01
旅に出ることになった、と言いつつ結局外は真っ暗。
「家に泊まっていきなよ!」
「家族にも一緒に旅に出ることを話したいしね。」
行き場のない俺に対してヒカリとコウキが言ってくれた。その一言に甘え、2人の家に泊まることになった。
初めて《しちゅー》というものを食って、人間って毎日こんなうまいもの食ってるのかと思ったり、人間のお客さんとして扱ってもらった(ヒカリとコウキが俺がポケモンだったことを伏せてくれたってのもあったが。)
てな訳で今はコウキの部屋で《ふとん》に入っている。のだが…
「眠れん。」
今まで藁を敷き詰めてそこに寝ていたもんだから、《ふとん》は圧倒的にあったかいし寝心地は抜群に良い。あれやこれや色々あって疲れてる筈。眠る環境は整っている筈なのに、
「眠れん。」
方や右側を見るとコウキがすやすやと寝息を立てて眠っている。起こすのは何とも可哀想だ。
俺がコウキを起こさないようにそっと外に出た。ちょうど満月が頂点に達した頃だ。
そんな月を見ながら、俺は何でこんな事になったか考えようとした。でも…
「あー!何も覚えてねー!」
『あれ?ミドリも起きてたの?』
ふと隣を見るといつの間にかナエトルがちょこんと座っていた。
「お前、いつからいた?」
『ついさっきだよ。「何も覚えてねー!」って叫んでたとき。しかも僕だけじゃないよ。』
ナエトルが指し示す方向には、ゴウカザルとエンペルトと…
『初めましてだな。オレはムクホーク。ヒカリの2番目のパートナー!そのナエトルのパートナーだな!話は聞いてるぜ。よろしく!』
「ああ。よろしく。」
結構陽気な奴だ。真夜中だっつーのに。
『さて。ミドリ、1つ聞きたいことがある。』
ゴウカザルが一歩前に出てくる。
『お前…何ツーかその…』
『アタシたちと同じニオイがするの。』
うまく切り出せないゴウカザルに代わってエンペルトが言う。
『アタシたちポケモンの言葉がわかる様になるにはかなりの時間を要するって聞いたことがある。それでやっとのことで挨拶がわかる程度よ。でも、あなたはポケモンを持っていない新人トレーナー。それなのにアタシたちの言葉がわかるなんておかしな話よ。』
『お前、メタモンか何かか?』
2人ともカンが鋭い。
「わかった。ちゃんと説明する。」
俺はナエトルたちにも俺に置かれた状況を説明した。まだ幼いナエトルはずっとキョトンとしてたけど、あとの3人はわかってくれたようだ。
『お前…大変だな。』
『記憶がないって…』
「だからって哀れむよう見方をするなよ。俺は元に戻れるまでしっかりと生きてくんだからな。」
『よくわかんないけど、僕たちも全面バックアップするよ!
ナエトルが頭の葉っぱを前に突き出す。そのうえにゴウカザルの右手、エンペルトの右翼、ムクホークの左翼と重なり、俺も右手を差し出す。初めて自分の手をまともに見た気がした。
『よし。絶対にミドリの記憶を元通りにする。コウキとヒカリだけじゃない。俺たちも気合い入れていくぞ!』
「『『『おーーっ!』』』」
ポケモンにも人間にも俺を支えてくれる仲間がいる。そう思えてかなり安心した。
《ふとん》に戻ったらそのままぐっすりと眠りに就いた。