01
ところ変わって、ここ《星の里》では事件が起ころうとしていた。
事の発端は2ヶ月前。
「うーん、実に素晴らしい!この村素敵な場所ですね!」
そう村をべた褒めするのは、山を超えたところに住んでいる大金持ちのエンペルト。
「ありがとうございます。この村は何にもないのですが、満天の星空だけは売りでして。いかがでしょうか?」
「いやもう、何でしょう。言葉が悪いですがヤバイに尽きますね。こんな素敵な星空を見れるだなんて、羨ましいです。」
これでもかってくらいに褒めるから、村長をはじめ一緒に村を回っているメンバーは嬉しくてしょうがない。
「そうだ!この土地買います。こんな素敵な場所を見て、買わないなんて手はないですね。」
「本当ですか!?ありがとうございます。」
すっかりいい気になってしまい、村長は超格安で「この土地」を売ってしまった。
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「モフ…。お前は一体どこにいるんだ…。」
ところ変わってここは村一番の高台。そこから星空を見上げる一匹のブースター――クロ、もといモフの兄、エンだ。
モフが家出をしてからもうすぐ半年近く。依然として見つからないままで、警察は捜索を諦めた。今、家族だけが合間を縫って探し回っている。
「兄さん。やっぱりここにいたんだ。」
「ああ、アクアか。」
やって来たのは同じくクロの姉、シャワーズのアクアだった。
「本当に星を見るの大好きだよね。」
「ああ。この空を見ていると元気になれるからな。っとどうしてここに?」
「そうそう。山を越えた街に行ってきたんだけど、面白い話聞いてきたの。」
「面白い話?」
「そう。怪盗クロって知ってる?」
「いや、知らないけど…クロって言う事はまさか…」
「そこまではわからないけどね。でもね、この怪盗、
不思議なの。」
「不思議というと?」
「権力者ばかり狙うの。何でかなって聞いたら、その盗んだ物は必ず元の持ち主に返すんだって。というのも依頼される物は、スラム街とかに住む身分や立場の低い人達が権力で奪われたようなものだからなの。」
「ふーん。まさに立場の低い人達の味方か…。どんなポケモンがそういう行動をしているんだろう。」
「ブラッキーだって。彼もあくタイプだから身分が…」
「待った!ブラッキーだって?クロだって!?まさか…」
「否めないけど…モフにそんなことが出来ると思う
?人一倍優しい子だよ。盗みだなんて絶対にしないよ。」
「……そうだよな。俺の思い過ごしだな。」
エンは後一歩で手がかりのしっぽが掴めそうだったのだが、悔しかった。
「まさかな…」
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このところやけに村が騒がしい。あちこちにカイリキーやハリテヤマ、ドッコラーにドテッコツなどのポケモンがやってきては工事を進めていく。
そして遂に悲劇が起こる。
「オラオラオラオラ!この村は全面工事予定地だ。さっさと立ち去れ!」
住人には全く訳がわからない。なぜこんなことになっているのか?
「立ち退きだァ!?ふざけんな!ここは俺たちの村だ!誰の許可でこんなことしてんだよ!」
村議会議場に村中のポケモンが集まって、抗議を繰り広げる。
「それは村長さん、あなたじゃないですか?」
やって来たのは…
「エンペルトさん!これは一体どういうことですか?」
「いや、だってサインしたじゃないですか。ほらここに。」
エンペルトは《誓約書》と書かれた紙を取り出すと、小さな字で書かれた注意書きを指差す。
「《私はこの村に関する一切の権利も放棄し、村民と共にこの村から移住、現在の村の100%をレジャー施設としての工事を行うことを認めます。》
ね、これあなたの字でしょ?ちゃんと書いてあるでしょ?約束には従って頂かないと…」
「こんなの無効だ!金は返すから契約解除だ!」
「小賢しい。テメェらみたいに権力も何もないイーブイちゃんたちがキャンキャンキャンキャン騒いでも何にもなんないの。残念でした〜。」
そう言ってエンペルトは会議場を後にする。
「くっ…すまん皆…。私の不注意でこんなことになるとは…。」
村長がみんなに対して土下座をした。
「顔をあげなよ村長!」
「あんな奴ら、皆で戦ってボコボコにしてやろうぜ!」
「でもどうやって?」
確かにそこだ。さっきもエンペルトが言っていた通り、村の皆は土俵に上がれていないのだ。
(少しでも権力があれば…)
皆がそう考えていたのに対して、エンは「権力」って言葉に引っかかる。
(権力…。ひょっとしたら!)
「怪盗クロに守ってもらおう!」
「怪盗クロ?」
「権力に屈しない、俺たちの味方だ。彼ならきっと守ってくれる!」
すぐさま手紙を書き上げると、怪盗クロの使者だと名乗るフライゴンに渡す。
「怪盗クロ…。モフかどうかなんてこの際どうだっていい。俺たちの村を守ってくれ…。」