第二章
第8話




ジムバッチを賭けて、初めてのジム戦に望むエリカは、ポッポの戦法を大幅に活かしたバトルで、ジムリーダービオラの先鋒アメタマ相手に初白星を上げた。

しかし、ビオラはここで彼女のエースである『ビビヨン』を出してきた。タイプ相性ならまだポッポの方が有利ではあるが…………………彼女はこの状況で笑っている。



「さあ、今度はこちらから行くわよ! 『ちょうのまい』よ!」


ビビヨンはその場で優雅に舞い始めた。その様はジョウトの舞子の踊りに似たものを感じる。右に左に静かに動き、最後に一回転して動きを止めた。

エリカはこの静止した瞬間を隙と見なし、一気に勝負を仕掛けに行く。


「ポッポ! 『でんこうせっか』!!!」


ここで、アメタマ戦のはじめに見せた、重力付加の一撃を打ち出そうと天井まで上昇する。そして、そこから森林の女王を貫かんとする勢いで突撃していく。



…………………もし初手でこれを使えていれば優勢になっていた。


攻撃が当たろうとした、その瞬間。

ビビヨンの姿が、消えた。


当然、ポッポの『でんこうせっか』は空振りに終わる。その勢いを利用してまた上昇しようとした時に、その背後から迫ってきたのは、巨大な竜巻だった。ポッポの『かぜおこし』とは規模の全く違うそれは、小さな体のポッポを巻き込み、大きく渦巻いていく。



竜巻が消えると、地面には目を回し羽がところどころ抜け落ちているポッポの姿があった。

ビオラはこう言った。


「さっきビビヨンが使った『ちょうのまい』は、使用者のスピード、火力、耐久を1度に上げる技よ」


そう、その上昇した移動速度は、『でんこうせっか』を超える程になっていた。その為に、一瞬姿が消えたように見えたのだ。

そして、先程ポッポを一撃KOしたあの竜巻の正体についても解説をしてくれた。


「そして、あの竜巻は『ぼうふう』。飛行タイプの技の中でも指折りの火力を誇っているわ。先程の火力アップでそう簡単に凌ぐ事は出来ないわ!」





…………………一転有利だった状況が一瞬にして不利になった。しかし、ここで止まっていては何も始まらない。

自分の最初のパートナーを戦場に送り込んだ。


「行くよ!ハリマロン!!!」



緑色の体に、鋭い棘を背中に生やしたポケモン、ハリマロンが上空で見下ろしているビビヨンに向けて闘志を燃やす。だが、相手は能力を上昇させ、一撃貰っただけで致命傷となるだろう。ならば、先程と同じように速攻を決めに行くべきだろう。


「『たいあたり』!!」


先程のポッポと勝るとも劣らない速度でビビヨンに接近する。そして、空中目掛けて大ジャンプする。しかし、分かりやすい動きなので、ビビヨンは既に回避しようとしている。


「単調な攻撃は見飽きたわ!」


ビオラはもうその攻撃は効かないと宣言する。




「本当に?」


エリカが問う。


だがそれは確認の意ではない。

その質問は、ビオラの宣言の否定を意味していた。


「『つるのムチ』でビビヨンを捕まえてっ!!」



空中に飛んでいるハリマロンはその体制で、体から蔓を出現させると、森林の女王をしっかりと捕らえる。そのまま、重力に任せ、力一杯真下に叩きつける。


「ビビヨンッ!!」


幸い、地面に激突する際出来るだけ鱗粉で衝撃を和らげたため、すぐに空中に復帰してきた。そして、ここから大反撃が始まった。


「連続で『むしのていこう』!!!」


ビビヨンの周りに小さなエネルギー弾が、10、20……………およそ100前後の規模で漂っている。女王が舞い始めたと同時に、大量の弾幕がハリマロンを襲う。


「避けきれないのは『つるのムチ』で叩き落として!」


降り注ぐ雨弾幕をギリギリで避け、蔓で残りを叩き落としていく。だがそう簡単には行かない。すぐにビビヨンはハリマロンを中心に弾幕を厚くしていく。これには流石に対応出来ずに何発か命中してしまう。更に威力がどれも高く、10m以上吹き飛ばされてしまった。


「大丈夫!?」


何とか立ち上がれたが、体力は限界まで来ていた。次の一撃を喰らえば試合終了待ったなし。この状況でどうすれば良いか。










エリカは考えた。





自分の残り1匹は草タイプのハリマロン。『つるのムチ』ではダメージは雀の涙、『たいあたり』でも決定打にはなりにくい。『あの技』では、距離が届かずにいい的となってしまう。だが、当たれば間違いなくこの状況をひっくり返せる。





……………………………………ふとした時、妙案が浮かんだ。少々無茶なものではあるが、試す価値はある。思い立ったら素早く実行する。スピードガールは最大の速攻を仕掛ける。


「ハリマロン! 力を貸して!!」


その呼び声に、パートナーは強く頷く。そして、このコンビは今超えるべき壁を見つめる。番人は最後の止めとばかりに大技を打ち出そうとしてきた。


「シャッターチャンスね! 『ぼうふう』!!!」


ビビヨンは大きく羽を羽ばたき始め、そこから先程よりも遥かに規模の大きい竜巻を発生させ、ハリマロンに標準を合わせ解き放つ。

この時、ビオラは自身の勝利を確信した。

だが、その時エリカの顔を見ると。





…………………………………………………笑っていた。



ヤケになっている訳では無い。



その目は、勝機を見いだした希望を宿している。





エリカは大声で、その無茶な作戦を実行に移す。
ハリマロンは竜巻に向かって走り出した。

勢いをつけた所で、その作戦の中心となる技を繰り出す。



「ハリマロン!全力で!!『ころがる』攻撃!!!」



竜巻の手前で体を丸くし、勢いを殺さずに突撃していくハリマロンは、竜巻の中に消えていった。
普通ならここで戦闘不能になっていても不思議ではない。


しかし、何か様子がおかしい。


竜巻の轟音とはまた違った、タイヤが地面を蹴っているような大音量。
それは段々と力強さを増していき、次の瞬間、最初とは比べ物にならないスピードで飛んでくる緑の弾丸が…………………………………







ビビヨンを貫いた。



「えっ!?」


ビオラは思わず唖然とする。つい先程まで勝利を信じて疑っていなかった筈なのに、気がつけば自分のエースが吹き飛ばされたのだから。



ハリマロンが繰り出した『ころがる』。

それは当たれば当たるだけ威力を増していく岩タイプの技。

岩に弱い虫、飛行タイプ2つを持ち合わせているビビヨンに当たれば、大幅なダメージが期待できる。

しかし、空を飛んでいる相手に打っても、ギリギリで届かずに攻撃されてしまうのが関の山。

そこで、ビビヨンの繰り出す『ぼうふう』による竜巻で威力増強、高度確保を行った。
後は、飛び出すタイミングを合わせれば、ポッポの重力付加『でんこうせっか』以上の速攻が可能となる。

とはいえ、技を耐えなくてはならない為、瀕死になっていたらゲームオーバー。


やはり、ハリマロン自身の根性によるものだろう。




地面にフラフラと飛んでいるビビヨンに、その勢いを使い、懐に飛び込んでいくハリマロン。


エリカは叫ぶ。




「ここだっ!『たいあたり』!!!!!」







全力の一撃が、近距離で命中する。そして、その勢いでビビヨンは壁に叩きつけられる。
そして、ズルズルと地面に落ちていく。


森林の女王が、陥落する。


もう既に目を回しているビビヨンを見て、戦う体力が尽きた事を悟った一人目の番人は、こう告げた。



「………………負けたわ、まさか私がチャンスを逃すなんて、ね」


その敗北宣言を聞いたエリカは、3秒ほど経ってから、息を吸い込み、その思いを口にした。

「………や、やった!!!!! 私、勝ったんだ!!!」

胸元に飛び込んでくるハリマロンをしっかりと受け止め、強く抱きしめる。その表情はどちらも凄く嬉しそうだ。そんな2人の元に歩いてくるビオラは彼女達を讃えた。


「まさか、『ちょうのまい』で威力が上がった『ぼうふう』を利用して技を当てるなんて…………………思ってもみなかった!」

「……………ありがとうございます! 実は土壇場で思いついたんですけどね……………」

「ここぞという時に一手を思いつけるのは立派な長所よ! 本当にすごいわ!!」


一通り感想戦を終えた所で、ビオラは壁を超えた証をエリカの掌に乗せる。

それはレディバのような造形をしており、エリカの着ている服のような黄緑色に輝いている。







「それはバグバッチ。ハクダンジムリーダーである私を超えた証よ、あなた達なら次の壁も超えられそうね! これからも頑張って!!!」


激励を貰ったエリカは、今日で一番大きな声で返す。








「!!! ……………はいっっ!!!!!!!」














ポケモンセンター


「ふぅ〜疲れた〜」

「お疲れ様です、それとジム攻略おめでとうございます」

ソファで烏龍茶を堪能しているヒュウガとエリカ。現在ハリマロン達は傷ついた体を治すために治療に出している。

「烏龍茶には対殺菌、疲労回復等の効果もありますから休息には丁度いいのですよ」

「へぇ〜そうなんだ」

ヒュウガはズズズッと残りを流し込むと、エリカに尋ねる。

「次に、ここから近い町はミアレシティですね」

カロスの文化の中心、ミアレシティ。そこでは数々の企業や人々、ポケモン達が共存している。そこにはポケモンジムもある。街の中心に座しているプリズムタワーの内部がジムとなっているのだ。

「うん! 次は、そこのジムリーダーに挑むつもりだよ!」

充分な意気込みも聞けたところで、ヒュウガは休息を促す。

「今日はジム戦もあって疲れているでしょうから、ゆっくり休んで明日から出発しましょう」

「もちろんだよ!」




















今日超えた壁は、まだ一部に過ぎない。







織田秀吉 ( 2017/09/15(金) 17:47 )