後編 苦闘の末に
《第104問 sin15°の値を求めよ》
「なあクロ。俺、こっから無理なんだが…」
「オレも…。sin30°が1/2だから半分の1/4って思ったけど選択肢にねーし…。」
モフとフレイムは完全に行き詰まってしまった。もう2人には協力プレイの範囲を超越してしまったようだ。
「2人ともどうし…あっ。これはまだ簡単だよ。加法定理を使って解くんだよ。
sin15°=sin(45°-30°)だから…答えは√6-√2/4だからAだよ。」
難なく解いていくソラに何も言えなかったモフとフレイム。ソラは地頭が良く、更に努力家なのだ。それじゃあ難なく出来ちゃうのも頷ける。だからこそ…
「あいつ、オレと同じ授業を受けてるんだよな?」
「ああ…」
「「あ"ー!超悔しい!」」
さらりと解いたソラを追いかける。
《第111問 相異なる5この玉を輪に並べる方法は何通りあるか。》
「これは円順列だから…(5-1)!=24。だからAの24通り。」
《第123問 同じ形の赤玉2個と白玉4個が入っている袋から任意の3個を取り出すとき、3個とも白玉である確率を求めよ。》
「これはあたしに解かせて。起こりうる全ての場合の数は
6C
3=20。3個とも白玉である場合の数は
4C
3=4。だから求める確率は4/20で1/5。Bだね。」
ここまでついて来ていたアクアも参戦する。
《第136問 △ABCの面積S=6、AB=4、AC=3√2の時の∠Aの大きさを求めよ。》
「今度は俺だ。っても公式を逆に辿りゃあいいんだろ?1/2×4×3√2sinA=6。sinA=1/√2だからA=45°!って思ったけど、三角形だからA=135°も答えだ!つまり@だな。」
エンも簡単に解いていった。
《第147問 △ABCで、a=13、b=14、c=15のとき、その面積を求めよ。》
「あっ!これはこないだ復習した!2s=a b cって置くと、s=21。ヘロンの公式を使って…S=84!B!」
案外フレイムも出来ている。正月早々勉強にヤバさを感じたモフであった。
そして…
《第150問 K高校の陸上トラックは1周200mである。Aさん宅はK高校から1200mの距離の所にある。Aさんは陸上トラックを何周すれば家に帰れるか。》
「よし、ラスト!お?これならオレでも行けるぞ。
1200÷200=6だから6周!@だ!」
おかしい。ラストにしては簡単すぎる…。エンは全力で考えて閃いた。
「さあ!ラストの扉だ![アイアンテー]…」
「違う!」
エンの声でモフは扉を空ぶった。で、そのまま床に体を叩きつけてしまった。
「イテテ…エン兄なんだよ!あってるだろ?Aだと7周で1400mだし…Bだと10周で2000m。問題を満たさないよ!」
「いいから時間切れまでこのままだ。理由は後で教えてやるよ。」
モフは何か言いたそうだったが、エンの「信じてくれ」の一言に完全に信頼していた。
『10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…0。』
ここで時間切れ。ルール通りなら下に落っこちる事になっているが…
パンパカパーン!
けたたましいファンファーレが鳴り響くと、床がパカっと開いた。勿論お約束の通り下の階に落ちた。しかし…
「もふ」
落っこちた所はマットの上。どうやら助かったようだ。
「皆大丈夫?」
「ええ…何とかね。」
とりあえず皆は立ち上がる。問題はないようだ。その代わり、目の前には…
「…エレベーター?」
そこにはこんな張り紙もされていた。
《おめでとうございます。150問正解です。こちらのエレベーターで最上階にお上がり下さい。》
「乗りゃあいいのか?」
「そうみたいだね。」
やっとこさ立ち上がった皆はエレベーターに乗り込んだ。
「エン兄。さっきの問題はどういうことなの?」
「あれか?だって陸上トラックを何周してもそこをグルグル回ってるだけで家には絶対帰れないじゃん。6周走ろうが10周だろうがそこはずーっと学校の敷地内だろ?」
「あー!なるほど!」
「さすが兄さん。」
モフだけでなくアクアも関心する。
そうこうしているうちに最上階に到着した。
「あとは原稿を探すだけだが…」
簡単に見つかった。部屋に1個しか机がなく、その上にペローンと不用心に置かれていた。
「これを奪っても、自分で持ってるのも癪だし…エン兄、フレイム!」
「任せろ。「[かえんほうしゃ]!」」
原稿は2人の炎で粉々の消し炭と化した。
「流石ね。」
背後から声がした。モフがそっちに向くと…
「[マジカルリーフ]!」
「うわっ!」
どこからか飛んできた[マジカルリーフ]がモフの仮面を落とした。
「あなたが進化してから会うのは初めてなんだから、顔をしっかり私に見せなさいよ。」
聞き覚えのある声だ。そう。ライやエン、アクアと同じ位たいせつなの、声がした。
「お久しぶりね。」
「「「母さん!」」」
声の主は3兄弟の母、リーフィアのミドリだったのだ。
「母さん、ずっと何してたの?」
「私、怪盗クロの番記者を任されちゃってね。ずーっとあなたを追いかけてたのよ。」
「そうなの?知らなかった…」
「そうよ…。」
ワンテンポ間を置いて、ミドリは更にこう続けた。
「モフ…もう一度顔を見せて。…逞しくなったね。」
「えへへ!オレだっていつまでもイーブイちゃんでいるつもりはないからね!」
「よく言うよ。未だに一人で起きられねークセして。」
「ゔっ!」
ドッと笑い声が起こる。ディスられてるはずなのに、その瞬間が嬉しかった。
「さあ、帰ろう。父さんがきっと心配してる。」
「そうね。母さんは?」
「私も正月休みとれたし、モフのこと新聞に載せるつもりもないし、帰ろうかしらね。」
「やったあ!早く行こ!オレ、母さんに色んなこと話したいんだ!」
1月2日午前2:59。ミッション完了である。
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朝。家族5人で食卓を囲む。皆で食べるおせち料理の美味しいこと!
「そういえば今日はフレイムとソラの家族がこっちにやってくるんだよね。」
「きっと久しぶりに家族に会えたら嬉しいだろうね。」
家族で食卓を囲む。些細な事かもしれない。でも、こうして皆で過ごすかけがえのない時間がモフにとってすごく幸せなのであった。
おしまい