03
時を3日前に戻してみよう。
「旦那様!旦那様!」
執事のフタチマルがやけに騒々しい。
「五月蝿いぞ!一体なんだ?」
「ハァ…ハァ…こんなものが届いておりました…」
フタチマルが差し出したのは一通の手紙。確かに宛名のところには《ニョロトノ殿》と達筆な字で書かれている。が、差出人のところには何も書かれていない。
「はて、こんな字は見たことがない。一体誰からだ?」
「旦那様宛の手紙の筆跡が誰の文字かは大体わかるのですが、この字は初めてみました。」
とりあえずニョロトノは封を開けて中の文面を読んでみる。
《ニョロトノ殿
新月の夜、おうじゃのしるしを頂くべく参上致します。》
「奴だ!怪盗クロだ!」
そう。彼は数年前に闇夜に紛れてやってきた《怪盗クロ》を名乗る一匹のブラッキーにみずのいしを奪われた。それは確かにニョロトノが若かったころ、本当はニョロボンになりたくて無理矢理イーブイから横取りしたものだったが…。でも、今回のおうじゃのしるしは違う。家宝である。
「今回は奴に奪われる義理も何もない!お前たち、死守するのだ!」
ということでその日から屈強な防犯設備を導入した。で、今に至る。
「怪盗クロ、かかってくるがいい!貴様の野望なんぞぶっ潰してやる!」
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一方のアサヒ。闇夜に紛れて歩くこと30分。湖にたどり着いた。湖の名前はジャックレイク。直径が大体3キロ位だろうか。その対岸に見える屋敷が本日のターゲット、ニョロトノ邸である。
エーフィという種族柄、この時間の活動は弱いのだが、
「生活の為だ」
そう自分に言い聞かせて、湖の岸辺を進む。
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そこから更に20分、屋敷からおよそ500m位に近づいた。ここから屋敷の正門の様子は良く見える。ざっと数えて30人位の警備員があっちこっち右往左往しながら警備をしている。まだ、アサヒの事には気づいてないようだ。
「始めよう。」
そう言ってアサヒはまた少し屋敷に近づく。
アサヒの犯行スタイルは[ねんりき]の遠隔操作である。
まず、表にいる警備員に対し
「[ねんりき]。」
警備員を包んで宙に浮かす。
「うわうわうわっ!」
「な、なんだ!?」
突然宙に浮いた警備員が驚きの表情を隠せないうちに警備員を湖の遠くへ吹っ飛ばす。
そして、建物の極限まで近づき[ねんりき]でお目当てのおうじゃのしるしをこっちに持ってくる。屋敷の内部構造は新聞や実地調査などで把握済みである。どこにあるかを探し当てたらそのまま一番近くの窓やドアから敷地外に出す。その様子は中で見ているとおうじゃのしるしが独りでに宙に浮いて動いているのだから皆驚きである。ニョロトノ自身もただ見ているだけだ。
こうしてお目当てのおうじゃのしるしに傷をつけることなく盗み出す事に成功したのである。
盗み出したおうじゃのしるしは[ねんりき]でフワフワ浮かせながら、アサヒは闇夜に紛れて戻っていった。現場に《怪盗シロ》と書かれたカードを1枚残して…。