勝負の後にはお茶の時間を - 第二章
第13話








「いいですか? 危ないと思ったらすぐに逃げてください。それと、極力道草を食わないように………」


「大丈夫大丈夫! ヘーキヘーキ!」



何処からそのような自信が出ているのか、全く見当もつかない。万が一の為に『あなぬけのひも』等の緊急用の道具を補充しておいたが、それでも不安要素は払いきれない。どこで何が出てきても必ず冷静に対処できるとは限らない。

実践にまだまだ不慣れなエリカもそうだが、自分自身も気を抜かない様にしなければならない。殆どの洞窟や森では、当たり前だが、あらゆる所から興味を示したポケモンが現れる。その中には好戦的な個体も当然存在する。

彼らの住処は、彼ら自身の一番の戦場ともなりうる。それ故に、注意を怠れば戦況は確実に不利になる。ジム戦と野試合は似て非なるものである事を、理解しなければ命取りだ。だからこそその重要性を指導しようとしたのだが、『ポニータの耳にも念仏』だ。聴いてはいるが、どうも楽観視している節がある。初心者トレーナーならばまだ夢だけに満ち溢れているのが普通なので何も不自然所はないが、不安だ。


しかし、いざとなれば大人顔負けの瞬足を誇るエリカの事だ。本当に危険な時は、自力で脱出出来るだろう。

なら……………

「………大丈夫ですね」

「大丈夫って、何が?」

自身の呟いた一言に反応されたヒュウガは、「何でもないですよ」、と言いつつ目的地に向けて歩き出した。








全てを吸い尽くすブラックホールにも見えるそれは、その前に立っている2人のトレーナーが自身で飛び込んでくるのを悠然と待ち構えている。内部は薄暗い上に凹凸が激しく、気を配っていなければ躓いてしまいそうだ。
研究者は気にせずに持ち物を再確認し、少女は口を大きく開けて天然の要塞を眺めている。


「凄い……………………」

「自然の力は、遥かに大きいものです。暖かな日差しを届けたかと思えば、強風と豪雨が襲ってくる事はしょっちゅうですよ、茶葉にとっても同じことです」


後半の部分は聞いていなかったが、気が遠くなるほどの時間を掛けて自分の前に聳えているものが構築された事だけは分かった。それと同時に、今まで気にしていなかった自然に不思議と興味が湧いてくるのを感じた。一刻も早くその中を見てみたい。だが、もう片方はまだ準備をしている。抑えきれずに、そのままそれが行動に現れてしまう。

「………ヒュウガ、先に行くよー?」


しかし、彼の反応はない。

なら、行っても大丈夫だよね?

すぐ戻れば問題ないし、いいか!



そう勝手に結論づけて、探検に出発しようとした時、



「ギャアアアアアアアアァァァァァ!!!!!!!」



果てしない悲鳴が洞窟の中から響く。何かに追い詰められている時に特有のそれは、時間と比例するごとに音量が増していく事から音源が近づいてくることが分かる。その爆音波がピークに達した時、突然エリカの目に何かが映った。

「どいてくれぇええええええ!!!!!!!」

スピードを緩めることなくこちらに向かって飛び込んできたそれは、トレーナーと思われる1人の男だった。彼は、勢い余ってバランスを崩しかけたがすぐに体勢を修正し見事に着地を決めた。その出で立ちは気温が高く、半袖でも気持ちよく過ごせる春にはとても似合うものではない黒色のジャンパーに紺色のジーンズ、首にはポケモン_______エリカには見覚えのない種族をモデルとしたプリントが施されている黒のチョーカーを身につけていた。顔と雰囲気が大人と子供の中間ほどであることから、年齢は恐らく10代半ばであることが伺える。黒色の髪が、服装と相まってそれなりに際立っている。



……………それでも、今の季節とはアンバランスであることは変わらない事実だが。

そんな事を考えている所を、彼は唖然しているのかと思ったのか勝手に自己紹介をしてきた。

「おっと、すまないな。紹介が遅れた。俺はカズマ、ポケモントレーナーの端くれだぜ。いやぁ、ついさっきズバットの群れに襲われてな? あまりにも数が多いもんだから全速力で逃げてきた所だ。という訳でよろしく!」

「よ、よろしく……………」


エリカの顔に疑問の色が走る。何故、トレーナーでありながら応戦せずに逃走したのか。疑問をアウトプットしようとしたが、すぐに思い直した。


私だったら、どんなに強くなったとしてもポケモンの群れには絶対に突っ込みたくない。

彼に対する第一印象(無計画そうなトレーナー)を少し変えた。


「実は、その群れにいい修行になると思って突撃したんだが、半数倒した所で倍以上の援軍が来たのは驚いたけどな!」


さっきの発言はなかったことにしよう。やはり、この人は最初の印象で合っていた様だ。むしろ、その度合いはより強くなったが。

「よく戦おうと思ったね………」

「エリカ、それは私も思いましたが…………初対面で年上の人には敬語ぐらいは使いましょうか? 」

背後から聞きなれた声がした。振り返ってみれば、案の定先程まで装備の確認をしていたヒュウガが呆れた顔でこちらを見ていた。
大方、無鉄砲すぎるトレーナー______カズマとの会話の途中でこちらに気づいていたのだろう。今はそんな事に気を取られている場合ではないが。ひとまず、こちらからも簡単に自己紹介をしておくことにした。

「挨拶が遅れました。私はヒュウガ、研究者の端くれをしている者です」

「私はエリカ! 実はまだ旅立ってからそこまで経ってないけれど、よろしくね!」

カズマは心做しか嬉しそうな表情をして、こちらに、その右手を伸ばした。

「ああ!よろしく頼むぜ!!」











洞窟の中に入ってみれば、あちこちが岩だらけで、足場は不安定。更に水も滴っているからタチが悪い。今回ばかりは全力で走るのは避けるべきだ。周りを見渡しながら進んでいくエリカは肝に刻んだ。

「カズマ、あなたよくこんな場所を全力で走って転びませんでしたね」

「こんな所、地元の沼地と比べればへの河童って奴だな!」


話を聞いてみれば、彼はこの先の街に行こうとしたが道に迷っていたらしい。そこで偶然ズバットの大群に遭遇、途中で退避したらこれまた偶然、元きた入口にたどり着いた。
そこでエリカ達とエンカウントしたという事だった。

運が良いのか悪いのかよく分からないが、彼が相当なトラブルメーカーという事は分かった。エリカとヒュウガ、二人同時に同じような事を考えていたが、エリカの方は人の事を言えていない。

「なあ」

カズマが口を開く。彼に失礼極まりない考えを持っていた二人は動揺しかけたが悟られずに済んだ。

「どうしてアンタらはここに来たんだ? 」

「私たちはとある人に頼まれて薬草を探しに来たんですよ」

エリカも補足に入る。その探し物の詳細を拙いながらも説明した。

「確か、青くて小さいお花だって!」

話し終わった時、聞いていたカズマが急にてを顎に添える。暫く何かを思い出そうとしているようだった。その動作に、ヒュウガはある種の期待を持った。

「もしかして、見ました?」

「………ああ、そんな感じの奴は逃げる途中で見かけたぜ」

期待通りの返答を構築する文字の羅列を聞いた後、続けて詳細を尋ねる。尚、この時エリカは場所が分かったかもしれない、位にしか意識していなかった。

「確か、この辺りだったと思うんだがな……………」

カズマがこの周辺をキョロキョロと見渡す。ヒュウガも目を凝らして近くを見てみるが、なかなかそれらしき物は見当たらなかった。その二人を気にもせずに、エリカは少し遠くを見通していた。視野を満遍なく捜索している彼女は、天敵を探すゼブライカの様にも見える。5分もしない内に、現在地から15m弱離れた位置に何かが見えた。そこにズームを合わせてみれば、青く小さな花_______お目当ての薬草と思われる物がそこに存在していた。エリカは2人にその旨を伝えた。

……………大声で。


「ヒュウガー!!! カズマー!!! 見つけたよー!!!!!」


後ろから、鈍い衝撃音が聞こえた気がした。

呼ばれた二人は振り返ってエリカの方を見たが、その顔は何故か青ざめている。エリカにはその理由が全く分からなかった。ヒュウガが指摘するまでは。


「エリカッ!!! そこから離れてくださいッ!!!!!」

「へっ?」


その瞬間、とてつもなく大きな足音がその場全体を轟かせた。思わず冷や汗を流しつつ恐る恐る後ろを見る。そこに居たのは…………………




「ガャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!」





黄土色に輝く頑丈な鱗、目は血のように赤く光り、顔には日本刀を連想させる程の鋭利な牙を備えた________ドラゴン。



洞窟の主と思われる、あごオノポケモンの『オノノクス』は、明らかな敵意を持ってエリカ達をその眼光で縛り付けていた。









織田秀吉 ( 2017/10/04(水) 20:37 )