07
今のサンダースのカミングアウトに俺たちは驚いた。俺に至っては開いた口が塞がらない。
サンダースは話を続ける。
「俺がイーブイだったとき。ある日、学校から帰ってきたら家に誰もいなかった‥。その日、父さんは仕事が休みで、母さんも大抵俺が帰るときには家にいた。だから、俺が学校から帰ってきたら皆で遊ぶ約束をしていたんだ。」
サンダースは町中を探し回ったが、両親が見つかることはなかったそうだ。
独り身のサンダースを親戚が引き取ってくれたそうだが、家での扱いは相当酷かったらしい。それはもはや『虐待』と言っても過言ではない。辛く、苦しい日々だった。
「でも、その頃の俺には野球があった。野球のおかげでその辛さを忘れることができたんだ。」
サンダースが中等学校3年生になってから、サンダースへの当たりが強くなってきた。
「そのときからおばさんとおじさんにある一言が『口癖』になっていた。」
「口癖?」
「うん。『お前も一緒に殺しておけばよかった!』」
‥‥‥!
皆が顔をあわせる。
「それって‥」
コクンとサンダースは頷く。
サンダースがポケモン不信になったのはこの頃だそうだ。学校に行かず、家に引きこもるようになっていた。
「無理して作ってきた作り笑いがそこで無駄になったと思ったよ。俺の苦しみは何だったんだってね。」
そして2か月前。里親は逮捕され、サンダースはここに引き取られることとなった。
「孤独な日々を過ごしていたから、いきなり皆に馴染むことができないよね。だからいつも一人だったのか。親として気付いてあげられなくてごめんな。」
父さんが謝った。
「大丈夫。そんなこと全然気にしてないよ。
むしろ、手を引いた野球をこういう形でもう一回できるなんて夢にも思ってみなかった。だから俺、ここに来れてよかった。」
そして、俺とフローゼルの方を向く。
「あと、こんなチャンスをくれたバーン兄やフローゼル兄にもね。ありがとう」
それから空を見上げて、
「実は、父と母さんは俺が野球をしているところを見たことがないんだ。だから、こうやって見せてあげられる。きっと喜んでくれるよね!」
こいつ、この2~3時間の間にすっかり変わったな。こんなにポジティブな奴だったっけと思った。
「サンダースさん、その‥俺たち、サンダースさんに辛いこと思い出させてしまったみたいで‥」
「そんなのいいんだよ。俺が悪いんだし。」
「サンダースさん、頑張って!」
「おう!見てろ。今に最高のプレーヤーになって見せるからな!」
こうやって皆と打ち解けられて本当良かったなと思った。
「そうだ。俺のことはバーンでいいけど、俺は二人のことを何と呼べばいい?」
「そう言えばそうだなあ。俺のことは『ゼル』って呼んでくれ!」
「俺は‥」
「お前はあれだよ。『ボルト』だよ。」
「何だよそれ!」
とは言ってみるものの、
「ボルトか。実は結構気に入ってたり(笑)」
「OK! ボルト、頼むぜ!」
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翌朝。俺たちは出発するところだ。
「泊めてくれてありがとう!」
『お世話になりました!』
親にお礼を言うって何か変な感じ。でも、気持ちいいな。
「近くに来たら顔を見せなさいよ!」
「兄さん達頑張ってね!」
「ああ!見てろ。来シーズンこそ優勝して帰ってくるからな!」
皆から応援されている。皆のためにも頑張んなきゃ!
「‥じゃあ、そろそろ行くね。」
「行ってらっしゃい!応援しているからね!」
『いってきます!』
寂しいけど、これを乗り越えないと始まらない!
俺たちはフタバタウンをあとにした。