07
2日目。バクフーンとフライゴンは空からエンペルト邸を偵察に向かう。
「あ、あれか?」
「そうみたい。でも、何か変じゃない?」
「確かに。やたらと静かだな。いつもだったら警備員がウロチョロしてたりとかあるのにな。」
そうこう言いながら上空を旋回していると、建物からポケモンが出てきたのが見えた。
「あっ、エンペルトが出てきたよ。」
「どこに行くんだろ。手に花束を持ってるけど。」
「ついて行ってみようよ。」
2人は空からエンペルトを追跡する事に。気づかれないようにそっとついて行く。
「しかし、付き人も付いていないし、狙うチャンスなんかいつでもありそうだぞ。こいつ本当にお金持ちなのか?」
「確かに。クロを連れてくれば3日もかからないで終わってしまいそうだよね。」
そんな話をしているうちにエンペルトは目的地に着いたようだ。
「あれは…お墓?」
「マジであいつお金持ちなのか?」
バクフーンがそう漏らすのもわからなくもない。
お墓、と言っても石を積み重ねられているだけの簡素な作りなのだ。これはクラウンビレッジでもよくやることだ。
2人はそっと着陸して、木の陰から様子を見る。
「エール、ここから見える星空、素敵だろ?チャッピー、お前を連れていくことが出来なかった遊園地がもうすぐできるぞ。そしたら、毎日ここから見えるからな。」
「エール?チャッピー?誰のことだろう?」
「旅人を装って接触するか。」
木の陰から出てきて、ちょっとずつ接近する。
「だーかーら!そこを左に曲がればいいんだよ!」
「ちげーよ!そこを右だろ?」
設定としては、道に迷ってケンカしている2人の旅人である。
「あ!すみません。僕たち星の里に行きたいんですが。道に迷ってしまって…」
「確かに。ちょっと分かりにくいですよね。あの麓の村が星の里だよ。そこを真っ直ぐ進めば村の入口だよ。」
「ありがとうございます。っとひょっとしてお墓参りか何かの最中でした?」
「え?ええ、ちょっとね。妻と息子の墓なんです。」
ここから核心に迫っていく。
「失礼ですが、何かあったのですか?」
「…2年前かな。この辺で雪崩が起こったんです。その時に巻き込まれまして。私は生き残ったのですが、妻と息子は亡くなってしまって…。
恥ずかしい話、虚無感にかられてそれから仕事も手につかず独り。もう未練から断ち切ろうと思って、妻が好きな星空の見えるところにお墓を移しました。で、息子との約束だった遊園地に連れていくことが出来なかったけど、ここから見えるところに遊園地を作ってやろうって思ってね。」
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「…それって、オレが『かぞく』の3文字に弱いってわかってて奴は言っているのか?」
「ンな訳ねーだろ。でも、ちょっと可哀想に思えてきた。許す気はサラサラないけど。」
思わずクロが発した『かぞく』の言葉にエンはピクっと反応する。
戻ってきたバクフーンとフライゴンはクロに報告した。
「クソっ!野郎をとっちめてボコボコにしてやろうと思ったのに。そんな話を聞いちまったから出来なくなるじゃねえかよ。」
「で、どうすんだ?」
「しょうがねえ。皆、今夜行くぞ。エン、とってきて欲しいものがあるんだが…」
クロがそっと耳打ちをする。
「…わかった。すぐに用意しよう。」
エンは部屋から出ていく。
(…兄さんと一緒にいられるのはあと1日か。)
エンの後ろ姿を見ながら、クロは残された時間を感じた。
「家族かぁ。」