謎のめまい
「…あっ、あの子達!」
それまで少し気まずかった空気が、シーアの一言で打ち消される。シーアが言ったのは、広場の端で黄色いポケモン―スリープ―と喋っているマルとリルのことだろう。
「おーい!」
ライガが呼びかけると、三匹はこちらを見て、リルが、
「あっ!さっきカクレクさんのトコに居た人達だ!」
と言い、駆け寄ってきた。すると、後の二人も来て、それぞれ自己紹介をする。
「ワタクシ、ユメルと申します」
「ユメルさんはね、私達の探し物を手伝ってくれるの!」
「探し物?なんなんだ?それ」
「ええっと、僕達には、お母さんからもらった宝物があって、でも僕おっちょこちょいだから、なくしてしまって…」
「話を聞けば、その探し物、見たような気がするので連れて行ってあげようと思ったんですよ」
そう言うと、ユメル、マル、リルの三匹は、広場を出て行こうとした。が、途中で、ユメルとシーアがぶつかってしまった。
「おっと。これは失礼」
そう言い残し、ユメルは二人の後をついて行った。不意に、シーアの視界が、揺らぎ、頭がクラクラしてきた。そして、
〈さあ、早く、言う事を聞けば何もしないから〉
スリープ…ユメルとリルだろうか?ユメルが言うと、リルは逃げようとする。しかし、すぐに道を塞がれ、逃げられない。
〈まったく…言う事を聞かないと、痛いめに合わせるぞっ!?〉
〈た、助けてっ!〉
そこで意識は戻った。
「ああいう優しいポケモンもいるんだな。」
ライガの言葉も聞かず、ただただシーアは考えていた。先程のポケモン達は明らかにユメルとリルだ。だが、ユメルは、リルを脅している様に見えた。じゃあ…
「なぁ、シーア?シーア!」
「ふぇっ?な、何?」
「あのなぁ…さっきからぼーっとして、どうしたんだよ?」
シーアは思い切ってさっきの事を話した。するとライガは、
「はぁ?そんな訳ないだろ。だって、ユメルって奴、そんな悪そうに見えなかったぜ?」
「それもそうだけど…」
「まぁ…ここでずっといるのもアレだし、ギルドに戻ろうぜ。今日はアランに仕事を聞くんだったろ?」
「そう…だね…」
半ば腑に落ちない様子のシーアだったが、ギルドへと向かった。
ギルドの地下一階では、アランが昨日とは違う掲示板の前に立っていた。
「遅かったな。まぁいいが…」
すると、ライガが口を開いた。
「なぁ、今日のは昨日のとは違うよな。こっちのは何なんだ?」
「あぁ…昨日、お前たちは掲示板をやっただろ?今日は、お尋ね者掲示板の方をやってくれ」
疑問に思ったのか、シーアが、
「お尋ね者掲示板って何?」
と、聞くと、アランはこう答える。
「お尋ね者掲示板というのは、その名の通り指名手配されているお尋ね者が載っているポスターが貼られる掲示板の事だ。」
そして、掲示板を指して、
「ここに載る奴らは何かを盗んだ、みたいなコソ泥だったり、世紀の大悪党みたいなのもいるから、もうホントにピンキリなんだよ」
「ううっ…そんなとても悪いのとか選ばないでよ?アラン」
そう言い、やや怖がるシーアを見て、アランは笑い、
「大丈夫だ。今のシーア達の実力にあった奴を選んでやるから」
と言うといきなり、けたたましいサイレンの音と共に、
《掲示板の更新をします!危ないので下がってください!》
と言う声が聞こえた。くるっと掲示板が回転したかと思えば、数分でまた先程のびっしりとポスターが貼られた面へと戻った。
「………何だったんだ…今の」
「リードが掲示板を更新したんだな。
今日はサボらなかったな…」
アランは慣れているのか、いつもの様に喋っている。
「ギルドの弟子の一人、ダグトリオのリード。彼は今の様な掲示板更新の仕事を受け持っている。地味だが、とても大事な仕事なんだ。まぁ、彼自身しょっちゅうこの仕事をサボっているけど誇りは持っているらしい」
そして、掲示板に向き直り、
「さて、選び直しだ…って、ライガどうしたんだ?」
アランの声に、シーアは横のライガを見る。すると、ライガはやや震えつつ掲示板の一点を指差した。そこに書いてあったのは、シーアも見知ったポケモン。
「あいつって…!」
「ああ。シーア、急がないとリルちゃんが!」
「うん!」
そう言うと二人は一目散にギルドを出て行った。
「あんなに急いで…何があったんだ?」
オラシオンのいなくなった掲示板の前で、アランは先程ライガが指差した、貼り付けが不十分だったのか、床に落ちたそのポスターに目を落とす。そのポスターには、最近指名手配され始めたポケモン、
ユメル・ドラムという、スリープの写真が貼ってあった。