番外編!二人の理由
「信乃…遅いな」
屋敷では、風蘭が退屈そうに信乃を待っていた。すると、遠くから聞こえる凱旋の雄叫びに混じって、激しい息遣いが聞こえた。その方向を見ると、オレンジ色のポケモンが走ってきている。
「あれは…!」
紛れもない、ずっと待ち続けた彼。
「風蘭様!」
「信乃っ!」
思わず風蘭は信乃に抱きついた。するとたちまち、信乃の顔が赤くなっていく。でも、そんな事、気にしない。だって、信乃が戻ってきてくれたから。
「お帰りっ!」
「た、只今帰りましたっ!…すいません。お待たせしてしまい」
「ううん。良いの」
信乃はとても嬉しかったが、戦いの最中に水河に言われた言葉が、頭の中を渦巻いていた。
その夜の事だった。信乃が廊下を歩いていると、何やら声が聞こえてきた。
「いやぁ、今回は我々の大勝利で」
「そうですねぇ。では…例の話を…」
例の話?なんの事だ?
信乃はそこで身を潜め、話の続きを聞いた。
「お宅の娘、あの娘をこちらに売れば貴方は金が手に入れる事が出来るのですよ?これほ どいい話は聞いた事も無いでしょう?」
「うむ…それは…、その娘というのは…」
「あれ?聞いてませんでしたっけ?」
次の一言に、信乃は耳を疑った。
「風蘭という娘ですよ」「なっ…!」その言葉を聞いた信乃は、音を立てずに風蘭の部屋へと向かった。
風蘭の部屋の前に、その部屋の主はいた。月を見ていたのだろう。やがて、こちらに気がついたらしく、彼女は話しかけてきた。
「信乃?なんでこんな所にいるの?」
風蘭はいつもの様にゆったりと問いかけたが、信乃はそれに応じず、
「風蘭様!逃げましょう!ボクと一緒に!」
と叫んだ。突然の言葉に、風蘭はうろたえ、
「どうして?どうして逃げるの?」
と言う。当然の反応だ。それは…と、信乃が先程聞いた事を全て話すと、
「…そっか。分かった」
彼女は信乃を決意に満ちた目で、まっすぐ見つめ、
「ありがとうね」
と、感謝の言葉を口にした。そして、二人は屋敷から逃げ出した。
走って、走って、誰にも見つからず、ただただ走って。
気づいた時には、遠くの西の方まで来ていた。もう何日もまともに食べていなかった二人は、とある道で、倒れてしまった。
暫くして、信乃が目を覚ますと、目の前には大きなピンクのポケモンと、鳥の様なポケモン、茶色い体毛に時計が光るポケモンがいた。
「あっ、起きたね!大丈夫?もう一人の子も回復しつつあるよ」
あたりを見回すと、風蘭の姿が目に入った。彼女はこちらに気づくと駆け寄って、
「信乃!大丈夫?心配したのよ?あっ、この人達には全部話したよ。このギルドに入れてくれるって。良かったね!信乃!」
そう言ったので、信乃はホッとした。
それから、何年かして、
「シノー!早く早くー!」
「待って下さい!フウ!」
「おそーい!今日は新入りが来るのに!」
そんなやりとりが、いつまでも続く。そんな二人の、
小さな理由。