二章 仲間
05
その日の午後、クロは貧民街に向かった。結局、昨日の夜は[リーフのいし]を返しに行けなかったのだ。

「村長。」
「お?クロか。」
「こんにちは。これをお返しに来ました。」
「おお!まさしく[リーフのいし]!おーい皆!」

村長が皆を呼ぶと、村中から仕事をしていた者が飛んできた。

「この者が[リーフのいし]を取り返してきてくれたのだ!」
「マジか!?ありがとう!」
「よく取り返せたな!ありがとう!」
「ありがとう!」
「サンキュ!」

村の皆が口々にクロに感謝を述べる。

「クロよ、我々の宝をよくぞ取り返してきてくれた。村長としてワシからも礼を言う。本当にありがとう。」

クロは嬉しくなくはなかった。これだけ皆に感謝されて、自分がしてきた事は間違えてなかったんだと思った。でも、どことなく虚しかった。

「クロさん。」

群衆を掻き分けて前に出てきたのは、昨日のフライゴンだった。

「本当にごめんなさい!!僕が最後まで任務に集中していればこんな事は絶対になかった。本当に…本当に…」
「フライゴン…良いんだ。最後まで《真の悪》と戦えてあいつは本望かもしれない。お前だけじゃないよ。」
「ん?何かあったのか?」

ああ、皆知らないのか。

「グランは…逮捕されたんだ。」
「!?」

皆目を丸くしている。

「皆悲しまないでよ。絶対にグランは帰ってくる。アイツのことだ。刑期を終えたら真っ先にオレたちの所に帰ってくるよ。
じゃあ、オレは帰るね。」

そう言っているクロ自身が一番悲しかった。悔しかった。またこうやって仲間を失って、一人ぼっちになって…。住処に戻ったクロはとうとう泣き出した。

「くっ……グラン………。」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

どれだけの間泣いていただろうか。涙は枯れもう一滴も出ない。目を真っ赤に腫らしている。

コトン

郵便受けに何かが入った音がしたから取りに外へ。

「そうか。一晩中泣いてたんだな。」

そこには今朝の新聞と、封筒に入った手紙が一通。

「あれ。オレ宛だ。誰からだろう?」

封筒に差出人の名前はない。
早速封を開け、中身を読もうとする。が、その一つ一つの文字を見てまた泣きそうになった。その文字はグランの文字だったのだ。

《クロへ

お前には本当に申し訳ない事をした。済まない。
今オイラは取り調べに対して全てを答えようと思っている。オイラたちに託されたあくタイプとしての役目――真の悪との戦いについて。全ての罪を認めるけど、オイラたちの考えを皆に知ってもらおうと思う。
だから、クロに頼みがある。この活動をまだ続けて欲しいんだ。全てを答えるって言ったけど、お前の事は伏せる。だから、是非続けて欲しい。
刑期を終えて、オイラたちが外の世界に戻ったとき、少しでも世界が変わっていたらって思う。次に会えるのはその時だ!

グランより》

「そうだ。オレはくよくよしている場合じゃない!グランの意志を継ぐって決めたんだ!オレは《怪盗クロ》だ!」

読み終えたクロは貧民街へ向かう。
グランの意志を継ぐ決意を伝え、足がつかないように貧民街を活動拠点とする事、その為に様々な事を手伝って欲しいということをお願いした。

「これまでワシたちはお主らに助けてもらった。今度はワシたちが助ける番じゃ!」
「「「おぉーーっ!!!」」」
「皆…ありがとう!」

こんなところで泣いてちゃいけない。この日の夜、クロはまた怪盗としての仕事に出かけた。

ちゃ ( 2013/10/15(火) 13:36 )