勝負の後にはお茶の時間を - 第二章
第12話




ミアレシティでプラターヌ博士からエールを貰った新人と研究者の2人組。
ゲートを抜け、のどかな自然を楽しみ、バトルも行い、お茶も嗜みつつ歩き続けるエリカとヒュウガ。彼らは次のジムがある所、ショウヨウシティ目指して進んでいく。


「ねえ〜ヒュウガ〜そろそろ休もうよ〜」

「もうですか? ついさっき休憩したばかりでしょう」

「お腹が空いて、力が出ない〜」

「………仕方ありませんね、丁度この近くに小さな町があるそうですから、そこに寄りましょうか」


バックからガイドブックを広げると、地図のページのとある一点を指さした。
そこには『コポクタウン』と書かれている。

そこは昔、とある貴族が開拓した城下町で、煉瓦造りの白い住宅が特徴である。
人々は基本的に穏やかで、観光客にも友好的な事で有名所とされている。

しかも、毎年春になると作物の豊作を願って、大規模な祭りを執り行う。そこでは観光客も住民も関係なく受け入れる。
まさに、町の特徴をそのまま表したと言っても決して言い過ぎではない。

ガイドブックに書かれた説明を読み上げて行く。それは祭りの内容についての文章だった。


「『この祭りでは多種多様な料理が振る舞われる。』と書かれていますね」


この時、エリカの耳が少し動きを見せた。
それに気づかずに言葉を続けていく。その度に、彼女の目が光を増していく。


「『オレンパイやマトマスープ、その他各種の郷土料理等もチェックしておきたい』と………」

「見せてっ!!!!!!!!」




その時、彼の目には残像と化したエリカの姿が映った。









何時から、この娘は『しんそく』と『どろぼう』を習得したのだろうか。

男はそう語る。

いや、実際には人間がポケモンの技を覚えることは出来る筈がない。
しかし、そう思わずにはいられない。ついさっき、この手でしっかりと掴んでいたガイドブックが、いつの間にか彼女の手に渡っていたのだから。




小判を見つけた時のニャースよろしく目を光らせて奪い取ったガイドブックを読んでいる彼女は、こちらの心境など知る訳もない。


もはや、感嘆等を通り越して、恐怖しか感じ取れない。





「………やっぱりこれも食べたいし、あれも見逃せないな………」


いい加減考えるのも面倒になってきた。そこで、今思考回路がオーバーヒートしそうな彼女の頭を少し冷ますことにした。そのうち、自身がターゲットにされた時の保証がないからだ。

……捕まるのは分かってはいる。遅かれ早かれどの道二つに一つ。少なくとも今ではない。せめて、心の準備をしたかった。


研究者は、飢えたハンターがガイドブックに釘付けになっている間、足音を極力立てない様に、かつ迅速に距離を取る。決して振り向かずに。振り向いた場合、自分は一瞬でリタイアとなる。


慎重に気配を消した甲斐もあり、5分もしない内に、2人の間は500mもの距離で隔てられた。平均の成人男性でもおよそ27.8秒はかかる。仮に今から追いかけてきても、大人並みの足を持っているエリカであっても、自分の覚悟を決める時間ぐらいはある。

ここで恐々としつつ後ろを振り返る。

彼女はまだ、食欲の檻に囚われている。暫くはこちらに気づかない。


逃走者は、心の中で胸を撫で下ろす。




すぐ近くから聞きなれた、或いは恐怖の対象もなる少女の声が聞こえてきた。それも通常よりも遥かに無邪気に。


「………ヒューウーガー? 」



………これは、幻聴だろう。

幻聴以外の何物でもない。

まず、自分が今の地点に到達してから経過したのは、ほんの少しの時間だ。

勿論、遠くから聞こえてきた訳では無い。

……………顔を引き攣らせて、後ろを覗いてみれば、現実はそこにあった。


500m後にいた筈のエリカが、気づけば自分の後ろに立っていた。



「驚いた? 実はね、ピジョンに『おいかぜ』してもらったんだ!」


その名の通り、自軍の移動速度を上げる飛行タイプの補助技の一つ。それによって起こされる影響は決して小さいものなどではない。

とあるデータには、使用後で通常の約2倍もの増強が確認された。

平均30秒の距離を、ピジョンをボールに出し入れするタイムラグを考慮しても、20秒も掛からないうちに追いつける事になる。


そんな計算をしているヒュウガに、ハンターはとても眩しく見えるような爆発スマイルを浮かべる。


「私、お祭りに行きたい!!!」



結局、押されるがままにその収穫祭に乱入していく事となった。















その後、

「お祭り、終わっちゃったんですか!?」

「はい、昨日は大盛況の中締めくくられました」

街に来たのは良いものの、やけに静かだったのが気になり、近くにいた女性に話を聞いた。

エリカは、その答えを聞いたと同時に肩を深く落としてしまった。

その祭りは、なんとその日の前日に終了してしまっていたのだと言う。当然、料理等はある筈もなく、住民達は普段通りの生活を送っている。

そこには祭り特有の熱された空気など微塵も感じられず、寧ろ穏やかな春の陽射しのようにも思える。と言うよりも、今実際に春真っ盛りなのだが。


「………エリカ、ここは一旦引きましょう」


その一部始終を見ていたヒュウガは、まだ落胆しすぎて周りに『くろいきり』を発生させている彼女に視線を投げる。しかし、一向に動く気配がない。ここでどうするべきかを検討しようとしたその時、思わぬ起爆剤が投げ込まれた。


「あの、実は昨日作った料理がまだ余っているので良ければ………」


それが女性の口から発せられた瞬間、辺りのどんよりとした空気が一気に晴れ渡った。その発生源であった彼女は、やっと顔を上げる。


「是非!!!!!!!」












「ん〜!美味しかった〜」

「すみません、ご馳走になってしまって」

少し大きめのダイニングテーブルの上には、既に空となっている食器の数々。
たっぷりと平らげ、その余韻に浸っているエリカの横で、相も変わらず烏龍茶を啜っているヒュウガ。

彼らと向かい合う形で座っている女性は、こちらを見て微笑んでいる。だが、その顔は何処か別の感情を含んでいるようにも思える。


「どうかしましたか?」

「ああ、いえ。………少し母の事を考えていまして………」


この時、女性の表情が更に曇ったのをヒュウガは見逃すはずも無い。少々踏み込みすぎるが、垂直に切ってみる。


「……もしかして、お母さんはご病気ですか?」

「はい、そうなんです。つい1週間前、急に頭痛や倦怠感を訴えてきたので診察に行ったら…………」



一応、研究者として薬学の道にも通じている彼はこの辺りの薬となりそうな植物等を模索する。その間も、女性は話を続けているが聞き逃さない。


「その病気は、少々特殊な物なんです。通常なら1週間で治るのですが、これはその3倍はかかると言われまして……」


ここで、ヒュウガはやっと条件に当てはまる薬を見つけ出した。それの詳細を伝える。


「なら、青色の小さな花を見たことがありますか? あれなら、その症状も治せると思います」


しかし、それを聞いてなお表情は晴れない。その理由は、聞くまでもなく彼女が自ら話してくれた。


「見たことはあるのですが、それは『地繋ぎの洞窟』周辺に生えているみたいなのですが、そこには恐ろしく凶暴な主がいるらしくて……………」



大体のエリアでは、そこを縄張りとして支配しているポケモンがいる事が常となっている。今回の場合もその類だろう。なら、回復用の薬などを常備しておけば良いだろう。また、この地域のレベルはさほど高い理由でもない。ここまでを瞬時に計算する。

彼女には戦闘能力が無いことが分かったので自宅に待機してもらう。唯一の気がかりが……………



「要するに、そのポケモンを倒して花を摘めばいいんだね?」



エリカをどうするか。



一応この辺りのレベルは低いとは言ったが、主もその限りとは言いづらい。今の彼女の実力で太刀打ちできるかどうかもわからない。

もしも、彼女に何かあったら。

これが最大の難点だった。

自分1人で行くのが最善だが、頭よりも体が先に動くエリカがそれで納得するわけがない。守りながら行くにしても………







必死に思考を繰り広げている所に、口を開きかけたスピードガール、エリカ。彼女の答えは何と出るのか………











織田秀吉 ( 2017/09/25(月) 15:33 )