砂漠と烏龍茶と太陽
ここは、自然と人工物が混じりあった世界とも言えるイッシュ地方。そこの一角には、古代遺跡が隠れている……………
その跡地にはかつてイッシュに栄えていた古代文明に関する秘密が埋まっているとの情報を聞きつけ、多くの研究者が訪れた。
しかし、そこから帰ってきたものは誰一人いなかった。そして、そこに調査しに行った研究者達が訪れた日に限ってその周辺の温度が急上昇していた。
その事から、そこは『死の砂漠』と言われるようになった。
そんな所に、一人の研究者が足を踏み入れた。
『Dangerous!! Don't visit here!! 』
砂漠の入口に、このように書かれた看板が、いくつも立てられている。
しかし、それらは私にとってはなんの意味も持たない。
唯一恐れるのは、この世から烏龍茶が消滅することだけだ。
私の名前は、ヒュウガ。人間と関わりの深いポケモンについて調査するため、各地を旅している。今回、古代文明に大いに関わっているポケモンがいると言い伝えられているのを聞きつけて、『死の砂漠』ことリゾートデザートに訪れた。
早速、調査を始めることにする。
いざ、入ってみるとマラカッチやメグノコ、ナックラーなどの砂漠に生息するポケモンの他には、砂しかない。
あたり一面見渡しても、砂……………砂……………砂……………………
風が吹けば、それは大量の砂を巻き込み私の視界を遮る。
追い打ちをかけるように、またグラードンが目覚めたのではないかと疑ってしまうほどの力強さを持った女性の敵の代名詞『日光』が服ごと私の肌を燃やそうとしてくる。
私の手に持っている特注の鉛筆(握りやすいように握る部分の形状を螺旋状にしていて、キャップと繋がっているメタルチェーンに大きめな装飾が付いている)も油断すれば無くしてしまいそうな程に砂が積もっている。
そして、何よりも問題なのが、この気温、湿度だ。
砂が太陽光によって熱されて、その一粒が強烈な熱気を放っている。そのせいで周りの水分が蒸発し辺りが乾燥してしまっている。
つまり、水を体内に貯めることの出来ない人間は、水分を大量に飲まねば生命の危機も有り得るということだ。
私はいつも、白衣のポケットに小型のポットと烏龍茶用ティーパック20袋と天然水を常備している。しかし、この砂漠に入ってからおよそ2時間たった今、既にその備えの量が半分を切っているのだ。更に、その天然水も気温のせいですっかり温まっている。はっきり言って、死活問題だ。
烏龍茶が無くなるということは、私のモチベーションも切れるということであり、それに加えて私の生死にも直結する。こんな所でミイラにはなりたくないため、辺りを集中して見渡してみる。
すると、遠くに何かが見えた。
私は砂嵐をかき分けてその方向に進んでいく。
この道が正解であることを祈りながら…………………いや、正解でなかった場合私は、あの世逝きである。
と言ってはみたが、この砂しかない砂漠で、他の目立つものなどがある訳もなく…………………………………
「…………………正解ですね」
私が見つけたのは、例の古代遺跡の入口だった。
それは、相当な年月が経っているためか、風化した石で構築されている。
すぐに崩れそうなイメージが湧いてくる。
正直、この中に入るのは気が進まない。
生き埋めなど勘弁だ。
二度と烏龍茶が飲めなくなるではないか。
しかし、そんなことを言っていても何も始まらない。
私は、意を決すると隠されている謎に向けた第一歩を踏み出す。
「……………中も中で酷い惨状ですね」
その内部は、地面の所々に砂地獄が出来ており、壁も少し押せば簡単に取り出せそうな程に脆くなっていた。普通の人が通ろうとすればすぐに足場を踏み外すこと請け合いだろう。
と言っても、今までにこれよりも酷いスポットを調査した事がある私にとってこれ位ならば普通に抜けられた。
「これが終わったら、また新しい烏龍茶のティーパックと水を買いに行くのです………!」
………今自分で不吉なフラグを建てた気がしたが、気にしないでおく。そんなこんなで、天然のトラップ通路を無事回避できたその先に待っていたのは………………………
脆そうだった壁は、どこかの国の王宮で使われていそうな大理石の柱によって支えられている。
床の方も穴など一つもなく、やろうと思えばここでフィギュアスケートでも出来そうな程滑らかに仕上げられていた。
そんな天然の芸術をメモ帳に記録していると、ふとその広場の奥に目がいった。
奥の壁に、何かが描かれている。
「これは、なんでしょうか?」
そこに描かれていたのは、文明が栄えていた頃の人々やポケモン達。
そして……………………………
「………………………! これは………!」
8本の太陽のように赤い羽が付いた、大きな蝶。その絵の横には、一つの文が刻まれていた。
「『太陽の神を目覚めさせた者、灼熱の裁きを受けるべし』……………?」
読み終わったその時だった。
『オマエカ ワレヲメザメサセタノハ? ニンゲンドモハ ナンドヤキツクサレテモ コリナイトハ……………アワレナモノダ』
背後から声がした。
振り向いてみると、そこに居たのは、壁に描かれていた赤い蝶。私は身構えると、それは羽を大きく羽ばたかせ…………………………
『ワガナハ ウルガモス 。 タイヨウヲ ツカサドルモノナリ! コノシンデンニ タチイッタツミハオモイゾ!! タイヨウノサバキヲ ウケルガヨイ!!!』
『太陽の神』________________ウルガモスは、私の方を向いて、大きく咆哮した。
すると、この広場一面の気温が急上昇したのが肌で感じられる。
このままでは私の身が危ないので、説得して宥める事にした。
「待ってくださいな。挨拶もまだしていないのですから。」
そう言うと、ウルガモスは先程まで放出していた威圧を抑え、私の話を聞く体制に入った。心の中で一息つくと、挨拶に入った。
「初めましてですね、私はヒュウガ。研究者です。別にここを荒らす気などないので予め伝えておきます。」
『アラスキハナイ? デハ、ナゼココヲオトズレタ』
「今回、私はこの古代遺跡で栄えていた文明とポケモンとの関係を調べるためにここを訪れました。無断で入り込んだことについては謝罪させていただきます。」
私が、深々とウルガモスに頭を下げると、こう答えた。
『……………キガイヲクワエルワケデハナイノハワカッタ。シラベテモカマワナイ。』
こちらに敵意がないということを理解して、警戒を解いてくれただけでなく、
ここでの調査を許してくれた。まだ書き終わっていない箇所があったため、有難くそれに預かろうとした時に条件がつけられた。
『ヒュウガ! オマエハ ポケモンヲツレテイルナ? ナラバ ワタシヲ タタカイデ コエテミセロ!』
そう宣言したウルガモスは、抑えていたプレッシャーを再び放出した。気温も再びジワジワと上がってきた。
「なるほど……………私とバトルしたいということですね? 分かりました、お受けしましょう」
すっかり温まった烏龍茶を流し込み、『太陽の神』を見据えた。こちらのポケモンは3体。しかし、相手は1体だけとはいえ尋常ではない戦闘力を誇っている。ならば、最初はタイプ相性で有利に立ち回るべきだ。
眼鏡を指で持ち上げて、ボールを構える。それを、天井いっぱいに投入した。
「頼みますよ! ドデカバシ!!!」
出てきたのは、大きなクチバシに体を持って、攻撃態勢に入っているおおづつポケモンのドデカバシ。そのクチバシから打ち出される技はどれもバカにならない火力を誇っている。
お互いが準備できたところで、先に動き出したのはウルガモスだった。
『クラエ!!!!! 』
体の中央に炎を集めると、それをこちらに向けて発射してきた。それは、周りの空気を熱しながらドデカバシに当たる寸前まできたところで、
「飛び上がってください!!!」
指示を受けたドデカバシは空中に退避した。当たらなかった『火炎放射』は、後ろにあった柱を黒く焦がした。
あれに当たったら、負ける……………!
そう本能的に感じたと同時に、これ以上相手に攻撃はさせまいと考え、次の行動を伝えた。
「『ロックブラスト』!!!」
ドデカバシは、口にエネルギーを集めると、それでいくつかの岩の弾丸を生成する。岩タイプの技である『ロックブラスト』を喰らえば、炎タイプと虫タイプを持っているウルガモスには、1発でも致命傷になりうる。更に、ドデカバシの特性『スキルリンク』は、連続攻撃を確実に最大回数相手に命中させる事が出来ることも相まって、相手にとっては絶対に受けたくない攻撃である。
『ムダダ!』
相手もそう簡単に受ける訳もなく、大きくざわめき始めた。その時に発生した超音波は『ロックブラスト』をいとも簡単に砕いた上に、ドデカバシにダメージを与えた。
「まだ行けますね?」
そう聞くと、ドデカバシは大きく一鳴きした。幸い、『虫のさざめき』は飛行タイプであるドデカバシにはあまり効果がなかったため、まだ戦闘不能にはなっていない。ここで相手の体力を削るために少々強引な方法に出ることにした。
「天井ギリギリまで上昇してください!」
ドデカバシは言われた通りに天井まで上昇する。それを見据えているウルガモス。
そして、目的地についたのを確認した後に、先程の強引な方法を選択した。
「そこから広場全体に『ロックブラスト』連射してください!!!」
指示した瞬間、一面が岩の弾幕で覆われた。それを舞うように躱していくウルガモス。そして、交わしきれないところを『虫のさざめき』で相殺したその時、
「全力で『ブレイブバード』!!!!」
ドデカバシはその大きな体に青白いオーラを纏うと、天井からウルガモス目掛けて一直線に急降下して行った。
『ロックブラスト』による弾幕を展開し、交わしきれなかった攻撃を相殺したその瞬間に、重力を加えたブレイブバードで体力を大幅に削る………………少々強引だが、最も成功率の高い方法だった。
その一撃は、見事ウルガモスに命中した。確実にダメージを与えることが出来た。ここで追撃しようと次の指示を出す瞬間………………………………ドデカバシが吹き飛ばされた。
「!? ドデカバシ!!」
駆け寄ってみると、羽が所々焦げており、完全に目を回していた。ウルガモスは攻撃を受けた瞬間、零距離で『火炎放射』を放っていたのだ。ドデカバシがその一撃に耐えられるわけもなく、戦闘不能に追い込まれたが、体力を削ることが出来たことでまだ勝機が潰れることは無かった。
「お疲れ様です、後で烏龍茶を作りますから休んでください」
ドデカバシをボールに戻すと、ウルガモスは次を催促した。
『ツギノ ポケモン ヲ ダスガイイ』
体力は削った。ここでするべきなのは、相手の火力を落とすこと。そして、追加的に攻撃を仕掛ける。そう考えると、もう一つのボールを強く握りしめた。そのボールを相手を見据えつつ思いっきり投げ込んだ。
「お願いしますよ! ミジュマル!」
次に出てきたのは、丸い水色の体に、白い頭、そこにはチャームポイントとも言えるソバカスが見える。お腹にはホタテにも似た小刀ホタチを構えている。
水タイプのミジュマルならば、ウルガモスの炎技を半減できるが、あの高火力では、耐えられてもせいぜい1回だろう。だからこそ、ここで相手の火力を落とさなくてはならない。
「今度はこちらからです、『内緒話』!」
ミジュマルは素早くウルガモスの近くに移動すると、耳元で内緒話をし始めた。集中力を削がれたウルガモスの特殊攻撃力はどんどん下がっていく。
『エエイ、 ミミザワリナ!!!』
いい加減イラついてきたウルガモスは、内緒話を続けていたミジュマルを勢いよく振り落とすと、その場で『虫のさざめき』を発動した。先程よりかは威力の落ちているものの、それでもミジュマルを強制的に引き離す位にはまだ残っていた。
攻めるなら、今しかない。
そう感じたヒュウガは、一気に畳み掛ける。
「『シェルブレード』しながら『アクアジェット』です!」
ホタチに青白いオーラを纏わせたミジュマルは、そのまま水流で体を覆った。そして、そのままウルガモス目掛けて突撃していく。
『!!!!!』
『シェルブレード』の威力を加えた『アクアジェット』で、四方八方から連続攻撃を仕掛けていくミジュマル。何とか応戦しようと『虫のさざめき』を放つが、威力の落ちた状態では技を止めることが出来ない。そして、ミジュマルの放った最後の一撃が『太陽の神』に突き刺さった。
吹き飛ばされたウルガモスは、こう言った。
『ナカナカヤルナ ココマデ ホンキヲダシタノモ ヒサシイモノダ』
「ありがとうございます、しかしこれで決めさせて頂きます …………………『アクアジェット』!」
ミジュマルはこれで決めると言わんばかりに勢いよくウルガモスに突っ込んでいく。
しかし、次の瞬間一筋の光がミジュマルを貫いた。
『ソウカンタンニ オワラセルワケガナイダロウ モットタノシマセロ』
『ソーラービーム』
日光を集めてそれを光線として放つ草タイプの技。水タイプのミジュマルには効果は抜群だった。いくら威力が落ちているとはいえ、流石にそれを受けきることは出来なかった。
「………………お見事です。」
止めはさせなかったものの、向こうも既に虫の息…………………洒落のつもりでいったわけではないが。
「この子が、私の最後のポケモンです」
やるべきことはやった。後は、信じるだけだ。ヒュウガは強く、最後のボールを握りしめた。そして、最初よりも力一杯に投げ込んだ。
「さあ、最後です。頼みますよ!」
出てきたのは、腕に2本、下半身に1本大きな毒針を携えた、赤目の毒蜂_______________________スピアー
そして、ヒュウガはポケットに入れた鉛筆を取り出した。それに付いている装飾の蓋を開けると、DNAのようなマークの付いた光り輝く一つの石___________キーストーンが埋め込まれていた。
スピアーの方をよく見ると、首に鉛筆に付いているものと同じような石_________スピアナイトが埋め込まれているスカーフを纏っていた。
「見せましょう、私達の力を……………!」
ヒュウガがキーストーンを天高くかざすと、スピアーの体が光り始めた。そして、スピアナイトと何本もの光の筋で繋がり始めた。
「スピアー!! メガシンカ!!!!!」
そう宣言した時、スピアーを覆っていた光が収まった。そこに居たのは、先程よりも鋭く尖った毒針に、体自体が一つの槍にも見える流麗な形状………………………まさにその姿は
『百戦錬磨の騎士』メガスピアーが相手を見据えてその場に佇んでいた。
『メガシンカ モ ツカエタノカ ソノチカラヲ モットタシカメタイガ ツギデオワラセテクレル………! 』
ウルガモスは、その場で優雅に舞い始めた。『蝶の舞』で、落ちた火力を補い、スピードを高めようとしていた。それに対抗するべく、こちらはスピードを抑える手に出た。
「『エレキネット』!!」
スピアーは新たに増えた2本を加えた5本の毒針に電気エネルギーを作り出し、打ち出した。それらはウルガモスの近くに着弾すると、その電撃が彼の動きを押さえつける。
しかし、向こうは火力を元に戻した。次の一撃で勝負が決まる。
『コレデ トドメダ!!!!!』
ウルガモスは、最初に見たものと比較にならないほど高火力な『火炎放射』を打ち出してきた。しかし、後には戻れない。
「これで決めますよ!!!」
その呼びかけに、スピアーは声を高らかに上げて答える。そして、最後の一撃を繰り出すモーションに入った。
「スピアー!!!!!全力でダブルニードルです!!!!!!!!」
燃え盛る業火に真っ向から飛び込んでいくメガスピアー、炎を受けてなお、その圧倒的速度で炎の海原を突っ切っていく。
そして、
ウルガモスの所にまでたどり着いた。
『ナッ!?』
「今です!!!」
驚いた表情のウルガモスに、スピアーは全力でその両腕による全力の二連撃を打ち込んだ。
効果は今ひとつだが、今のウルガモスを戦闘不能に追い込むには十分すぎるほどだった。
『太陽の神』はその場に倒れ伏した。
『ミゴトダッタ……………………』
バトルの後、思う存分に調査を行ったヒュウガに、ウルガモスは感嘆の声をかけた。
「いえいえ、こちらも危なかったのですから、ここまで強いポケモンと戦ったのは久しぶりでしたからね。あの火力は近年稀に見るものでしたよ」
垂直に褒めると、ウルガモスは急に後ろを向いた。何事かと思ったが、すぐにこちらを振り向いて、こう言ってきた。
『…………ヒュウガ、モシヨケレバ ワタシモツイテイッテヨイダロウカ?』
「えっ?」
『ソノ……………イママデココカラデタコトガナカッタカラ、ソトヲミテミタクナッタ、ダメ、ダロウカ』
それは、嬉しい申し出だった。もちろん、断るわけもなく……………………
「ええ、もちろんです。よろしくお願いしますね」
そう言うと、先程よりも明るい声色でこう返してきた。
『ホントウカッ!? ナラバ、ヨロシクタノムゾ!!!』
笑顔でそれに答えると、一つやり残していたことに気づいた。
やはり、新しい仲間が出来たということは、そう…………………………………………
「そう言えば、ウルガモス?」
『ナンダ? ヒュウガ』
「烏龍茶って、知ってます?」