03
クラウンビレッジと星の里はそう遠くはない。 あっという間に到着した。
(ハァ…着いちまったか。何でだ?嬉しい筈なのに…)
「クロ、さっきからずっと黙り込んじゃって。らしくないよ。どうしたの?」
「何でもねぇよ。」
「…なら良いんだけど。」
フライゴンは何かを察したのか、これ以上何も詮索することはなかった。
「にしても素敵な村だな。」
「ね。緑があって、川もきれいだしね。」
「夜には世界一とも呼び声高い満天の星空が見られるんだ…そうだぜ。」
(危ない危ない。「見られるんだぜ」とか言ったらオレの故郷がここだってわかって、家族がどうのこうのって迷惑をかけることになる。)
クロがここまで内密にするのはこういう事なのだ。とにかく迷惑を掛けないようにするしかないのだ。
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地上に降りると、クロのよく知っているブースターがクロたちを迎えてくれた。
「お待ちしていました。俺が依頼したエンです。えっと…」
「オレがクロ…です。よろしくお願いします。」
(そうだ。今回は仕事で会ってるんだ。向こうは依頼人なんだから…)
クロは何度も自分に言い聞かせる。
「宿泊先はこちらでご用意致しました。どうぞ。」
案内されたのはアパートだった。
(あれ?ここってあのボロアパートの跡地かな?)
「最近建て替え工事を行ったので中は綺麗ですよ。」
まるでクロの考えを察したかのようにエンが答える。
「今日は長旅お疲れ様でした。どうぞ今日はごゆっくりなさってください。」
部屋まで案内したところでエンとは一旦別れる。エンの姿が見えなくなるや否や、我慢していた物が弾ける。すぐさま部屋に入るとベッドに顔を埋めて泣き出してしまった。
「ごめんねエン兄…。ボク、エン兄に会えて嬉しかったよ…。嬉しかったのに…。」
その様子を見ていたバクフーンとフライゴンはしばらくそのままにしてあげることにした。
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一方こちらはエン。今夜も高台にいた。
(間違いない。怪盗クロはモフだ。アイツ、ちゃんと生きてたんだな。)
その事にホロリと涙を流す。
(でもアイツ、あの手紙に書いていたことって本当だったんだな。)
あの手紙に書いていたこと――「これ以上皆に迷惑をかけるようなマネはしたくない。」
その言葉が行動に現れたのかどうかは知らないが、仮面を被り、一人称を変えてまでしてエンたちとの完全なる無関係さを見せる。それはあの時、ボコボコに殴られた時のことを覚えてるからだろうか?
(あくまでも依頼のためにやって来た一匹のブラッキーなんだよな…。しばらくアイツの[赤の他人ごっこ]に付き合おう。アイツとはゆっくり話がしたいし。)
そう、割り切ることにした。最優先事項は「村を守ること」なのだから…。
兄弟それぞれ、心にボッカリと大きな穴があいた。