三章 大切なもの
01
「おーい!それこっちに運んでくれ!」
「はい!」

時刻は朝7:00。クロは採石場でバリバリに働いている。

「ふーっ!疲れた。でも、仕事のあとに食べる朝飯が美味いんだよな! 」
「でも、休んでなくて良いのか?昨日の夜も依頼をこなして来たんだろ?」
「いやぁ、だってタダでこの村に泊めて貰って申し訳ないよ。これぐらいしなきゃ!お前たちこそ寝てなくて平気か?」
「これは本来は僕たちの仕事だよ。」
「ああ。これちゃんとしないと、俺たち村長に怒られちゃう。さ、フライゴン。これ運ぶぜ。」

そう言って二人はトロッコを運転していった。

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「「ただいまッ!」」
「兄ちゃんお帰り!」

そう言ってマグマラシに飛びつくのはヒノアラシ。まだ小さすぎて働けない子。だからこの家の大切な収入源は、12歳のマグマラシのと父親のバクフーンの稼ぎが支えている。そう考えると、こいつって本当にスゴイヤツだな、とクロは思う。
クロがこのクラウンビレッジに活動拠点を移してから、村での生活はマグマラシ一家にお世話になっている。両親もマグマラシもヒノアラシも、あくタイプのクロを拒絶する事ない。
クロも家族の一員かと錯覚してしまうくらい、皆が優しくしてくれる。

「「「「「ごちそうさまでした!!」」」」」

今日も皆で食卓を囲んでの夕食。確かに稼ぎも少なく、食べる量は今までよりも格段に少ない。でも、こうやって皆で食卓を囲んで食べる食事が何とも言えないくらい美味いのだ。

「おばさん、いつもありがとうございます。何にでも至れり尽せりで…」
「止めてよそう言うのは…。あなただってこの家の一員なんだよ!」

食事の後の団らんの時間。これまでの感謝を伝えた。

「そういえば…。気を悪くさせちゃ悪いけど、クロの家族は?」

バクフーンさんがクロに聞く。やっぱりな。クロは思った。

「あ、すまんな。今の話、無かった事に…」
「いえ。この家にお世話になっている以上、やっぱり伝えなければいけませんね。マグマラシも聴いて欲しい。」

クロは自分の過去を話した。ブラッキーに進化したこと、家族を守るために一人で家出をしたこと…。

「そうか。そんなに辛かったんだな。」
「でも、今オレがここで過ごしていて凄く幸せです。皆、オレを本当の家族みたいに接してくれて、凄く嬉しい。」
「ねえクロ。もう一ついい?」

マグマラシが質問する。

「ブラッキーの進化前ってイーブイだよね?」
「うん。そうだけど…」
「色々なポケモンに進化することができるイーブイにさ、わざわざ[クロ]だなんてブラッキーに進化するかのように名前をつける親っていないはず。きっと、イーブイの時は違う名前だったんだよね?」

そうだ、と言うようにクロは首をコクンと頷く。

「その[クロ]って名前は自分でつけたの?」
「そうだよ。でも何で?」
「一人でひっそりと生きていくって決めたなら、別に[ブラッキー]として生きていけばいいのにわざわざ[クロ]って名前をつけた。それってやっぱり寂しいからじゃないかな?
今まで名前を持って生きていたのに突然名前が無くなるのが寂しかったんだよ。」

そうかもしれない。今まで名前を持たなかった瞬間はない。名前が無くなることが確かに寂しいからかもしれない。
マグマラシは更にこう続ける。

「本当は家族にも会いたいんじゃないかな?
家族を守るために家出をしたっていうのは本当かもしれない。それだけ未だに家族が好きなんじゃないかな?
…っと、上から目線でごめん。」

『家族にも会いたいんじゃないかな?』

マグマラシのその言葉がクロの心にチクリと刺さった。

ちゃ ( 2013/10/16(水) 23:48 )