12
翌日から家族の新生活が始まった。
「おにいちゃんだあれ?」
エンの息子のモコは自分が寝ている間に1人増えていることに気づいた。
「ボクはアサヒ。今日からこの家で一緒に暮らすんだ。よろしくね。」
「ぼく、モコ。ねぇおにいちゃん、あそぼ!」
それでもすぐにアサヒを家族として受け入れたんだろう。一緒に仲良く遊び始めた。
朝の新聞配達のバイトをして(これについてはライが続けることを認めた)、皆で朝ご飯を食べ、学校に向かう。
学校生活でも変化があった。いっぱいあるが、第一はアサヒが居眠りを一回もしなかったことだろう。
「アイツ、どうしたんですか?」
「やたら授業に集中してるのよ…。」
「エンさんなんかしたんですか?」
昨日の《アサヒ救出大作戦》に参加していないフレイムまでもがそう尋ねる。そう聞かれるとエンは決まってこう返す。
「コイツもやる気出したんですよ!」
そして、教室の中で1人になりがちだったアサヒがクラスメイトと楽しそうに外でドッジボールしてるのを見て、本当にコイツ変わったな…と思うモフだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それからしばらく経った。モフの教育実習最後の日である。実は大学に行くのに隣町で一人暮らしをしているのだが、そうすると当然モカにしばらく会えない。今日はデートである。
「モフちゃん!」
待ち合わせは前回同様船乗り場。職員室の片付けをしていたモフ。モカを待たせてしまったようである。
「ごめんモカちゃん、待たせちゃって…」
「いいよ。さ、行こ!」
今日のデートコースは船のクルーズコースである。モフのなけなしのバイト代を全て費やしてなんとかして買ったチケット。川を下って大都市の夜景を見ながらの食事である。
「モフちゃん太っ腹!だけどいいのかな?モフちゃん生活出来なくなっちゃうよ?」
「頑張って働けばいいさ!そんなことよりも2人で過ごす時間の方が大切だろ?」
実際のところこのクルーズはかなりの値段だ。でも、それだけモカを大切にしているのだ。
クルーズは最高だった。夜景は超キレイだし、ディナーも最高。2人とも大満足で村に戻ってきたのは9時を過ぎていた。
「夜景キレイだったね。あれだけのお金を払って見る価値はあったなあ。」
「本当だよね。ありがとう!」
モカに感謝されて満更でもない様子のモフ。
と、ここでモカがこんな事を言い出した。
「ねぇモフちゃん。夜景もキレイだったけど、これから星空を見に行かない?」
珍しいこともあるもんだ。モカからデートの提案するなんて早々ないことだ。断る理由もないし、2人はいつもの高台に向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あれ?モフとモカちゃん?クルーズは?」
「終わったから一緒に星を見に来たんだ。」
案の定そこにはエンをはじめとする家族の面々がいた。
「じゃあ2人を邪魔しちゃ悪いから俺たちは…」
「アサヒ!」
ちょっと遅れてやってきたモカがアサヒの元へ駆け出す。
「よかった…やっとあなたに会えた…」
「えっ…と…」
状況が全く理解できない皆はポカーンとしている。
「ごめんなさい。ボク、あなたのこと存じ上げないんですが…」
「ああ、そうか。あの時は赤ちゃんだったもんね…」
モカが改まってアサヒの前に座る。次の瞬間、モカの口から発せられた言葉に、皆は言葉を失ってしまった。
「私は…あなたの姉です。」