本編
K20 ―後編―
 モンメンと言うらしい。連れてこられたのはイッシュ地方。パートナーとなったトレーナーからはいつまで経っても進化しないため、旅の途中で捨てられたと言う。
 野生に戻った後にロケット団が関与する貨物に紛れ込んでしまい、カントー地方に来たかと思えば非道な実験に使われていた。私と出会ったのはまさにその真っただ中だった。
 兵器としての学習と実習が増えていく中での憩いはサオリ先生の授業とモンメンとの触れ合いだったのは間違いない。彼らが居なければ私は今頃心を閉ざした兵器になっていたことだろう。
 身体に取り込んだポケモンの力を1つ1つ覚醒させていく日々。研究者達の好奇の視線と身体に巻き付くいくつものコードが常に私に不快感を与えていた。
 超能力の実験から治癒を行う実験、超人的な瞬発力から一瞬で移動するテレポート、挙句の果てには私自身への猛毒や麻痺、乾きに空腹、いつ死んでもおかしくないようなギリギリの研究が日々エスカレートしていく。
 何度も死にたいと思ったが私の身体は死ぬことを拒否した。身体だけではない。きっと心の底では思っていたんです。誰だってそうでしょう。本当に死にたいなんて思う人はいない。
「ここではラプラス変換を使い数式を……エモリア、普通の授業だからと言って気を抜かないように。辛かったらもっと訴えても良いのよ」
「……あ、大丈夫です母さん……ダイジョーブデス、サオリセンセイ」
 死にたいと思った。授業中に誤って先生を母と呼ぶ。必死に仏頂面で抑揚のない言葉で誤魔化したつもりだがあの時のサオリ先生のしたり顔は忘れられそうにない。
 恥ずかしくて誤魔化しはしたけれど、本当にサオリ先生が母親だったら……良く思うようになっていた。モンメンとの実験動物同士の友達関係、サオリ先生との科学者と被験者と言う親子関係。
 実験は辛く苦しい。だけど悲しくはなかった。友達も、母さんもいる。地獄の中に垣間見た幸せに私は不覚にも思ってしまった。終わらなければいいのにと。

「エモリア。これから毎日、私が最初に言う数字を覚えなさい。2週間、今日からよ」
「いきなりどうしたんですかサオリ先生。記憶能力や読心能力なら、毎日別の実験で行われていますけど」
「昨日は7ページほど進めたわね。今日から本格的に幾何学の学習に入るわ。先に教科書の内容を本日の授業中に頭の中へ叩きこんでおくように」
「……7ページ。わかりました」
 どうして気付けなかったのでしょう。その時のサオリ先生の表情は普段とは違っていた。切羽詰まっているという表現が正しいのか、焦りが感じられました。
 能力を使えば私の体に張り巡らされている科学装置が反応する。研究員へ能力を使用すると電撃が流れるようになっていた。それでもサオリ先生にだけはそんな縛りがなくとも使うつもりはなかった。
 だが使っておくべきだった。知っておくべきだった。止められなかっただろうし当時の私に何か出来たとも思えないのだけれど。今日まで後悔の念が消えたことは少しだってない。
 あなたは後悔をしたことがありますか? ウルトラホールを通って来たこと、私と出会ってしまったこと、人を知ろうとしてしまったこと……この思い出が後悔にならないよう、精々私も頑張るとしましょう。
 その日から私はどこか不安を覚えながら、日々兵器としての実験をこなしながらもサオリ先生が毎日最初に口に出す数字を忘れないようにした。
 2週間と言う事は14桁の数字と言う事になる。真っ先に思い付いたのは暗証番号、アイカとの脱走の際に立ち塞がった最後の壁。だが、番号だけで一体何が出来るというのか。
 まずあの扉の前に行くのはもう無理だった。私の位置情報はリアルタイムで監視され、反抗的な態度を取れば電流や猛毒が体に流されるようになっている。第一、外に出たところで直ぐにつかまってしまうのがオチだった。
 もしかするとサオリ先生が逃がしてくれるのかと思ったが、彼女1人でそんな力がないことも分かっていた。だからこそ、その時もっと考えるべきだった。彼女の取った捨て身に近い行動の意味を。

 丁度2週間が経過しようかと言うとき、研究所からアザギの気配が消えた。気配の感知程度なら特別能力を発現しなくても、なんとなーくだが分かるくらいに当時の私の能力は覚醒していた。
 朝起きて、研究室で脳波やバイタルを確認され、日々難易度の上がる超能力の試験をやらされ、栄養重視の朝食を取らされてサオリ先生の授業へ行く。通い慣れた教室のはずが、その日だけはどうにも足を踏み込みにくく、躊躇した。
「どうしたのエモリア。もうすぐ授業が始まるわ、そんなところで立ち止まってないで椅子に座りなさい」
「……サオリ先生。私、大丈夫ですから。先生やモンメンがいてくれれば私、頑張りますから。だから、先生も……」
「今日は国語からね。昨日終わった場所の2ページ後を開きなさい。早くする」
 不安ながらも覚え続けた。座学の授業、兵器としての実験、一日の終わり。明日もまた同じ日が繰り返されると思いながら眠り、そして同じ明日は来なかった。

 最悪のモーニングコールだったのを覚えている。真夜中の何時かもわからないとき、私を起こしたのは普段の目覚まし時計ではなく聞いたこともない様なとてつもない轟音と衝撃でした。
 立て続けに起こる爆発と研究所内から溢れ出ていた恐怖や焦燥の感情。直ぐにわかった、襲撃だと。誰が何の目的でここを襲撃したのかは分からないが、だからと言って私にはどうすることも出来ないと想い諦めていた。
 どの道逃げられないのだから……そう思いながらも心のどこかで恐怖していたのでしょう。開かないはずの扉に手をかけ、開いたのです。そしてその時に確信しました。サオリ先生はこのことを知っていたのだと。
 それも相当綿密に。襲撃が起きる日程、部屋の扉を解放する手筈、私が逃げるための方法、全てを整えていた。
 気付くと私は走っていた。不思議なことに逃げるためではなく、探すために走っていたんです。モンメンを、サオリ先生を。ですが私が探そうとするよりも早く、建物全体は爆発と火災に覆われていました。
 煙が当たりを包み込んでいたので姿勢を低くして移動するしかなかった。煙のお陰もあってか慌てふためく研究員達とは何度かすれ違ったけれど、誰も彼も私に気付くことなく逃げようとしていた。
「プラズマ団だ! くそったれ、どうしてこの施設のことがバレた!?」
「可能な限りデータは本部のデータベースへ送れ! 終わり次第破壊、間に合わない場合も破壊優先だ!」
 プラズマ団のことは同時なにも知りませんでしたが、これほど過激なことを行う人達なのでまともな組織ではないとは用意の想像出来ましたね。ロケット団とは対立関係にあり、人の命もポケモンの命もどうでも良いと思っている人間達。
 以前はまるで巨大なクレバスのように感じていた非常口のセキュリティ。だけれどサオリ先生から教えてもらった14桁の数字を入力したら簡単に開いた。信じられない気持ちでした。兵器として以外で外に出れるなんて、もうないと思っていたのです。
 燃え盛る建物の中から見えたのは真っ暗な空、武器見に聳える木々、多くの敵意をむき出しにしているポケモン達とそれを従えているであろうトレーナー達。とてもではないが保護してくれる雰囲気ではない。
「危ない!」
 後ろから響いた声と同時に私の体は浮かんでいました。正確には後ろから思い切り押し出された感じです。地面を転がり振り向いた先では、先ほどまで私がいた場所に天井が崩れ落ちて来ていたのです。
 私の代わりには別の人がいました。探そうとして見つからなかったサオリ先生。会えて嬉しいはずだったのに、私は叫んで駆け寄っていたのです。致命傷、馬鹿でも見ればわかるほど。助かるなんて到底思えない。
「良かった……ふふ、無事に部屋からは出られたのね」
「サオリ先生! なんでどうして!? 何で先生が犠牲になってまで私を助けたんですか!」
「可笑しなこと、言うのね。母が子を助けるのに、理由が……いるかしら?」
 口から血を流して話し辛そうにしながら笑うサオリ先生の表情を見て、逆に私はきっと、表情を酷く歪めていたに違いありません。失いたくなかったものの1つ、それが目の前で失われていく。
 当時の私は頭が真っ白で助けられたかもしれない可能性を確かめられませんでした。ただただ目の前で消えゆく大切なものに泣き叫ぶことしかできず、それが分かっていたかのようにサオリ先生は微笑みかけてくれていたのです。
 後ろから足音が聞こえて来た。プラズマ団、その本質は恐らくロケット団と同じ。捕まれば再び同じ、下手をするともっと酷い地獄。歪み過ぎてもはやまともにものを見れなかった私の手に何かが投げ渡されました。
「いきなさい! 元気でね。エモリア……」
「お母さ――」
 天井が崩れて来た。笑顔が目の前から消えた。狂ったように泣き叫びたかったのを我慢して、私は走った。だがすぐに捕まってしまった。精神が不安定過ぎて、超能力もうまく使えなかった。いや、使う気すらなかったのかもしれない。
「ゲーチス様。少女を1人確保しました。後ほど記憶を消去して警察にでも――」
「待ちなさい。そうか、この子がサオリ・クラウンの言っていた……彼女は優秀なスパイでしたが、最後の最後で情に流されたのでしょうか。ふふ、君の力は私が有効活用してあげましょう」
「いや……もう、嫌だぁ」
 伸ばされた手が悪魔の手のように見えた。いや、あのゲーチスとか言う男、心の底から吐き気を催す邪悪を感じた。恐らく今まで出会って来た人間達の中ではトップクラスのエゴイスト。
 怖くて目を閉じました。だけれどいつまで経っても私が掴まれることはなく、代わりに私の体は何かに抱き上げられるかのようにふわりと空へと浮かんでいました。お腹の下にいたのは、失いたくなかったもう1つの友達。
 私の体はモンメンに支えられて施設を離れて行き、私の意識は身体から放れて行く。気付くと、朝が来ていた。
 カーテンから差し込まれる光に照らされて、私は普段と全く違う感覚で目を覚ましました。起き上がって辺りを見渡せばすぐにポケモンセンターだと理解出来ました。妥当な運び先でした。
 机の上には去り際にサオリ先生から受け取ったケースが置かれていて、それが夜の出来事が本当だと物語っていました。私は多くの代償と引き換えに、自由と友達を得たのです。



 鬱蒼とした木々に囲まれながらも拓けた空間には焼け焦げ放置された建物の残骸が散乱している。右手に花を持つ少女は一瞬足を止めて建物に視線を送るが、直ぐに近くにあった墓石へと向き直った。
 花を添え、水筒に入っていた水をかける。両手を合わせたエミリーは目を閉じると黙祷を始め、1分が、2分が経過する。彼女自身も何分経ったか分からなくなった頃、ようやく瞳を開いて柔和な笑顔を向ける。
「母さん、今年も来ました。今日は新しく友達になったポケモンもいます。ウツロイドと言って、人を知りたがっていたので私の過去を見せました。やりすぎ、だったでしょうか」
 駆け抜ける風が木々を揺らし、そのざわめきがまるで彼女の言葉に応えたかのように一度大きく響く。立ち上がったエミリーはポーチの中から小さな鉄製のケースを手に取り、その中から1本の注射器を取り出す。
 短い針を首に押し付けると同時に小さく身体が震え、中に入っていた透明な液体を全て注入する。止めていた息を吐き出したエミリーは注射器を首から外し、それを墓石の前へと置いた。
 再び強い風が吹き、空を見上げれば先ほどまで晴れ渡っていた青空の西側に薄っすらと黒い雲が見える。雨が降る。エミリーは小さく別れの言葉を告げると立ち上がり、立ち去ろうとした刹那足を止めて怪訝な表情で当たりを見渡す。
 右手にモンスターボールを構えたエミリーは少し右に体を避けると先ほどまで彼女がいた場所を空気の刃が通り抜け、彼女の髪の毛が僅かに切れて宙を舞う。
「何か用ですか」
「ははは、良く避けたじゃない。流石は万能特化型っていうべきなのかなぁ。どう思う、アダム?」
「イヴ、手を出さないと言う約束だったはずよ。私達はあくまで興味本位で来ただけ、必要以上に接触することは避けるべきよ」
「……お前、やっぱつまんねーな」
 木の上から1人の少女が金色の長髪を靡かせながら歪んだ笑みを浮かべて地面に降り立ち、アダムと呼ばれた少女もまた自由落下とは思えない程ゆっくりと地面に着地した。
 溌剌とし豪快と言う雰囲気が似合う褐色の少女とは対照的に浮かぶように降りて来た少女はエミリーのように不愛想な無表情の仮面を纏い、横で呟かれた愚痴に対しても眉1つ動かさない。
 先程の攻撃してきたであろうエアームドがアダムと呼ばれた少女の前に降り立ち、エミリーは持っていたモンスターボールを手放さずに相手を観察する。
「私のことを知っており、かつこのような手段を取るとなれば、貴方達はロケット団……それもアザギが作り出した兵器。私を特化型と称するなら、貴方達は汎用型とか安定型と呼ぶべきなのかしら」
「んなこたーどうでも良いんだよ。俺はなあ、アザギ様が今でも時折お前のことを能力や成果の引き合いに出すのがどーっしても我慢ならねえ。エモリア・クラウン、お前の首だか腕だか持って帰ればよ、アザギ様も俺を最高傑作だと認めて下さるはずだ」
「そうですか。ですが、私はあんなド変態に興味ないんです。はい、腕時計あげますからこれでも持ち帰って死神倒したよーっとでも報告してください」
 右腕に嵌めていた腕時計を取り外したエミリーは溜め息交じりにそれをアダムの前へと放り投げ、踵を返して立ち去ろうとした直後、再び体を横に揺らすとエアカッターが僅かに衣服を裂いて通り抜けた。
「っざけてんのかテメー。ポケモン出しな、その余裕ぶっこいてる面を泣き顔に変えてやるぜ。アダム、行くぞ!」
「私はあくまで監視に徹する予定でしたので、やるなら1人でどうぞ」
「えー俺との熱い友情より監視なんて糞面倒くせー仕事の方が大事だってのかよ! アーダーム、マルチバトルしようぜ。裏切り者の墓前で殺してや――」
「黙れ」
 エミリーの発した一言と同時にアダムとイヴの身体がまるで支えを失った人形のように地面に崩れ、2人は額に酷い脂汗を浮かべながら胸を抑えながら睨み返す。
 突然の状況にも関わらず瞬時にエミリーがその原因だと判断したエアームドは翼を羽ばたかせて薄く鋭い羽を放つ。しかし飛ばされたナイフのように鋭利な羽根は空中で急激に減速し、エミリーは目の前で止まった羽根を1枚取ると残りは全て地面に落ちた。
 歪む表情のまま離脱を指示したイヴの命令に反してエアームドは再びエアスラッシュを放つが、今度はエミリーに当たることすらなく横へと逸れていく。イヴが声にならない怒りを発するが、エアームドも困惑の表情を隠せない。
「あと少しはこのままですよ。お2人仲が宜しいようで、私から一瞬目を離す余裕があるとは羨ましいです。アンコール、暫く翼を飛ばし続けて下さい」
 エミリーの背中からひょこっと顔だけを出したエルフーンが可愛らしく悪戯な笑みを浮かべ、倒れているイヴの元まで辿り着いたエミリーは持っていた翼を彼女の心臓目掛けて振り下ろす。
 恐怖に染まり涙を流すイヴの心臓へ振り下ろされた翼はその軌道が直前で僅かに逸れると彼女の左肩を貫き、激しい苦痛から枯れた様な声で彼女は悲鳴を上げた。
「……アダム、と言いましたか。貴方念力型の細胞を持っているようですね。こちらの粗暴な方は何か分かりませんが、いずれにせよ2度目で終わッ!?」
 羽根を抜いた傷口から飛び散る血を念力で弾きながら再び心臓目掛けて振り下ろそうとしたエミリーは慌ててその場から後退り、先ほどまで彼女のがいた場所が激しい重量によって陥没する。
 さらにアダムとイヴを締め付けていたエミリーの念動力も打ち消され、呼吸が回復した2人は慌てて立ち上がると荒々しい呼吸を繰り返しながら一歩二歩とエミリーから距離を取った。基本的にはだが、念力の類は距離が離れると弱くなる。
 しかし今更エミリーには2人をどうこうする気はなかった。いや、無いというよりも気が回らない。自分に匹敵する力を持つ念動力の存在、強力なエスパータイプのポケモンなら納得だが周りを見る限りそんな姿は見られない。
 エミリーの隙を見てイヴはアダムの手を掴むとエアームドの背中に跨り、目の前の脅威とは別の何かに怯えるかのようにエアームドを急かす。
「畜生、畜生、ロストの奴が来る! 俺達が殺され未来が視えた! アダム、退くよ良いよね!?」
「私は元々、手を出すつもりはないと言ったではないですか……イヴ、私達はここで逃げれば生きる……のですよね?」
「そうあってほ……しい……」
 上空を見上げた2人は一様に言葉と表情を失い、エミリーが逆光気味の空を見上げるとそこには紫色の鎧様なスーツに身を包んだ人間がドンカラスに両肩を掴まれた状態で浮遊している。
 ざっとエミリーからの距離は50メートルほど。それほど離れた距離から地面を陥没させる念力を放ち、エミリーの能力を打ち消す力を発揮するのは並大抵のことではない。軽く見積もってもイヴの言葉を借りるなら特化型。
 3対1、更に自身に匹敵する能力を持つ相手。エミリーが逃げる算段を立てるよりも早く鎧スーツの人物は背中を向け、アダムとイヴを牽引するかのように去っていく。
「覚えてやがれこの野郎! 次会ったときは絶対に泣かしてやる!」
「イヴ、それは負け犬の遠吠えと言うのです。さっきのことで分かったでしょう? 相手有利の条件で特化型と戦うのは自殺行為です。そもそも、私達はこのままついて行って大丈夫なのでしょうか」
『K20……K20……アダム、イヴ。始末の命令はない。ただし、要らぬことをペラペラ喋り、あまつさえ私の手を煩わせた。処遇は覚悟しておきなさい』
「は、はい……ッチ、欠陥品が偉そうに」
『聞こえているぞ』
「ご、ごめんなさい!」
 エルフーンに捕まりジャンプしたエミリーが見た時には既に3人の姿は遥か遠方に離れており、一先ず戦うことがなさそうな結果にエミリーはほっと胸を撫で下ろす。
 同時に妙な胸騒ぎと言うか、嫌な予感がした。イヴは自身のことをエモリア・クラウンと呼んだが、ロストと呼ばれたであろう人物は自身のことを研究所時代の人間しか知り得ない『K20』と言う呼称で呼んだ。
 可能性はいくつかある。最も考えたくない可能性に行きついたときにエミリーは首を振って無理やり考えを頭から押し出し、本日泊まるポケモンセンターに向かうことにした。
「アザギは確かに、あの時に言った。聞き間違いじゃない。でも……止めよう。考えたくない」
 不安な可能性がいつまでも思考に纏わりつく。拭えない疑念を抱きながらも、エミリーは無理やり明日のスケジュールへと意識を向けた。

月光 ( 2018/07/16(月) 03:32 )