06
「で、結局お前は何を投げれるんだ?」
正直、俺はゼルのピッチングをあまり信頼していない。
少年野球のころにピッチャーをやってたからって、今もその力が健在とは限らない。もし、球種が《ソニックブーム》しか無かったらこっちも組み立てるのが難しい。
「えっと‥球種はストレート、カーブ、スライダー、フォークの4つ。技だと《ソニックブーム》と《きあいだま》だな。」
あっ、案外投げれるんだな。さっきまでの不信感ばいっぺんに払拭された。
「じゃあ球種のサインは1がストレート、2がカーブ、3がスライダーで4がフォークな。で、そのあと技のサインを出すぞ。グーが《ソニックブーム》でパーが《きあいだま》な。」
「了解!よろしく頼むぜ!」
俺たちはグローブでハイタッチをかわす。
因みにここまでの会話はちゃんとグローブ、ミットで口元を隠して行っている。
〜〜1回ウラ〜〜
「お願いします」
ちゃんと一礼してからバッターボックスに入る。そこがある意味プロとアマの違いだよね。礼儀とかをおろそかにする所とか。
あ、左打ちなんだ。左方向狙いかな?様子を見たい。
【外角低めの《きあいだま》のカーブ。ボール球でも構わない】
俺のサインにゼルは首を楯に振る。
「プレイ!」
ボルトのコールと共にゼルがモーションに入る。
投げた!要求通りの良いボール!
ブン!
バットが空を切る。
「ストライク!」
ボルトのコールが高々と鳴り響く。今のスイングだとまっすぐ狙いか?打たされた感があるスイングだった。
【外いっぱいの《ソニックブーム》のストレート。ボール球が欲しい】
俺は思いっきり外に構えた。さすがに振らないだろうと思うくらい。しかし‥
「そうはいかないよ!《ふぶき》!」
いきなり雲行きが怪しくなる。雪だけでなく風も吹き始めた‥!?
「風がボールを押している!?」
あっという間にど真ん中の良いコースにボールがやって来た。
「貰った!《ばかぢから》!」
カキーン!さっきの俺よりも良い当たりだ。
打球はバックスクリーンを飛び越えて見えなくなってしまった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
その後もお互いに『ヒット』を打ち続けた。ただ、ゴンの打球は衰えることを知らない。俺は体力的に限界が近づいてきて、しまいには4番らしからぬ『セーフティーバント』でのヒットを狙ってしまうほどだ。
そして、対決は9イニングを越えて延長戦に突入した。
〜〜10回表〜〜
ハァ、ハァ、ハァ。
ヤバイ。疲労がすごい。でも、この対決を勝たなきゃ意味ねえんだ。
「お願いします」
打席に立つ。9打席目に右中間にフェンス直撃のヒットを放っている。さっきもまっすぐだった。狙うなら変化球。
ゼルがモーションに入る。投げた!やっぱり!予想通りのカーブだ。しかし、思った以上に変化が大きい。
「うわぁっ!」
泳がされてしまった。
修正しろ。ワンテンポ待てばボール球だった。
狙いはもう一回カーブ。次は打つ!
投げた!今度こそ‥
ブン!
バットが空を切る。
あっという間に2ストライク。もう後がない。
ゾーンを広くだ。クサイ球は全部ファール。打てそうな球をしっかり打ち返せば良いんだ。
投げた!まっすぐだ。今度こそ‥
ブン!
空振り三振。最悪な結果だ。
しばらくそこから動けなかった。
〜〜10回ウラ〜〜
もう後がない。何としても抑えなければ。
【《ソニックブーム》のまっすぐ。かなり低く】
こんな俺を信頼してくれるゼルにマジ感謝。
投げた!いいぞ、その高さが欲しかった!
「《ばかぢから》!」
《ばかぢから》の効果でこうげき、ぼうぎょが共に1段階UPしているゴンには通用しなかった。
うまく拾って打球はそのままライトスタンドへ一直線。
俺はもうなすすべが無かった。ただ、そこに立ち尽くしているだけ。
0勝3敗で俺のぼろ負けとなった。