勝負の後にはお茶の時間を - 第二章
第6話




ハクダンシティ ポケモンセンター内


「………ネオフレア団、確かにそう言っていたんですね?」


一つの丸型のテーブルを挟むようにして二つのソファが設置されている。

片方に座っているのは、茶色いコートを着込み、どことなく渋い雰囲気を醸し出している一人の男。
もう片方には、事件の目撃者であるヒュウガとエリカが座っている。
男が、その時何があったのかを事細やかに質問を重ねていく。
ヒュウガはそれに対して淀みなくその時の状況を話している。
エリカはその様子をどことなく落ち着かない表情で見つめている。




ハクダンの森で倒れていたポケモン達、その声を聞いてエリカ達がその方向に進むと、ネオフレア団という組織が、禁忌の技術
『ダーク化』の能力テストをしていた。

その後すぐに撤退していったものの、ヒュウガはポケモン達の応急処置、エリカは街まで状況を伝えに行く事になった。
幸い、エリカの足は大人の男性にも引けを取らないくらいに鍛えられていた。
その現場に警察官らがたったの20分後には辿り着けたのはそのような背景もあったからだった。ポケモン達を手分けしてポケモンセンターに運んでいったその翌日、なんと国際警察がハクダンシティに訪れた。


そのメンバーが、エリカとヒュウガに状況説明を求めて来たことから、現在の状況に至る。
幸いにもポケモン達は全員命に別状は無いとのことだった。

「……………ダークポケモンを使ってきたのか?」

「はい、私のドデカバシの『ロックブラスト』が突然黒炎に包まれた所を見ますと、あれは通常のポケモンの技ではないと思います」

「それは確かかな?」

「ええ、これでも研究職に就いていますので、区別はつくと思っています」


それを聞いてからおよそ10秒、男は顎に手を当て考え込んだ。

「なるほど、これは詳しく調査する必要がある。……………………協力感謝するよ。後は任せてくれたまえ」

その宣言を聞いたヒュウガは、「よろしくお願いします」と返答した。男はソファから立ち上がると、出口の方へと歩いていった。


「……………ネオフレア団、そんな集団が居たんだ………………」

「まぁ、只の愉快犯のせいかもしれませんよ? ……………あそこまで狂ってるのは相当ですし」



ダークポケモンという禁忌を使用している時点で愉快犯な訳が無いのだが、今のエリカを宥めるにはちょうど良い言葉だったようだ。
彼女はクスッと小さく笑うと、自身の顔を両手で叩き活を入れた。

「よし!今日はゆっくり休んで明日から特訓だ!」

いつもの元気を取り戻したエリカを見た研究者は、暖かい目でそれを見つめていた。しかし、すぐに元の表情に戻すと、エリカには現実を突きつけた。

「所で、ジム戦の対策は思いつきました?」


何かが固まる音が聞こえた気がした。
おおよそ予想が付くが、対策など頭の隅に追いやられていたエリカは真っ白に染まっていた。ヒュウガは思わず呆れ顔だ。


「…………………後でバトルフィールドに来てください。手伝いますから」

その提案に1人では何日かかっても思いつく訳が無いことを悟ったエリカは、一も二もなく、

「よろしくお願いします」

即答するのは当然の結果とも言えた。




その後、エリカの初ジム戦は1週間後に決まった。








ポケモンセンター 外




町にあるポケモンセンターの近くには、公用のバトルフィールドが設置されているのが定番となっている。

普段なら誰かしらが使っているのだが、今日は運が良いのか実質貸切状態と言っても過言では無かった。


そのフィールドの真ん中で、ヒュウガが即席のジム戦対策講座を開講していた。

「この町のジムリーダーであるビオラさんは、主に虫タイプのポケモンを使用してきます。まず、虫タイプの弱点は何ですか?」

まずは使ってくるタイプ等の要点整理から入る。

まだ初心者であるエリカに相性をきちんと教えるという意味でも順当な選択である。

「ええっと、炎と岩と……………飛行タイプ!」

これは、つっかえながらも答えられた。

次の質問が飛んでくる。

「では、あなたのポケモンの中で虫タイプに有利なのは?」

「ポッポ!」

「その通りです。逆に不利なのは?」

「………………確か、虫は草を食べるから………………ハリマロンだ!」

「そうです。ポッポなら比較的有利に立ち回れますが、ハリマロンには攻撃一つとっても劣勢になるでしょう」


ここで、ポッポだけを重点的に育てる………………………という腑抜けた考えを出す訳では無い。

ここできちんと満遍なく育てることで、

始めて、ポケモントレーナーとしての門を叩く事が出来る。

今までの付き合いから、そのトレーナー自身の気質も見極めてこう提案してきた。


「ならば、相手に何かさせる前に叩く事が出来れば充分に戦えます。有利なら更に有利に、不利ならばその差を縮める事が出来るでしょう」

それを聞いた途端、彼女が満面の笑みで聞き返してきた。

「つまり、スピード勝負すればいいんだね!?」

エリカがしっかりと理解出来たのを確認して、一旦一息吐く。そして、次の段階に入る。

戦術を理解したならば、次は手段だ。

「虫タイプは主に、巣を作る時などに使う糸を用いた独特のバトルスタイルが中心です。それに捕まってしまえば相手のペースに持ち込まれかねません」

その代表としては、『いとをはく』等が代表的だ。

だがしかし、それ一つとっても様々な用途が存在する。

相手の拘束だけではなく、移動手段や攻撃の手段としても応用することが出来る。

相手よりも先に仕掛け、自分のペースに持っていく事が最優先とも言える。

これは『一気呵成』という心構えに通じる。

勝負の始まりと共に奇襲を掛け、相手に反撃させる暇を与えない。という物だ。


そして、再びヒュウガは思考を巡らせる。

これを成功させるにはどのような練習が必要だろうか。虫タイプは技も厄介だが、その殆どはそこそこ高い移動速度を誇っている。エリカのポケモンもそれなりにスピードはあるが、今の状態では若干不安が残る。




ヒュウガの考えた結論は、案外単純だった。

バックからボールを一つ取り出す。


「出てきて下さい」

フィールドに出てきたのは、つい先日見たばかりのドデカバシだった。

研究者は、更にバックから水色の布を1枚取り出すと、それをドデカバシの首に巻き付けた。エリカは勿論、それを初めて見たので頭にクエスチョンマークを浮かべる。

「その布は?」

「”こだわりスカーフ”という物です。これを付けているとバトル中使える技が一つに絞られる代わりに、スピードを増強してくれる道具です」

スピードと引き換えにとはいえ、技が一つしか使えないのは大きなハンデとなる。当然、エリカには使いこなせるわけがない。

彼女も、なんでそれを出したの?

と、言いたげな顔をしていたが、次のヒュウガの一言で全てを理解することが出来た。


「………さて、この状態のドデカバシに着いてこれますか?」


要するに、相手を攪乱する事が出来る程のスピードを身につけさせようと言う、単純なものだ。

実際、この方が一番効率が良かった。

頭よりも体で覚えるエリカにとっては、実にシンプルかつ分かりやすい特訓内容だった。



気合いだめがてらに大きな声で、






「………よっし!絶対やって見せる!!!!!」













実はドデカバシという種族は、スピードがあまり高くない。

ヒュウガのドデカバシも例外ではなく、普段は上空、もしくは遠距離からダメージを蓄積させて、終盤で接近して仕留めるという戦法を使っている。

しかし、”こだわりスカーフ”の威力は絶大なものだった。

普段はスピードがあまり出ないドデカバシが、およそ横30m、縦50m程あるフィールドを1分で10周する程だった。

通常と比べると、およそ1.5倍程に上昇しているのだ。オマケにバトルではないため、技固定のリスクを気にする必要もない。


最初の2日は、ハリマロンはもちろん、ポッポでさえも追いつくことが出来ずに周回遅れを重ねていった。

エリカは応援しようと一緒に走ったが、流石にポケモンに追いつくことは出来ずにすぐにリタイアしていた。





しかし、人間もポケモンも努力をすれば何かしらの恩恵は得られるものだ。


そこから後には、徐々にスピードを上げていった。

最終日になると、ハリマロンとポッポは遂に、スカーフ装備状態のドデカバシに追いつける程にまで成長したのだ。


これには喜びのあまり、エリカは疲れもわすれ両手で大きなガッツポーズを取る。


ヒュウガも思わず笑みが零れる。
が、すぐに彼女を現実に引き戻す。

「まだ、ジム戦は乗り越えていません。いよいよ明日ですが、油断しないようにして下さい」

その忠告に、彼女は強い意志を込めた渾身の返答を送る。



「………………もちろん!!」



これなら、問題ないでしょう。

ヒュウガは最後の段階に入った。
それは大それた事のように聞こえるが、実際は、

「明日に備えて、今日はもう寝てください。烏龍茶入れますから」

休息をしっかりと取る、という事だった。
もちろん、これも重要な事なのだが、その言葉を言い終える前にエリカがハリマロン達を連れて自身の部屋に戻っていた。




……………………………本当に、大丈夫でしょうか。



研究者の心の中は、自信大半不安少々の状態だった。

もちろん、烏龍茶関連は別の部分を占めているため、正確には、『心の中』の後に括弧で(の一部分では)を付けるべきであるのだが。















シャワーを浴び、パジャマに着替えたエリカは、ふかふかのベットに『ロケットずつき』の如く飛び込む。そのまま、天井を見上げる。こちらは楽しみ半分不安半分となっている。

彼女は呟く。


「明日は、頑張ろうね」


それは、ポケモン達への言葉なのか、それとも自分への言葉なのか。

彼女のみ知る事だ。



























織田秀吉 ( 2017/09/13(水) 17:45 )