10
「怪盗シロ…一体何者なんだ?本当にアサヒなのか?」
高台から星を見上げるのはエン。4年前、教師になって初めて担任を持ち、色々と試行錯誤を繰り返してきた。進路もそうだし、クラス運営もこっち側としては初めてだらけ。その矢先にアサヒの問題である。新米担任としてはもういっぱいいっぱいだ。
そんなエンを癒してくれるのはここから見上げる満点の星空である。辛いことを抱えてきても「また頑張ろう」って気持ちになれる、そんな素敵な場所なのだ。
「大丈夫。アイツはちゃんと帰ってくる。ちゃんと…ん?」
空を見上げていたエンの視界に一つの影が見えた。
「あれは…ソラか?ってことは背中に乗ってるのは…」
影が徐々に近づいて来るに従い、その姿は明らかになってくる。フライゴンの背中に乗ってる2つの影――ブラッキーとエーフィ!
「モフ!ソラ!アサヒ!」
エンは炎を噴き上げて自分の居場所を知らせる。それに気づいたソラは側に着陸した。
「お前達…ケガはないか?」
「ああ、コイツもピンピンしてるぜ。」
モフがあごで指し示したのはアサヒ。どことなく担任に怯えているようだ。
「エン先生…」
「バカ野郎!!」
そんなアサヒのことをエンは一喝。アサヒはビクッと体を小さくする。
「ごめんなさい…」
「お前…どれだけの人に迷惑かけたんだよ!……心配したんだぞ……」
エンはアサヒのことをギュッと抱きしめる。ビビってたアサヒもエンのモコモコした体毛に顔を埋めてすごく安心した様子。ホロリと涙をこぼす。
「ごめんなさい…」
「バカ者が…」
そんな光景を見て、モフもソラもやっぱり先生っていいな、と思った。
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全てはエンのこの一言から始まった。
「アサヒ、家で飯食ってくか?」
聞けばやっぱりまともに食事を摂れてないそうだ。バトルのセンスは十分だが小柄で華奢な体では全く強くなさそうである。
初めは勿論断った。これ以上エンに迷惑をかけたくなかったから。でも、エンに半ば強引に自宅に連れてこられ、今晩はお世話になることにした。
「子供が寝てるから静かにな。」
エンがそう注意して4人はゾロゾロと家に入る。
「グレイス、ただいま。」
「ああ、エンさん。お帰りなさい。えっと…そこのエーフィ君がアサヒ君?」
「はい…初めまして。先生にいつもお世話になってます…」
「エンの家内のグレイスです。よろしくね。」
簡単な自己紹介を済ませると、エンがカクカクシカジカ説明する。話を納得してくれたグレイスは台所へと向かった。エンもその後をついて行く。グレイスを手伝うようだ。
一方のモフとソラとアサヒはダイニングへ。そこには晩酌を楽しむライがいた。
「やあ、君がアサヒ君だね。私はエンとモフの父親のライだ。よろしく。」
ライはお酒の上手な飲み方を知ってるから、全然酔っ払ってない。元々親しみやすい人だからアサヒもすんなり馴染めた。アサヒも結構積極的に喋る。
「お待たせしました。こんなものしか作れなかったけど…」
奥からグレイスとエンが料理を持って出てきた。
トンと皆の前に置いた料理――それはうどんだった。
「いただきます…」
早速手をつけるアサヒ。一口、二口…と食べ進めていくにつれてポロポロと涙を流す。
「ど…どうした!」
「腹痛めたか?」
「いえ…とても美味しい…。美味しいし、こうやって皆で食事できてとても嬉しい…」
そう言ってうどんをすするアサヒ。すすってはホロリ、すすってはホロリの繰り返し。
「ごちそうさまでした…」
ようやく完食したのは、皆が食べ終えてからしばらく後だった。
「美味しかったです。それじゃボクはこの辺で…」
アサヒが帰ろうと席を立ったその時だった。
「お前、これからココで暮らさないか?」
エンだ。
「もしお前がコソ泥稼業を辞めるって言うなら、一緒に暮らそう。」
「実はウチの皆で相談してたんだよ。君にとっては初対面の人から何をいきなりって思うかもしれない。でもね、私たちは君のことをほっとけないんだ。」
ライも続く。
「…………いえ、皆さんにあまり迷惑掛けたくないんで………。」
アサヒは回れ右をして玄関の方へ向かう。そんなアサヒを見て、何とかしなきゃという思いがモフを動かした。
「家族になろうよ!」
ピタッとアサヒの足が止まる。
「迷惑掛けるとかなんとかなんて関係ねぇよ!だって家族ならそんな謙遜は要らないんだもん。お前を家族の一員として一緒に暮らしたい。」
「………本当に良いんですか?」
「ああ。大歓迎だ。」
モフのその言葉を聞き、アサヒは涙を拭った。そしてこっちを向いて笑ってこう言った。
「これからも…お世話になります!」
こうしてアサヒは家族の一員になったのである。