04
風が吹いている。流石11月の日本海沿岸は冷える。そんな中で僕たちは今までで一番熱い兄弟喧嘩を繰り広げようとしている。
レントラーvs.シャワーズ。僕とジュンがよくゲームで対戦した組み合わせだ。
「《かみなりのキバ》」
「《あなをほる》!」
襲ってくるジュンに対して《あなをほる》でかわす。で、《アクアリング》で体力を回復‥‥。さっきからこの繰り返しだ。
「くっ!何か打開策は‥」
――だから言ったろ。俺は『どうなっても知らん』って言ったからな。
(とりあえずダメージを与える以外に方法はないよ!)
「本当だよ。ブイが《あなをほる》を覚えていたのが救いだね。」
――足音がする。この辺じゃねえか?
「OK。うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
僕は全力でジュンに攻撃した。正直辛いけど、ジュンを救うためと思えばこんなの屁じゃない!
空中で互いに体制を立て直す。
「《あられ》!」
僕は天気を《あられ》状態にした。これで暫くあられの力を借りてダメージを与え続ける事ができる。
「《じゅうでん》」
ジュンはこのあられに耐えながら、《じゅうでん》を始めた。
(マズイよ!でんきタイプの技の威力が2倍になったら回復が間に合わない!)
「《あなをほ》‥‥」
――無理だ!さっきから使いすぎてPPがヤバイ!
『嘘でしょ!?』
そうだ。PPの事を完全に考えてなかった。
「《かみなり》」
ヤバイ!完全に発射体制になった!一瞬のタイミングでかわさなきゃ‥
「発射」
!!思ったより威力が半端ない!逃げきれない‥そう思ったときだった。
『《まもる》!』
‥へ?
目の前でルカリオが僕たちを守ってくれている。ルカリオということは‥
「オル!」
「抜け駆けは許さないよ!」
「エリ!」
「いいからお前も早く戦え!」
またカッコ悪いとこ見せちゃったな。僕は気を取り直して立ち上がった。
「オル!私たちも!」
「了解!」
エリとオルもシンクロした。
――まったく。いいタイミングでいつも来てくれるぜ。
「だね。ほら、来るよ!」
「《かみなり》」
僕たちはギリギリのところでかわす。
「ジュン!何だか2年前を思い出すな!」
2年前。僕とジュンがバトルして、初めて僕が勝った(それまで相性の関係でずっと負け続けた)。
「‥‥‥‥。」
何だろ。さっきまでの攻撃的な感じはなくなった。気のせいだろうか。ジュンの目がちょっと変わった気が‥。《10まんボルト》の発射体制に入っていたものを止めたのだ。
「《ハイドロポンプ》!」
至近距離からの《ハイドロポンプ》はかなり効果があるだろう。現にジュンはかなり遠くまで吹っ飛ばされた。
――何かあったのか?
「わからない。でも、ひょっとしたらジュンを取り戻すチャンスかもしれない。」
(取り戻す?どうやって?)
「‥‥あれしかないか。ブイ、ユウキ、これから一か八かの賭けに出る。」
僕は《はどうだん》を繰り出そうとしているエリの前に立った。
「ちょっとコウキ!?何しようとしているの?」
「ここは僕に任せて。」
更に一歩前に出て、大きく深呼吸した。
「さあジュン!かかってこい!!」
保険はある。さっきの《ハイドロポンプ》がうまくいってたのは大きい。
「《かみなりのキバ》」
完全無防備の僕に攻撃しようとする。そのとき、僕は何を思ったのか、シンクロを解除して、右腕を差し出した。
――馬鹿野郎!お前死ぬぞ!
ユウキに何を言われようが関係ない。僕は死ぬ気でジュンを取り戻すんだ!
当のジュンは差し出した右腕に噛みつこうと僕に襲ってくる‥と思ったが、ジュンは寸止めしたのだ。
「‥‥ジュン?」
「‥できない。俺にはコウキを傷つけるなんてできない!」
その顔は泣いていた。ジュンの涙を僕は初めて見た気がする。僕はジュンに近づいて、ギュッと抱き締めた。
「大丈夫。これから僕たちは一緒だよ。何があっても。」
「コウキぃぃぃ!!!」
声を出して泣き崩れた。そのとき、ジュンのシンクロも解けたようだ。姿はニンゲンの姿だ。
「‥‥二人とも、強くなったな。」
コウキはSがそう呟くのが聞こえた気がした。かと思うと、次の瞬間には砂浜から立ち去っていた。
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それから暫く、僕たちは砂浜に居る。あれこれ話したいことが沢山あった。卒業した中学の話、今通っている高校の話とか色々。
「‥‥そうなのか。皆元気にやってるんだなあ。でさ、一つ聞いていいか。」
「どうしたの?」
ジュンは改めてかしこまったような気がした。
「俺さ、さっきまでの記憶が何も無いんだ。何か、気付いたら俺、というか俺の中にいる誰かがコウキのことを襲おうとしていた。なあ、俺に何かあったのか?教えてくれないか?」
僕は困ったけど、これもある意味定め。僕は今ジュンに起こったことを全て話した。勿論、レントラーになって戦ったことも全て。
「‥‥俺はそんなことをしたのか。すまない‥。たった一人の家族を殺そうとするなんて‥‥」
「良いんだ。ジュンが記憶を取り戻してくれて。」
僕はまたジュンのことを抱き締めた。
そのとき、夕日が沈んでいく途中、一筋の光が海面に反射した。
「コウキ。そろそろ行こう。この光は僕たちのことを迎えにきたんだよ。」
「そうか。よし、皆行くぞ!」
『おぉっ!』
「ほら、ジュンも!話は向こう着いてから!」
僕たちは光へと飛び込んでいった。