04
その夜。グランが寝静まったのを確認すると、クロは家を出る。
「グラン、悪いけどオレがやらなきゃいけないんだ。」
向かった先はライン邸。貧民街の皆の絆の結晶である[リーフのいし]を何としても取り返す。
暗い夜道を一人で進んでいく。何度か経験しているはずなのに、新鮮だった。
「ここか…。」
目の前にそびえ立つ大豪邸。以前のエンブオー邸もデカかったが、その比ではないぐらいデカい。
「さて。どこから攻めようか…」
「2階のコレクションルームだ。」
自分の隣から声がする。聞き覚えのある、今一番会いたくない人の声だ。
「グ…グラン…」
「このバカ野郎!お前一人で出来るはず無いだろうが!」
「…スマン。でも、今日依頼人って人に接触して、話を聞いたら絶対に取り返してやるって思ったんだ!頼む!オレにやらせてくれ!」
「なら最初からオイラに相談してくれたっていいじゃん。お前一人では行かせないけど、オイラだって取り返しに行きたかったし、絶対にリベンジしてやりたい。」
「え?」
「オイラも協力するって事だよ!さ、早く行くぞ![あなをほる]!」
「あ、待って!」
やたらノリノリじゃんとか思いながら、クロはグランの掘った穴に潜った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「だいたいここの真上に2階に通じる階段がある。そこを登って左側の部屋がコレクションルームだ。」
「オーライ!」
床を突き破り、目の前の階段を登る。勿論、息を殺しながら。
「にしても変だね。」
「何が?」
「いや、だってそんなに大切な場所に通じる階段なら、防犯カメラとか設置してある筈なのに。」
「確かに。前来たときは気づかなかったな。」
階段を登りきり、左側の部屋。その入口はまた簡素な入口だった。
「ちょっと待って![さえるごかん]!」
「技みたいに言うなよ…」
「…大丈夫みたい。誰もいない。でも変だな。防犯設備もなさそうだ。」
どうも不審な点がある。クロはすごく嫌な予感がした。
「まあ、無いならさっさと奪っちまおうぜ。」
「だな。」
ドアを開けると、ドアから真っ直ぐ行った窓際に[リーフのいし]がレイアウトされていた。しかも、展示ケースは鍵がかけられていない。容易に取り出す事に成功。懐に忍ばせる。
「さっさと戻るぞ。」
「そこまでだ!残念だったな、コソドロ共めが!」「「!?」」
部屋から撤収しようとしたとき、出入り口を塞がれた!例の主人のマッスグマのラインと、使用人と思しきエレキブルが仁王立ちで立っていた。
「おっと。これはこれはご主人様。私はグラン。こっちはクロ。簡単ながらご挨拶をさせていただきます。 」
「それはそれはご丁寧にどうも。さあ、怪盗さんたち。勝負しましょうよ。この状況からどう脱出するのか。
因みにね、絶対にリベンジが来ると思ったものですから、この敷地内に警察官を常駐させといたのでよ。要するに貴方達は袋のネズミ状態ですよ。どうしますか?」
ラインがかなり誇らしげに言う。
「面白いですね。分かりました。やってみましょう!」
「とは言ったものの、どうすりゃいいんだ?」 ここまで弱気なグランを初めて見た。
「大丈夫。手は打ってあるよ。まあ見てて。」そうグランに囁くと、グランは窓に向かって…
「[あくのはどう]!」
パリーんっ!
窓ガラスが割れる。と同時にひとつの影がさっと横切った。
「それでは俺たちは消えるぜ!グラン!」
と言うと、クロとグランは窓の外に飛び込んだ!と同時に、影――フライゴンの背中に着地!
「お前…貧民街の?」
「はい!お役に立てて光栄ですっ!」
そうやってそのまま飛びさろうとした時。
ビューーーっ!
突然強風が吹き出し、フライゴンはバランスを崩した。刹那、グランが足を滑らせて落っこちてしまった!
「グラン!!!」
「俺は絶対に大丈夫だ!先に[リーフのいし]を村長の所に届けてくれ!」
「グランは?」
「俺はすぐ行く。あいつらから絶対に逃げ切って住処に戻ってやるからな!」
「わかった!絶対だよ!」
これがグランとの最後になるとは、クロはちっとも思わなかった。絶対に戻ってくる。そう信じていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌朝。グランは帰ってこなかった。
郵便受けに新聞を取りに行き、ペラペラとめくっていた時のこと。
「グラン!?」
《連続窃盗犯 遂に逮捕!
昨夜11:00頃、マッスグマのライン邸が再び窃盗犯に襲撃された。警察は、窃盗の容疑でグラエナのグラン容疑者を現行犯逮捕した。
その他の資産家を狙った窃盗事件についてもグラン容疑者の犯行と見て調べている。
なお、[リーフのいし]は盗まれ、警察は共犯者についても捜査している。》