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「あ!もう降ってきたよ。兄さーん!モフ!準備できた?」
窓の外を眺めていたアクアが嬉しそうに叫ぶ。
「まあな…」
「すげー恥ずかしいんだけど…」
そう言って、しぶしぶやって来たのは、頭に角のカチューシャをつけ、鼻に赤鼻をつけた、オドシシのコスプレをしたモフと、口周りに白いつけヒゲをつけ、赤いニットの三角帽子を被った、こちらはサンタクロースのコスプレをしたエン。
「いーじゃん!似合ってるよ♡」
「てか今日はクリスマスだよ?なんで仮装しなきゃいけないのさ?」
「ハロウィン楽しめなかったからいいの!」
((あ…そ…))
「さ!早くパーティーに行こ!」
最早アクアのペースに付いていけてないモフとエンだった。
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モフが星の里に戻って来て2ヶ月。この2ヶ月で村の様子は完全に変わった。
「「「モフ!メリークリスマス!!」」」
「あ!皆!」
1つ目。誰もクロを避けなくなった。それどころか寄ってくるのだ。イーブイの時は人気者だったからそれはその時の名残かもしれない。
「…なんつー格好してんだよ。」
「アクア姉に無理矢理着せられた。」
「でもモフちゃんかわいいよ!」
「そうなのか?」
幼なじみのモカちゃんに言われてまんざらでもない様のモフ。
「オッス!クロ。すげー格好だな。」
「うわぁ。ご馳走がいっぱいだ。みんなを連れてきてあげたいな!」
2つ目。バクフーン改めフレイムとフライゴン改めソラがここ、星の里の学校に親元を離れ、通う様になった。モフの通う学校である。これもモフの要求の1つ。
因みに2人は未だにモフのことをクロと呼ぶ。
「いやー、何だかんだ言ってずっとクロって呼んでたからな。」
「今更モフって呼ぶのもねぇ。」
だそうだ。
同様に、モフも一人称にボクではなくオレを使う。
「なんか慣れちゃったし。しかもこの見た目だから絶対ボクとか似合わないしね。」
だそうだ。
「それでは!皆さんお待ちかね!プレゼント交換を行いますっ!」
司会を務めるライがマイクがキンキン音割れするくらい叫ぶ。
皆1つの大きな輪っかになってどんどん回していく。音楽がなりやんだらそれは止めの合図。
皆思い思いのプレゼントを手に入れる中、モフのプレゼントはとは言うと。
「…手紙?」
早速中を開けて文を読む。そこにはひらがなだけのこんな一文が書かれていた。
《てがみをうけとったら、そとのおおきなもみのきのしたにきてください。》
「何それ?ラブレター?」
「…いや。この字、今までに見たことない。」
でも、どことなく懐かしい感じがした。
「とりあえず行ってくる。」
エンにそう告げて、モフは建物を飛び出した。
「大きなモミの木って言ったってそれらしい人影は…ん?」
あたりを見回してたモフはこっちに向かって歩いてくる2つの人影を見つけた。その時、さっき感じた懐かしい感じが更に強くなる。
「なんだよ…普通に会いにくれば良いのにね!」
そう言って向かってくる2つの人影に駆け寄った!その正体とは…
「グラン!ドン!」
「「クロ!」」
そう。グランとドンだったのだ!
「心配かけて悪かったな。」
「ううん。そんなのへっちゃらだよ。…ちゃんと出所出来たんだね。どこか虐待されたとかない?」
「いやそれがさ、オイラたち結構真面目な受刑者だったらしくて。褒められちったよ。」
「てか受刑者の時点で褒められるようなもんじゃないから。」
2人の息の合ったコントのような会話を聞いているだけで涙が出そうになる。
「さ、2人とも寒いだろ?中に入ろうよ。」
モフは2人をパーティー会場に連れていこうとするが、
「あ…オイラたちはいいよ。」
何故かグランたちは断る。
「何で?」
「そ…それは…」
「俺たちに避けられるからか?」
言葉に困ってるグランに代わり、エンが間に入る。
「どうやら図星のようだな。…っと自己紹介してなかったな。俺はエン。モフの兄だ。2人のことはコイツから聞いている。コイツをここまで逞しくしてくれてありがとう。兄として礼を言わせてくれ。」
頭を下げるエン。グランとドンはここまでされたこともないし、そもそも面と向かって「ありがとう」なんて言われたことないから戸惑う。
「もしそうなら俺たちを信じて来て欲しい。」
「オレも2人にクリスマスプレゼントがあるんだ。そう言わないで来てよ!」
グランとドンはモフとエンに言われるがまま。結局ついていくことになった。でも、その選択が間違えてないということに気付かされる。
「お前…嬉しいじゃねえか!」
この村の変わったところ3つ目。復興の為の作業員ではあるが、あくタイプと共存していること。
グランは目に飛び込んだ光景――マニューラが大人たちと一緒にお酒を飲み、デルビルやポチエナが子供たちに交ざってトランプで遊んでいる――を見て涙を流す。モフは初めてグランの涙を見た。
「これがグランたちが求めていた事だよね。」
「ああ…。まさかこの目で拝める日が来るとはな…。」
「俺たちがやってた事が間違えてないって証明されたな。」
「本当にありがとうな。」
グランに深々とお礼を言われるモフ。何となく可笑しい感じがした。
と、グランとドンが目を合わせてこう言った。
「…なあ、オイラたちの夢を聞いてくれるか?」
「夢?」
「ああ。その…将来的な話だけど、俺たち起業しようと思ってるんだ。」
「あくタイプだなんだは全く関係ない。皆で協力して働ける、そんな社会を作る足がかりにしたい。」
「俺たち今回捕まってるからな。これ以上犯罪行為はできない。時間がかかるかもしれないが、絶対にそんな世界を実現したいんだ。」
「2人とも…。」
2人の言葉に感動したモフとエンと…
「グランさん。俺たちも手伝わせてくれないか?」
「僕たちも同じこと考えているんです。」
フレイムとソラも加わる。だけじゃない。
「何ならお前さんたちも勉強しなきゃだな。」
「この村にいなさいよ。外に行ったら何されるかわからないわよ。」
「お兄ちゃんたちも一緒にトランプしよーよ!」
村の皆が次々に声をかける。
「オイラ、ここまで優しくしてもらうの初めてかもしれない。」
「俺もだ。」
「皆2人をサポートしてくれるってさ。」
また涙を流すグランとドン。
「よし!絶対に皆が仲良く暮らせる世界を作るぞっ!!!」
『おおーーっ!!!』
村の皆の心が1つになった。
新しい世界への扉を今、開こうとしている―――。
おわり