09
「ねぇクロ。止めを3人刺さなくて良かったの?」
村に戻る途中、何気なくソラがモフに尋ねる。そりゃあそうだ。モフからグランとドンという仲間を奪った奴だ。勿論、モフにとっても許せるような奴ではない。
「ああ。まあ本心はできるならしたかったけどさ…。でも今回の目的はアサヒの救出だ。ラインに止めを刺す事じゃない。ついでにこれ以上罪を重ねて先生になれなくなることの方がずっと辛い。」
「フフっ。クロらしいや。」
その後はモフの彼女のモカの話で花を咲かせる。しかし、ただのノロケ話ではない。
「そう言えばこないだモカちゃんが船着き場でバイトしてたよ。」
「ん?船着き場?モカちゃんは花屋じゃなかったか?」
「掛け持ちしてるんだって。なんでも生活費以上にお金が必要なんだってさ。」
彼氏なのにそういうことを全然知らなかったモフ。ちょっと恥ずかしい。なんでだ?ってモフが聞き返そうとしたとき。
「…う…ううう……」
どうやらアサヒが目を覚ましたようだ。
「シロ?お前大丈夫か?」
「ええ何とか…ってえっ!?」
「?」
アサヒが自分の顔を見た瞬間おっかなびっくりな表情になるアサヒ。モフからしてみれば顔を見られた瞬間「えっ!?」とか言われたからちょっと凹む。
「なんだよいきなり…」
「いやだって先生…」
「先生って…まさか!」
慌てて自分の顔を確認する。しかし案の定というかまさかというか。
「仮面が無い!」
「ええっ!?」
「どっかに落としたのか?」
「ひょっとしてさっきの[すなあらし]で巻き込んじゃったんじゃ…」
「いや、だってトレードマークの帽子はあるぜ?」
「じゃあ一体…」
そんなモフとソラのやりとりを見ていたアサヒがクスクスと笑う。
「な…なんだよ…」
「いやだって…いつも冷静なモフ先生とソラ先生がこんなに慌ててて何かこう…普段見ない一面が見れて不思議って言うか面白いって言うか…。ボクも仮面取ります。」
こんなアサヒを見るのは初めてだった。
「オレたちもお前の笑顔なんか普段見ないな。普段は授業中は居眠りしてるか、休み時間は本を読んでるか…だな。」
「フレイムなら見ているんじゃない?流石に体育の時間ぐらいは楽しんでるでしょ。」
こんな風に話している時間がアサヒにとって幸せだった。両親を亡くし、ずっと一人ぼっちで暮らしてきた自分にようやく理解してもらえる人ができたような感じ、ホロリと涙をこぼす。
「泣いてる暇はねーぞ。」
そんなアサヒをみてモフはそう声をかける。思わずアサヒは「へ?」と間抜けな声を出してしまう。
「今から担任の所いくぞ。これから面談だ。」
「嘘だぁぁぁぁぁぁっ!!」
静寂な夜空に不思議な声が響いたとか。