04 双子の力 皆の力
グレイシアというポケモンはもともととくこうが高いポケモンが故、他のチームでは守備固めとして使われることが多い。多分、シンオウリーグではグレイシアがスタメンに出場した試合は早々ないだろう。スタンドからはどよめきの声が聞こえた。
「でもオイラはオイラ。どんな状況で出場しようともやることをやるだけだから。」
そういえば昨日そんなことを言ってたっけ。何か仕掛けるのだろうか?楽しみだ。
なんて言ってたらマジでやってくれた。なんとセーフティバントを仕掛けたのだ。初球。ダーテングはアウトコースギチギチのストレートを投げた。多分相手バッテリーはセーフティバントがあることはわかっているだろう。多分見逃すと思ったのだろう。しかし、シーアはチーム1、2を争う選球眼の持ち主であることは頭になかったのだろう。何せシーアは寸分違わずストライクとボールを見分ける事ができるのだ。
コツンっと3塁線に転がした。その打球はファールぎりぎりのところを転がっていく。サードのリーフィアも前に出て捕球し、送球もしたが、《でんこうせっか》で走るシーアの方が速かった。ノーアウトランナー1塁。
「じゃあ僕も精一杯の仕事をしなきゃね!」
兄に触発されたのか、やる気満々でリフィルは左バッターボックスに入る。
「あれ?リフィルって左バッターだっけ?」
ゼルが首を傾げた。
「きっと何か策があるんだろうな。双子揃って面白いことしてくれそうだぜ!」
ネクストバッターズサークルへ向かうボルトがそう言った。監督の出すサインも、もう完全に二人に任せたのか、凄い簡略化したものだった。
初球。
「《タネマシンガン》!」
「《でんこうせっか》!」
ダーテングが投げたのは今日最速の真っ直ぐ。しかし、シーアのスタートもベストタイミングだ!
「《てだすけ》!そして《アイアンテール》!」
リフィルはシーアの《でんこうせっか》を《てだすけ》で加速させ
、かつレフト方向に転がした。打球は案外強めのゴロで左中間を抜けていく。シーアは楽々3塁に到達。リフィルも2塁に立っていた。
「アイツらには負けてらんねーな!俺だって!」
身体中電気をビリビリさせながらボルトがそう言った。もうバチバチスパーク起こしている。ただ、今まで俺は何度もあれだけビリビリしているでんきタイプのポケモンが空回りするところを見ている。今回はそうでなきゃいいんだが‥
「いいのかバーン?」
ゼルが俺に聞く。確かにこのままじゃ危ない。
「主審!タイムお願いします!」
俺はベンチから飛び出してボルトに声をかける。
「わかっているかもしれないけど、落ち着けよ。お前今一人で先走っているからな。」
「バーンサンキュ!俺も自分でコントロールできなくてヤバイって思ったんだ。」
「よし、じゃあ思いっきり打ってこい!」
ボルトをバッターボックスへと送り出した。その姿はさっきよりもかなり落ち着いていた。
初球。ダーテングの渾身の《タネマシンガン》ストレートが炸裂。これをきっちりとアウトコースいっぱいに決めて1ストライク。
「おお‥ヤベェ。でもワクワクする!」
ボルトはバットを構え直した。続く2球目。投げたのは初球とは対称的な大きく曲がるカーブ。 ボルトはこのボールにうまく合わせた。
カキーンっ!
打球は高々とライト方向に上がった。が、犠牲フライには十分の距離だ!と、ここでラッキーな事が起こった。太陽の日差しで見えなかったのか、ライトのキノガッサがなんと落球したのだ!この間に、3塁ランナーのシーアと2塁ランナーのリフィルが一気にホームまで帰ってきて2点追加。打ったボルトは2塁に到達。5-0になり、なおもまだノーアウトランナー2塁。チャンスはまだまだ続く。
ここで打順が一巡して1番のライトに戻る。
初球はドロンとした緩いカーブに手を出してストライク。だからだろうか?立ち位置を後ろ目にとっている。
2球目もカーブ。これはもう見切って手を出さなかった。まあボール球だったが。
3球目はインコースの真っ直ぐ。これは引っ張ってファールにした。
4球目もファール、5球目もファール、6球目もファール‥‥‥10球も粘った。
そしてその次の球は‥
「《タネマシンガン》!」
「《アイアンテール》!」
コツンと弱い音がした。打球はセカンドの真っ
正面。これを処理して1アウト。その間にボルトは3塁まで進む。1アウトランナー3塁。
ここでバッターはオール。一発があるバッターだ。さっきの打席はデッドボールだったからな。多分打ち気満々だろう。それが証拠に初球の《タネマシンガン》に対して豪快なフルスイングを見せる。
2球目はスライダーを見送ってボール。3球目もしっかり見極めてボール。4球目はインコースにズバッと決まってストライク。カウントは2-2。
そして5球目。甘く入ったスライダーをしっかり捕らえた。
カキーンっっ!
打球は切れてファール。その時俺はダーテングの顔から『ヤバイ』って表情が滲み出ているのを感じた。攻めるなら今だろう。