
「きれいだなあ」
あまりの美しさに、感嘆の声を漏らす。
そんな時、視界の端に何かポケモンのようなものが見えた。しかもそのポケモンの方をよく見ると、そのポケモンは倒れているようだった。
「君、大丈夫? 」
僕はそのポケモンに近付き、体を軽く揺さぶりながら声を掛ける。
このポケモンはどうしてこんな所に倒れているんだろう。もしかして海を流れて来たとか?
でも体は湿ってなさそうだし……。
僕はそのポケモンの顔をまじまじと見つめながら、思案する。
「う……」
そのポケモンは小さな呟きとともに、目を開いた。
「あ、気が付いたんだね。良かった」
そのポケモンが意識を取り戻したことに安心し、ほっと胸を撫で下ろす。
「僕はライト・スパイラー。君は? 」
しかしそのポケモンはその問いには答えず、黙って僕の顔をじーーって見つめていた。
「あ、あの僕は顔に何かついてる? 」
僕は少しそのポケモンを不審に思いながらも再び話し掛けた。
「別に……」
今度はちゃんと答えてくれたが、無愛想な子だなあと思う。
「君、ここで何してるの? 」
僕はそのポケモンがここで何していたのか気になったのと、会話を繋げて見たくなったのとで尋ねた。
何となくこのポケモンと会話を繋げた方がいい気がしたのだ。
「知らないわよそんなこと」
彼女は見るからに不機嫌そうな顔で言った。
「知らないって……。自分のことでしょ? 」
思ったことをそのまま言葉に出したので、少し語気が荒くなってしまった。
「だって、何も覚えてないから」
「覚えてないって、もしかして記憶喪失か何かってこと? 」
僕は驚愕で声を裏返しながらも聞き返す。
「名前がアン・テトリアートってことと、元人間だったってことは覚えてるけど。それ以外は何にも」
人間! ?
「でも君どう見てもピカチュウだよ? 」
僕はまたもや驚愕で飛び上がりそうになってしまう。
さっきから驚いてばかりだが、目の前にいるピカチュウに私は元人間で記憶喪失だ、と言われれば驚くのも無理はないと思う。
「そんなはずないでしょ」
彼女は海に自分の姿を映し、自分の姿を見ようとする。そして海に映った自分の姿を見た瞬間、先程までの無表情が一転、驚きの色を示していた。
「どういうこと……」
彼女の驚きようから見て、嘘を吐いてるとは思えなかった。
「ね、ねえ」
彼女を元気付ける言葉を掛けようとしたが、それは僕にぶつかってきた誰かによって遮られてしまう。
そして、僕の持っていた宝物が転げ落ちていった。
その宝物をズバットとドガースの2匹が拾う。
「これ、お前のだろ? これは貰ってくぜ」
「あっ……」
ズバットとドガースに僕の宝物は取られたことはわかった。でも怒りより、恐怖の方が強く感じてしまって、すぐに言い返すことも奪い返すことも出来なかった。
「てっきりすぐに奪い返しに来ると思ったが。何だ、動けねぇのか。行くぞ、ズンク」
「待てよ、チタ。じゃあな、弱虫君」
2匹は僕が何もしないのが分かると、すぐに海岸の洞窟の方に走っていった。
どうしよう、あれは大切な宝物なのに。
悔しい。けれどもあの2匹に取り返しに行くのは怖い。
ああ、僕って本当に意気地なしだな。
僕の脳裏に両親や兄弟から言われた言葉が浮かぶ。
「ライトお前のような意気地なしの落ちこぼれは今すぐこの家から出て行け」
「ライトのような意気地なしで落ちこぼれなポケモンが兄だなんて、本当に最悪。私の恥だわ」
「ねえ聞いてるの」
彼女は僕が昔のことを思い出している間、声を掛けてくれていたらしい。
「ご、ごめん」
咄嗟に出て来たのは謝罪の言葉だった。声を掛けてくれたのに、聞いていなかったのは申し訳ないことだと思ったので謝る。
「奪い返しに行かないの?」
「出来るならそうしたいけど、僕には無理だよ」