06
「はぁ〜」
ゼルはベンチに腰かけると、ため息をついた。
「まあまあ。そういうことだってあるさ。気をとりなおしてもう一度探しに行こうよ。」
ゴンが慰める。
さっき、ズイタウンの育て屋にコジョンドを訪ねようとした。しかし、コジョンドはいなかったのだ。なんでも丁度昨日のこと、ホウエンの《カイナマリーンズ》にスカウトされ行ってしまったらしい。その後、ゼルは決まりが悪くなってヨスガシティまで走って来たのだ。
「ゼル元気出せよ!まだ時間はあるんだし。」
「だな!じゃあ景気つけに飯だ!今日は私のおごりだ!」
「マジですか!?ありがとうございます!」
「オールさん太っ腹!ほら、ゼルも行くぞ!」
「ああ!オールさんご馳走になります!」
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「あんなこと言わなきゃ良かった‥」
会計を済ませたオールが思わず呟いた。何せ皆が色々なものを頼みすぎてオールが破綻寸前になったのだ。
「オールさんごちそうさまでした!」
「まあ良いが‥。もう少し考えて行動してくれ。」
まあ、オールがここまでぶつくさ言うのもわからなくもないだろう。ただの夕食に7~8万円も使われる身になったらそうなるよ。
そんな会話を繰り広げながらポケモンセンターに着く。たらふく食った一行は速攻で寝た。
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翌朝、普段から早起きのゼル。今朝も早く起きてヨスガシティをランニングしていた。
「これがポケモンコンテストの会場か。‥ん?」
コンテスト会場の脇に広場があるのだが、そこでシャドーピッチングをしているワルビアルを見つけた。ゼルは声を掛けようと彼に近づく。
「おはようございます。朝から頑張ってますね。」
「あ、おはようございます‥ってあっ!《ミオスターズ》のフローゼル!」
「えっ!?俺のこと知ってるの?」
ゼルは驚く。弱小チームの選手なんてほとんど知られてないと思ったからだ。ホームランを40本打ったり、170q/h位出る球を投げたりとか、何か秀でる物がないと有名になれないと今まで思っていた。
「勿論!俺、《ミオスターズ》のファンなんです!いつかあのミオの球場でプレーするのが夢なんです!けど‥」
ワルビアルの顔が暗くなる。
「けど?」
「高校野球を引退して、プロ志望届を出しました。でも、ドラフト会議で指名されなかったんです。」
そういえばコータス社長が「ドラフト会議では4人しか獲らない」って言ってたことを思い出した。彼はそれに引っ掛からなかったのだ。
しかし、熱意だけはこのチームの誰にも負けなさそう。こいつと野球したい。ゼルはそう思った。
「なあ、俺と勝負しないか?」
「えっ、勝負ですか?」
ワルビアルは目を丸くした。
「ああ。1打席ポッキリの真剣勝負しようぜ。」
「はい、喜んで!」
ワルビアルは満面の笑みで応える。
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二人は大きい公園にやってきた。ここの野球場は、予約がなければ自由に使っていいそうだ。
「ルールは簡単。さっきも言ったように1打席ポッキリの真剣勝負な。」
「臨むところです!」
互いにそう言って、ゼルは左バッターボックスに、ワルビアルはマウンドに上がった。