中編 突入
「お待たせ。なかなか父さんが寝ないからさ…」
「大変だね。」
日付が変わる直前、1月1日22:30。良い子はとっくにおネムについて初夢を見ている頃である。
対して、こんな真夜中に外に出ている悪い子たちはソラの背中に乗ってグレートジャーナル本社にむかった。
「そういえばエン兄も来たんだね。」
「悪いか?」
「いや…。でも、ねえ。」
「うん。兄さんもこういうことするんだって思って。」
真面目なエン。特別な事情を除いては基本的に10:30には寝ている。しかも、反犯罪論者であるエンがこういう犯罪行為に加担しているのだから、モフもアクアも驚いたのだ。ついでを言えば、フレイムとソラもエンの真面目っぷりはわかっているから、2人も同じ反応をする。
「…まあいいさ。さあ、早く行こうぜ。時間になっちまう。」
エンの一言で5人はボチボチ歩き出す。
本社ビルは案外近い。それこそ、エンペルトのアオの《ブルー運輸》の船に乗れば行けるのだが、夜も遅くて最終便はもう行ってしまったのだ。だから歩く。幸いにも道は整備されているから歩きやすい。実際、本社ビルには日付が変わった0:00には到着した。
「ここだ。っとモフいつの間に!?」
「忍法セーラームーンの術。仕事するならこの格好だろ?」
いつの間にか怪盗クロフル装備のモフ。気合十分だ。
「さあ、あと3時間!早く行こうぜ!」
言いながら先陣を切って建物内に入る。と、そこにはこんな立て札が立ててあった。
《正解だと思う番号の扉を進んでください。
第一問 8 3=? @11 A12 B13》
「なんだよこれ」
「ここにこんな風に書いてあるよ。《知的な作戦を多く活用する怪盗クロ殿には、知的な問題をご用意しました。》」
「とりあえず@に進めばいいのか?」
一応8 3=11であるので5人は@と書かれた扉を進む。
《正解。ここでルール説明。各フロア10問×15階分問題があります。間違えたら最初に戻ります。制限時間内に答えられないと、下の階に落ちます。頑張ってください。
それでは第二問。6-2 5=? @7A8B9》
「間違えなきゃいいんだろ?Bだ。」
《第三問 2×3=?》
こんな感じで計算問題が延々と続いていく。1階、2階、3階と進んでいく。
「簡単じゃねえかよ!」
「余裕だぜ!」
こう簡単だと調子に乗り出すのがモフとフレイムの悪い癖。そのつけが7階で回ってきた。
《第63問 sin135°の値を求めよ。 》
「…………。」
三角比。モフの中での三角比の世界はθ=90°のこと、つまり三角定規の素直なやつしかわからないのだ。
「フレイム、パス!」
「いや。これはこないだ授業でやったろ。単位円がこうあって、180-45で135だからこの向きに三角定規を置いてやれば…答えは1/√2だからAだ。」
不真面目そうに見えてフレイムはちゃんと学校の授業を聞いているだけでなく、復習もちゃんとやっているのだ。
かくいうフレイムも次の問題でやられる。
《第64問 2x-3≦3x 2<6-xを解け。》
あれ、これどうすんだっけ。どれかとどれかとで2本連立不等式を作ればいいんだっけ――
フレイムはフレイムで不等式が苦手なのだ。-をつけたら不等号の向きが変わるとか、そういうのが駄目なのだ。
「これはあれだろ?前と後ろで2本連立不等式を立てて…答えはAの−5≦x<1!」
モフだって授業を聞いてないわけじゃない。頑張ってついていこうと日夜努力しているのだ。それはフレイムも同じ。夢の実現に向けて一生懸命頑張っている。しかし、成績がスゴーく悪い。ここからは協力プレイで進んでいく。残り時間は1:25。まだ時間的には余裕がある中で悲劇が起こる――。