01
「だからこの方程式の解はx=3。重解になるぞ。続いて(2)は…」
ここは《星の里》にある村立学校の中学3年生の教室。教壇に立って授業している一匹のブラッキー。そう。モフである。彼は今、教育実習としてここに立っている。しかも、ここにいるのはモフだけじゃない。
「しかしまあオレたちがこっち側に立っているなんてな…。ソラ、想像できたか?」
「ううん。そもそも学校にこうやっていることが想像できなかったよ。」
一緒に教育実習生としてフレイムとソラも来ている。数ヶ月前には、グランとドンも来ていた。さらに、ここの学校の常勤講師としてエンもいる。アクアも他の小学校に赴任した。
何故皆がこのように教職に従事しているのか。それは、皆の《身分に左右されずに平等な社会を作る》という目標の為である。それは貧民街出身のフレイムとソラ、あくタイプのグランとドン、そして人生の転落を経験したモフの願いでもある。
平等な社会の足がかりとしてまず自分たちができることは教育だと考えた皆は教員免許を取得するべく頑張っているのだ。いずれはクラウンビレッジの様なあまり経済状況が良くない街でも教育を受けられる様にしたいのだ。
では、視線をモフから生徒に移そう。
「えっと…アサヒ君起きて!」
アサヒ、とモフに呼ばれたエーフィが眠そうな顔をさせながらのそりと顔をあげる。どうやら居眠りこいてたのを起こされたようである。
「ああ…すみません。」
謝罪もそこそこにノートをとり始める。しょっちゅうある光景なのだが、そんなアサヒの様子がモフには気になった。
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その日の食卓。モフはエンにアサヒの事を聞いてみた。一応職場の上司だし、何か知ってるだろうと踏んだのだ。
「ああ、あの子震災孤児なんだって。」
「震災孤児?」
震災。4年前にこの村を襲った大地震である。その地震自体ではほとんどの建物が倒壊しなかったのだが、村の四方を囲む山々にある採石場が崩落。多くの労働者が犠牲になった。
聞けば、アサヒは生まれたときに母親を亡くしてから炭鉱マンの父親に男手ひとつで育てられてきたそう。
「でも、父親は地震による採石場の崩落に巻き込まれたんだ。」
「引き取ってくれる親戚とかはいないの?」
「居るには居るそうだが海外にいるらしい。俺たちも施設を紹介したりとか色々してはいるんだが進展なしだな。」
「確か生活費を稼ぐためにアルバイトしてるんじゃなかったっけ?」
「こういう事情だから黙認しているんだが…あまり好ましくないよな。」
アサヒに関してはかなり複雑な事情を抱えてるようだった。