第二章
第9話





ハクダンシティでのジム戦を終えた翌日、エリカ達は次の目的地、ミアレシティ目指し4番道路を真っ直ぐに歩いていた。

…………………………はずが、その途中で一人の短パン小僧に勝負を吹っかけられたため、現在絶賛バトル中の状態になっている。



「ポッポ!『でんこうせっか』だよ!!」


「負けるなピカチュウ!『でんきショック』連打だっ!!!」



エリカのポッポが上空から自由落下の勢いを加えた『でんこうせっか』を繰り出そうとしている。

そこに相手のピカチュウがいくつもの電撃を放っていくが、潜るようにして躱しきる。

そのままポッポの攻撃が体の中心を捉えた。

元々耐久が並以下とされているピカチュウが重い一撃に耐えきれるはずもない。

呆気なく気を失ってしまった。


「くっそ〜〜〜! 負けたッ!」

「やったねポッポ!!!」


ポッポがエリカの方へと向かおうとしていた時、その体が光った。それは段々と大きくなり、頭には今まで無かったトサカが付けられている。

「ヒュウガ! これは!?」

「進化ですね、ジム戦を初めとしてかなり経験を積んでますからそろそろ進化してもおかしくないですよ」



光が止むと、そこに居たのは最初よりも遥かに大きく凛々しくなった、ポッポの進化系『ピジョン』の姿だった。


「か、かっこいい!!! おめでとうポッポ……………じゃなくて、ピジョン!!」


トレーナーからの祝いと褒め言葉に顔を赤くして大きく一鳴きするピジョンは、人間の…………それも10代女子の胸には少々強い勢いで飛び込んでくる。それを押し倒されそうになったものの、何とか受け止めたエリカはしっかりと抱きしめた。









短パン小僧と別れたエリカ達は、ヒュウガから受け取った水筒から水分を補給していた。ピジョンとハリマロンも別の容器に入れた烏龍茶を美味しそうに飲んでいる。


「今日は色種の秋茶を入れてみました。淡白な味わいが特徴で飲みやすくなっています」

「2人とも、美味しい?


解説を適度に受け流したエリカはハリマロン達に感想を求めてみる。案の定、2匹からは力強い査定が返ってくる。


「烏龍茶を飲むのに人間もポケモンもありませんよ、等しく受け入れるのです…………!」


エリカは思った。

やっぱり色々と凄い人だった。

色んな意味で。

宗教団体のリーダーになれそうである。



そんなやり取りをした後、遂にミアレシティに通じるゲートまで辿り着いた。
地方の中心都市なだけあって既に多くの人々がゲートを行き来しているのが見える。エリカはこのような所に来たことが無かったので少し緊張して体が固まっている。


「先に行きますよ」


ヒュウガに置いてかれそうになってやっと体が動いた彼女は全力で追いかけた結果、見事な前転を披露した。










ゲートを抜けた先に待っていた光景は、想像以上だった。

中心に座しているプリズムタワーから枝分かれしている道路、それらの横には数え切れない程の店やカフェが連なっている。それらを中心としてグルッと一周してみれば、プロモーションスタジオやリニア新幹線の駅等の施設が揃っている。


「広いね…………………………!」

「一応中心都市ですからね、ここには裁判所なんかもあるぐらいですから」


そんな会話をしながら辺りを散策していく二人の前に、バス停の横にある看板もどきによく似たものが立っていた。当然、田舎育ちのエリカは強い興味を示す。


「ねぇ、あれは何?」

「? ………あぁ、それはゴーゴート乗り場です。この街は広いので徒歩で観光するとしたら一日かかってしまうので、ポケモンの力を借りて移動できるように作られたシステムですよ」


話していると、丁度いいタイミングでゴーゴートが乗り場に近づいてきた。それも空席という都合の良さ。目を輝かせてエリカは言った。


「あれに乗ってジムに行こうよ!」


ヒュウガとしては、この街にある茶葉専門店なる所で買い足しに行きたかったのだが、エリカの目を見ると、諦めの溜息を吐き了承のサインを出した。

別にジム戦の後に行けば問題ないので結局の所、後か先かという話である。エリカはそんなヒュウガの心境などお構い無しにゴーゴートの背中に跨っていた。










プリズムタワー ミアレジム前


さて、ゴーゴートの乗り心地はとても良かった。街の風景も悪くないものだった。

唯一、問題点があるとすれば。



………………………肝心のジムリーダーが不在という点だった。


「とりあえず立ってください、それまで他のジムに挑めばいいでしょう? 烏龍茶出しますから」


分かりやすいくらいに四つん這いになって項垂れているエリカを宥めているヒュウガ。それを気まずそうに見つめているジムトレーナー。

いざジムに入ろうとした所で、その中にいたトレーナーからジムリーダーの不在を伝えられた。

明日には帰ってきますよね!? と、エリカは食いついたのだが、一ヶ月は帰ってこないと言われて先程の光景になっていた。

何でも、そのジムリーダーは諸事情でイッシュ地方に滞在中らしい。とあるセミナーの特別講師として招かれたそうな。

それはさておき、意気消沈しているエリカに、ジムトレーナーの1人がこんな事を教えてくれた。他のジムに行くなら、ここから近い海沿いに位置するショウヨウシティがオススメだという事だ。


「ほら、確かそこは岩タイプのジムですから、まずはそこで経験を積んでからここに来ればいいでしょう」


そこまで言って、やっとエリカは立ち上がった。その表情は項垂れていた時と比べるとだいぶ晴れやかになっていた。


「……………うん、そうだね。ここで立ち止まっている場合じゃないよね!」


彼女が元の調子に戻ったところで、ヒュウガは最初の目的を推し進める。


「では、その前に茶葉の専門店に行きたいのですが「やあ!久しぶりだね!」!?」


しかし、最後まで言わせてはくれなかった。
後ろを振り返ってみると、そこには青色のシャツを着こなしたプラターヌ博士の姿があった。


「博士!お久しぶりですー!」

「エリカ君、ジムに挑戦しようとしてたのかい?」

「実は、そのつもりだったんですけど、ジムリーダーが出張らしくて…………………」


その後ろに立っているヒュウガは、表情こそ変えていないものの、心の中で密かに落胆していた。
話している途中に横槍をされてしまい話の腰を折られる事はよくある事だ。

同情する他ない。


そんな彼にも、プラターヌ博士は近況を聞いてきた。


「ヒュウガ、旅の調子はどうだい?」

「………ええ、たった数日の間だと言うのに色々とありましたね」


そこまで聞くと、博士はこう言ってきた。


「では、僕の研究所で休まないかい? 色々と話を聞きたいしね」


その提案に、乗らないはずもなく、


「いいんですか? ありがとうございます!」

「では、私もご一緒させていただきます」


快い返答が返ってきた所で、博士は歩き始めた。

「研究所はこっちだよ、ついて来てくれ」


エリカ達もその後を追いかけて歩き出した。




その途中、ヒュウガは決心した。







……………………………その後は絶対に、茶葉を買いに行ってやる、と。




結果から言うと、彼の決心もその日の内には叶わなかった。









ご愁傷さまである。















織田秀吉 ( 2017/09/16(土) 15:41 )