第二章
第7話




ヒュウガとの特訓を始めてから数日後、エリカは自らの最初の舞台となるハクダンジムに来ていた。

扉の前にはメイスイタウンであったカメラマン兼ジムリーダーのビオラがカメラを構えて待ち構えていた。

出会って第一声が、


「………うん!新米トレーナーが壁を越えようとする姿は、いつ見ても美しいものね!」


まずは深呼吸、気持ちを落ち着かせる。


そしてエリカは、再び大きく息を吸い込むと街全体に聞こえる様な大音量で、


「今日は! ジム戦を!!申し込みに来ました!!!」


辺りを歩いていた人々がギョッとした顔でこちらを見ているが、それを知るのはビオラだけだった。

それを聞き終えた一つ目の番人は、微笑みかけて建物の中に手招きする。エリカは誘われるがままにその中へと入っていく。

挑戦者を迎え入れたのは、数々の写真達。

風景、
人物、
中にはポケモンの生態を捉えたものまで選り取りみどりの状態だった。

ビオラは奥に歩きつつも、自身の経緯について語っていた。

「私はね、小さい頃におじいちゃんの撮っていた写真に憧れて今の職業に就いたの。その人はトレーナーとしても一流で誰もが一目置くほどだったわ」

「その人は、今はどこに……………?」

彼女は問いに答えなかった。
その反応から察したエリカは、後悔しつつも別の話題に軌道修正する。

「どうして、虫タイプを専門にしているんですか?」


今度は、ゆっくりだが力強く語り始めた。

「私達カメラマンは、美しい一瞬を切り取ろうとする。それは分かるわね?」

「はい……………何とか」

「だけど、虫は卵から生まれ、から成長し、空に羽ばたくまでの過程、一瞬ともいえる短い時間で懸命に生きる所も全てひっくるめて美しいと感じさせる力がある。そこに憧れて私は虫ポケモンを使い続けているのよ」


話を聞いていたエリカは、その話から彼女_______ビオラのトレーナーとしての信念の強さを肌で感じた。気を抜いていれば一瞬で終わってしまう。


もう1度深い深呼吸をする。

今度こそ気持ちが落ち着いたのを確認した時には、開けた場所に出た。

気合を入れ直していた間に、目的地が近づいていたことに気がつかなかった様だ。



「さあ、着いたわよ」



その目に写ったのは………………………………沢山の植物に囲まれた森のバトルフィールドだった。まるで植物園にでも来たのかと思う程である。


「凄い………………」


番人が2回目の自己紹介をする。


「…………さっきの気合い、しっかりと受け止めたわ! 改めて、ハクダンジムへようこそ!!
私はジムリーダーのビオラよ!! 」


やはり、挨拶や自己紹介はされたら返すのが礼儀である。


「私は、アサメタウンのエリカ! 旅立ってからまだ1週間未満ですが、よろしくお願いします!!!!!!!」


外でした時と負けず劣らずの音量で紹介し終わったところで、


番人__________ビオラが対戦ルールを説明する。

「ここでは、お互いの使用ポケモンは2匹よ!どちらかが全て戦闘不能になったら試合終了、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められるわ!」


「……………分かりました!」


エリカも何とか1度でルールを理解することが出来た。お互い一つ目のボールを取り出す。

そして、両者同時に中央めがけて投げ入れる。



「頼むわよ! アメタマ!」

「ポッポ、お願いッ!!!」


ビオラは細い四本足を持った水色のポケモン『アメタマ』を、エリカは初めてゲットした小鳥ポケモン『ポッポ』を繰り出した。

両者出揃ったところで、ビオラはバトル開始を宣言した。

「では、始めましょう! 蝶のように舞い、蜂のようにシャッターチャンスを狙う!」



バトルとなっては、容赦は不要。エリカは速攻の先制攻撃を仕掛ける。ポッポはそれを察したのか強く羽ばたき始める。


「ポッポ! 『でんこうせっか』だよ!!」


未進化ポケモンとは思えない……………高速と言っても差し支えない速度で天井ギリギリまで上昇する。そこから標準をつけるかの如くアメタマを見据える。
そこからアメタマに向けて一直線に猛スピードによる急降下を開始する。技の通り、正しく電光石火の様だ。


ポッポがゲット時に見せた、重力を付加しての攻撃をエリカは特訓により、更に威力や精度を上げる事が出来た。そう簡単にこの速度は見破ることは出来ない。


ビオラもこのような攻撃は予想していなかった為、回避もままならずにアメタマは技をモロに受けてしまう。
数メートル吹き飛ばされるものの、すぐに体制を整える。


流石ジムリーダーのポケモンという所か。

まだまだ戦えそうである。




「今度はこちらの番ね! アメタマ!『れいとうビーム』!!」


アメタマが自身の頭上に冷気を集中させる。そして、それをレーザーとして先程のお返しと言わんばかりに勢いよく発射する。


「アメタマに近づきながら躱して!!!!!!」


ポッポは冷気のレーザー光線をくぐり抜ける。
それでも執拗に追いかけてくる攻撃を回転するようにしながら躱しつつアメタマとの距離を詰める。
そこで大きく翼を広げたポッポが思い切り羽ばたいていく。


「ここで『かぜおこし』!!!」


エリカが指示した瞬間、アメタマを中心に強風が渦巻き始める。
気を引き締めていなければ巻き込まれそうになる状態で、アメタマは必死に踏ん張っている。
エリカはそこに好機を見出した。


「今だよ! 『でんこうせっか』で決めちゃって!!!!!」


『かぜおこし』を即座に中止したポッポは、先程とは違いその場からノーモーションでアメタマに突撃する。


「アメタマ!避けて!」


ビオラが回避を指示するも、強風で体力が削れていたアメタマは一瞬反応が遅れてしまう。
ポッポの渾身の一撃は、アメタマに見事クリーンヒットする。
直撃を受けたアメタマは、ビオラ側の壁面に叩きつけられ目を回している。戦闘不能である。


「やったね! ポッポ!初白星だよ!」


エリカは今の勝利に大いに喜び、ポッポ自体も自らの存在を知らしめるかのように一鳴きした。


「お疲れ様、ゆっくり休んでね」


そう言って、アメタマをボールに戻すと、エリカの方に向き直る。

「……………まさか私のアメタマが、こんなに短い時間で倒されるなんて思ってもなかったわ」

いきなりそう言われたので、思わず顔を赤くしながら一礼したエリカ。しかし、ビオラはすぐに別のボールを取り出した。

「でも、この子相手にそう上手くいくかしら? 出てきて! ビビヨン!!!」


もう一つのボールから出てきたのは、ピンク色で美しい模様をした2枚の大きな羽根、可愛らしい小さな体を持ったポケモン。

森林の女王『ビビヨン』がフィールドに舞い降りた。



「さあ、勝利という名の作品を撮らせてもらうわよ!!!」











目の前の壁は、まだまだ超えさせてはくれないようだ……………………………







織田秀吉 ( 2017/09/14(木) 22:36 )