02
翌朝。モフはベッドから飛び出すと、すぐさま水辺へと向かう。もう楽しみでしょうがなかった。
「ボクは何に進化したのかな?ブースターかな?シャワーズかな?サンダースかな?それとも…?」
テンションはもう最高潮だ!
家のそばの小川に着いた。もう楽しみで楽しみでしょうがなかった。早く見たくて岸から身を乗り出して…落っこちた。
「ぷはーっ!朝からついてないナ…」
とりあえず岸に上がろうとしたときだった。
「[みずでっぽう]!」
「うわあっ!」
背後から思いっきり水をかけられた。その衝撃でまた水の中に落っこちた。
「出ていけ…あくタイプはこの村から出ていけ!!」
「あくタイプ…ボクはブラッキーに進化したの?」
「やかましい![ハイドロポンプ]!」
モフは思いっきり吹っ飛ばされ、岸に体を強打した。モフは怖くなって、自分の姿を見ることなく水辺から立ち去った。
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「ただいま。」
「モフか!お帰りな…」
帰ってきた弟の姿をみて、エンは言葉を失った。自分の弟があくタイプになって帰ってきたのだ。本当はすぐにでも逃げたかった。でも、弟は弟だ。そう割り切ったら幾分かは気持ちが楽になった。
「ブラッキーか。なかなか洒落てるポケモンに進化したじゃねえか!さ、早く朝飯食って学校行こうぜ!」
「う…うん!」
エンはいつものように接した。特別なことはしないで、イーブイだった頃のように。モフは、そんな兄にこんな事を聞くことはできまいと悟ったのか、水辺での出来事は伏せることにした。
それから1時間後、二人は家を出た。その頃にはエンにも何の躊躇いも無かった。純粋に、このブラッキーは弟のモフだ。
一方のモフ。皆が自分の姿を見て離れていくのがよくわかった。本当に辛かった。その様子はエンも感じていた様だった。
「大丈夫。オレが必ず助けてやるから。」
こんな時でもエンは優しかった。その優しさにモフは安心できた。
でも、その安心も束の間。学校では昨日まで仲良しだった友達でさえ避けられてる気がした。すごく悲しくて、一人で屋上で泣いていた。そんな日々は何日も何週間も続いて、モフはだんだん周りから孤立していった。
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「ねえ父さん。」
進化してから10日くらい経った頃、モフはライに今まであったことを全て伝えた。
その頃には、家族は皆モフを受け入れてた。ただ、未だに村はモフのことを避けていた。
「そうか…。大変だったんだな。」
「ねえ、どうして皆はあくタイプを嫌っているの?」
「…それはだな。」
ライはこの村に起こった事について話した。
「今から15年前。お前が産まれる前だな。この村は戦場だったんだ。」
「戦場?」
「ああ。どちらの村も、兵士として戦ったのはあくタイプだった。」
「どうして?」
「あくタイプは《汚れ》として扱われたんだ。この村はそうではなかったけどね。ただ《悪》と言うだけでそういう扱いをされたんだ。
この村の被害は、死人は出なかったけど村は滅茶苦茶にされた。だから村の住人は多くの人があくタイプを嫌うんだ。」
「そうだったんだ…。」
「お前にはそんなことを気にせずに生きて欲しいな。」
そんなライの願いも、儚く消え去ってしまうことになるのはその翌日のことだった。
《あくタイプ排除令敢行!》
町中にそんなポスターが貼られていた。モフはむやみやたらに家の外に出られなくなった。
その頃から、ライもエンもアクアも身体中に傷を負って帰ってくるようになった。始めは、
「階段から落っこちたんだよ。」
とか、
「バトルの実習でやられちまってな…」
とか言ってはいた。が、あるときモフは見てしまった。家の目の前でエンがボッコボコにやられているのを。
「あくタイプなんか匿ってんじゃねえ!早く警察に突き出せ!」
「嫌だ…。あいつは…オレのだい…じな弟だから」「綺麗事なんか並べてるんじゃねえ![こおりのつぶて]!」
「[エナジーボール]!」
「うがァっ!!」
エンの姿は見るに耐えない物だった。
「ボクのせいでエン兄が…。エン兄だけじゃない。父さんもアクア姉も…」
もう皆に迷惑をかけるマネはしたくない。モフは決心した。
《皆へ
ボクのことを大切にしてくれてありがとう。
でも、それと引換に皆がボロボロになっていくのをみて、とても苦しかったんだ。これ以上迷惑をかけるマネはしたくない。だからボクはこの村を出ていきます。
あくタイプになった家族不幸なボクだけど、やっぱり皆には幸せに過ごして欲しいです。
それじゃ皆、身体の傷を治して幸せな日々を過ごしてね。
モフ 改めクロより。》
降りしきる大雨の中、モフは自分の名前を捨て、《クロ》として村を出た。
新たな世界に期待して…。