08
深夜、日付が変わる頃。
「エン、いいか?」
「OKだ。お前も怖気づいて逃げ出すんじゃねえよ!」
ここはエンペルト邸の前。確かにバクフーンの言うとおり静かだった。防犯システムすら全く反応しないのだ。
「豪邸っちゃあ豪邸だけど…張り合いが全くないなぁ。」
「どうすんだ?」
「んなもん行かねえとだろ?村を守りたいんだろ?」
「当たり前だ。さっさと行こうぜ。」
エンがドアノブに手をかけたとき。
「待てよ。こういうのは静かにやっちゃあ意味はない。派手に行こうぜ![アイアンテール]!」
クロは思いっきりドアを破る。
「ふーっ!こうでもしねえと多分エンペルトの奴は起きねえぜ。ほら、エン、早く来いよ!」
「お…おう。」
あまりの仰天行動に驚くエン。これもクロの言う作戦なのだろうか。とにかくびっくりした。
2人は契約書を探す。大豪邸なのに警備が全く敷かれてないからもう探しやすくて仕方が無い。二手に分かれて捜索に出る。しかし…
「「ない!」」
隅々までくまなく探したがちっとも見つからない。
「あとあるとすれば…」
「お前たちの探し物はこれか?」
屋敷の奥から出てきたのは…
「そっちからお出ましとは。探す手間が省けたぜ!エンペルト!」
そう。今回のターゲット、エンペルト。その右腕(?)にはしっかりと契約書が握られている。
「そりゃあ、睡眠を邪魔されたからな。」
「おっと。自己紹介がまだだったな。オレはクロ。人呼んで怪盗クロ、只今参上!」
「俺は今回の依頼者、エンだ。」
「お前が右腕に持っているその契約書を奪いに参上した!」
クロはピシッとポーズを決めてみせる。エンもそれに続いてポーズを決める。
「怪盗クロ?聞いたことがあるぞ。金持ちばかりを狙うという…。いやぁ、光栄だなあ。あなたに金持ちとして認めて貰って。」
「エンペルトさん。オレさ、あまりバトルになるのが好きじゃねえんだよ。大人しくその契約書を私てくんねぇかな?」
それは本望だった。エンは相性が最悪、クロも持っている技のタイプが悪い。2人とも、エンペルトに十分なダメージを与えられないのだ。
そんなクロの願いにお構いなし。
「そんなの認められる訳がないだろう。」
「ですよね。じゃあやっぱり力ずくで!」
すぐさま戦闘態勢に入る。
「エン!」
「おう!喰らえ!「[アイアンテール]!」」
2人同時に[アイアンテール]を繰り出す。
エンペルトもそれに反応する。
「無駄だ![はがねのつばさ]!」
エンペルトが[アイアンテール]を防ぐべく繰り出した技[はがねのつばさ]。両翼を白く光らせ、防御体制をとろうとしたときだった。
ひらり……
右腕から契約書が舞い落ちる…
「しまった!」
「それを待ってたんだよ!」
クロは落ちる契約書に食らい付く。地面スレスレのところでスライディングキャッチ!
「言っただろ?オレはお前とバトルにしたくねえって。」
「返せ!」
「依頼の品をそう簡単に返せるもんか!でも…」
改めてエンペルトの顔を見る。目はかなり本気だ。
その顔を見たクロはこう話を続けた。
「オレはお前のことを警察に突き出すつもりはサラサラない。そういう意味ではオレもそっち側の人間だからな。だからこそ、オレはお前とバトルになるのが嫌なんだ。しっかりと話をしたい。その為には…こんなもの要らない!エン!」
ノックの要領で契約書を[アイアンテール]で打ち上げる。
「それをこの世から消し去るのはお前だ!」
「OK任せろ![かえんほうしゃ]!」
「止めろ![ハイドロポンプ]!」
エンペルトが阻止しようとするも…………地上に舞落ちてきたのは、黒く焼け焦げた、ススと言うのが相応しい物だった。