三章 大切なもの
02
翌日も、クロは採石場で働いていた。[あなをほる]を覚えそうなくらいにトンネルを掘り進める。

「おーい!クロに依頼だよ!」

フライゴンが手紙を持ってきてくれた。

「サンキュー!」
「ねぇ、何て書いてあるの?」

村の皆は十分に教育を受けてないから、識字率が圧倒的に低い。

《怪盗のクロさんへ

大変です!僕のお父さんが盗まれました!
僕のお父さんを取り返して!!!

グリーンシティのビッパより》

「お父さんが盗まれましたって…誘拐か!?」
「でも、グリーンシティだったら否めないかもね。」
「どういう事?」
「グリーンシティっていうのは、ラインみたいな大富豪も居れば、ここみたいなスラム街だってある。貧富の差が半端ないんだ。
しかも、グリーンシティのメガニウムってのは、貧乏人を誘拐して働かせることで有名だよ。その環境は劣悪だ。ただばたらきで、食事も水もまともに貰えない。流石のグリーンシティでも、ここまでやるやつはメガニウムだけだよ。」
「とりあえずメガニウムの所に行ってみよう。工場の様子を見てみないとわからない。」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ここがメガニウムの所有する工場だよ。」
「オイオイ…ちょっと待てよ。ここってあの超有名な[メガ工業]じゃねえか!」

そう。ここは業界最大手の家電メーカー[メガ工業]の本社兼工場なのだ。

「役所でもないのに街の真ん中に工場があるんだな。」
「この街は[メガ工業のお膝元]って呼ばれるくらいだからね。街の名前も数年前に変わったんだよ。」
「あ、クロ、フライゴン、あれ見て。」

工場の前でビッパと二匹のベイリーフがやりとりしていた。クロたちはビルの影から様子を見ている。

「ったくうるせェな!ここはガキが来るような所じゃねえんだよ!とっとと帰れ!」
「嫌だい!お前ら、僕のお父さんを返せ!」
「やかましい!とっとと消えろ![つるのムチ]!」

身体が小さなビッパは吹っ飛ばされる。

「オトナに歯向かうとこうなんだよ!覚えとけ。」

ガチャン!

ベイリーフは工場の門を閉めた。重々しい音が響く。
刹那、マグマラシとフライゴンはビッパの元に駆け寄る。

「こっちに連れてきてくれ!」

あまり表に出られないクロは、3人を路地裏に誘導する。

「酷い奴らだ。こんな子供相手にムキになりやがって恥ずかしくねえのか?」

そう言いながら、クロはビッパの傷の手当てをする。

「[メガ工業]はこの街の政治も牛耳っているからね。どんどん貧困層が辛くなるだけだよ。」
「独裁者って訳だよね。」
「何とかならないかな?」

口々に話す3人。

「…うっ…ううぅ……」

その時、ビッパが気がついた様だ。

「っと、ここは?」
「路地裏だよ。君がベイリーフたちにやられるところ見てたんだ。っと、自己紹介しなきゃ。僕はフライゴン。」
「俺はマグマラシ。」
「そしてオレが怪盗クロ。オレに依頼したのは君だね?」
「うん。僕はビッパのハイル。クロさん、お父さんを必ず助けて!」
「勿論。約束だ。」

大切な家族を奪うだなんて、そんなことは許してたまるもんか。心に誓った。




ちゃ ( 2013/10/18(金) 16:30 )