死神ドクター - 本編
UB01
 強い太陽光が肌をじりじりと照らす。瞳を貫くような太陽光にエミリーはポケモンセンターの宿泊施設から出て早々にサングラスをかけ、薄手のUVカットカーディガンを羽織る。
 一歩外へ出ると小さな揺れと共に噴煙が山から立ち込めた。アーカラ島のヴェラ火山公園、その名の通り火山でありアローラ地方全域で行われる『島巡り』と言うイベントにおける試練の場所である。
 麓から頂上までの道はあるが段差が大きく登るためには洞窟を通らなければいけない。のだが、エミリーは面倒なのでエルフーンに掴まって移動していた。
 公園と言うだけあってトレーナーがチラホラとポケモンと遊んでいたりトレーニングをしているのが見える。島巡りらしき少年少女が挑み、そして嬉しく時に悲しく帰って来るのも見た。
 だが探している肝心のウルトラビーストの姿が見当たらない。ここで活動して既に一週間が経過しているのだが、今のところ変わった形跡はこれと言って確認できていない。
「以前この辺りに見たこともないポケモンが現れ、人を襲い暴れさせたと聞いたのですが……もう居ないのかもしれないですね」
 ウルトラビーストの生態には謎な面がまだまだ多い。一説にはギラティナのやぶれた世界の生き物ではないかとか、別世界のポケモンではないかとか、別次元のポケモンではないかなど色々言われている。
 分かっているのは神出鬼没だと言う事、そして人間とポケモンに害を加える個体が多いと言う事だけ。最新の研究はエーテルパラダイスと呼ばれる環境保護団体が行っているらしいが、こちらの研究結果は非公開情報だ。
 次の仕事の時間も迫っているため、そろそろアローラ地方での活動時間も限られてくる。思慮に耽るエミリーは目の端で何かが動くのを捉え、咄嗟に身を翻して待ってきたそれを避けた。
 ブーメランのように空中で旋回して戻っていくそれは骨だ。両端が緑色の炎で燃え上がり、戻って行った先では一匹のポケモンがそれをキャッチする姿。そして骨を持つポケモンの頭を叩く青年。
「すみません、大丈夫でしたか?」
「特に問題ありません、見て分かりませんか。何をするにも結構ですが、周りはよく見ることです」
「え、あ、はい。ガラガラ、お前もちゃんと謝るんだ」
 青年に頭を抑えつけられて渋々ながら頭を下げるガラガラだが、巌来負けん気の強いガラガラは強要されると反発しやすい。
 顔を背けるガラガラを前にしてエミリーはずいっと顔を近づけると驚いたようにガラガラは一歩下がり、能面顔のエミリーはガラガラの顔を掴むと近づけて目と目を合わせる。
「これがリージョンフォルム。なるほど、カントーやシンオウで見るガラガラとは違いますね。気候による影響か、この火山特有の影響か、はたまたアローラ全域に作用する影響か……興味深い」
「ええっと、ガラガラが珍しくきょどっているのでそろそろ解放してやってくれませんか。私はカキ、ここヴェラ火山公園の試練を取り仕切っているキャプテンです」
「……え? あ、うん。聞いてた聞いてた、カニ君ね。よろしく」
「カキです」
 名前を間違われたことに少し気を悪くしたのか、元々強面だった彼の表情が一段と皺が深くなったように見える。エミリーの手が緩んだ瞬間、ガラガラも逃げてカキの後ろへ隠れた。
 試練と言うものは受けてもいないし興味もないエミリーだが、キャプテンと言う事はこの山を知り尽くしているはず。なれば、彼に聞いておいて損はない。
「カキ。貴方、ウルトラビーストって知っていますか。もしくは、見たこともない不思議な生き物をこの辺りで見ませんでしたか」
「ウルトラビースト……話しには聞いたことはありますが、実物を見たことはありませんね。あぁ、怪しいポケモンではありませんが、怪しい人なら見掛けましたよ」
「怪しいって、どんな感じでしょうか」
「くたびれた雰囲気のブラウン色のコートを着た中年の男性です。貴方同様、ここ数日山で活動しているようですが……行動が、ちょっと不審者チックです」
「……やだなぁ、あのオジサン苦手なのよね」
 溜め息交じりに零れる愚痴を垂れるエミリーに小さく首を傾げるカキを見て、彼女は軽く手を振る。
「あー、気にしないで下さい。こちらの都合、もとい個人的感想にすぎません」
「そうですか。アローラ地方以外の方とお見受けしますが、アローラを楽しんで行ってください」
「ええ、楽しんでいます。それとそのガラガラ、左足を怪我しています。骨を投げる方向がズレたのもそのせい、怪我が痛むときはトレーナを頼ることです」
 草むらで野生のピンプクと遊んでいたエルフーンはエミリーが手招きすると名残惜しそうに手を振って別れ、エルフーンの足に捕まったエミリーは再びヴェラ火山公園を上空から観察する作業に戻る。
 ヴェラ火山公園での試練を執り行う青年カキ、彼が言うのであればウルトラビーストの目撃証言の時期から判断するに既にこの場所にいないとエミリーは推測する。事実、ここ一週間で些末な変化も見られない。
 滞在して調べて分かったことはアローラ地方はウルトラホールが開きやすい環境にあると言うこと、ウルトラホールの影響で生態系には多岐に渡る変化が起きていること。その他少々。
 人間には分からない、または今は解明できていないロジックが存在する。しかしエミリーが付近のポケモンに話を聞いた限りではポケモン達もそれが何なのか、直感的には理解しても説明は出来なかった。
「妙なオーラを纏ったエンニュート、襲ってきたので返り討ちにしたら色々教えてくれましたが……彼女を以てしても、知っていることはごくわずかだった」
 誤って試練の間に入ってしまったことを思い出したエミリーは奥にいたエンニュートが纏っていたオーラのほかに、その体が通常のエンニュートよりかなり大きいのが印象に残っている。
 後で調べたところアレは島巡りをするトレーナー達がZクリスタルと呼ばれる物を手に入れるために受ける試練の門番、所謂ヌシポケモンと呼ばれる存在。他の地方にそのような存在はいない、この点も何かウルトラビーストに関連があるかもしれない。
「ウルトラホールはウルトラビーストが出る場所だと言いますが、もしやウルトラビースト以外にも不可視の光線などが出てる可能性はありますね。いや、大きさがごく小さければもしかして頻繁に……ん?」
 空を漂っていたエミリーは地上の一角、岩陰が微かに揺らめいたのを見つけて静かに接近する。見るからに岩なのだが、目を凝らすとそれは僅かに揺れていた。
 見つけたくはなかったが見つけてしまった以上は仕方ない。溜め息を隠さないエミリーはせめて関わるだけの収穫があることを願いながら岩の傍に着陸し、両手を広げて岩を掴むとそれを持ち上げる。
 ブラウン色のくたびれたコートを着ている男が頭を持たれながら眠っており、太陽の光が彼を起こしたのか大きく欠伸をしてゆっくりと起き上がる。
「ん、朝か。いや、アローラの朝日は素晴らしい……あれ、私は岩の中で仮眠を取っていたはずでは」
「どーも、相変わらず変態チックな行動してますね。近くの試練を管理しているキャプテンの人が変質者って言ってましたよ、警察呼びましょうか?」
「な、私は国際警さって、お前は死神!?」
 岩の張りぼてを投げ捨てたエミリーを見た男性は驚愕に目を丸くすると慌てて一歩下がり、右手にモンスターボールを構えた。
「おや、ランダムさんではありませんか。お久しぶりです」
「私はそんな乱数チックな名前ではない! 私は国際警察のエージェント、ハンサムだ!」
「……暑苦しい。それと、死神と呼ぶのは警察としてどうなんですか。私、別に指名手配されているわけでもないのですが。ま、警察の中で私がどんな扱われなのか再認識出来ましたよ。人としてすら見てくれていないのですね」
「そんなことはない。ただ、ロケット団を追っていると資料に君の名前が度々出て来るからね、条件反射で言ってしまっただけだ。そんなことより、こんなところで何をしている」
「そっくり返しますよ。私はウルトラビーストを追っています。どこかの大きな悪の秘密結社がですね、ウルトラビーストが目撃された場所にエージェントを送り、あろうことか殲滅を視野に入れていると噂に聞きまして」
 ハンサムと呼ばれた男の表情が強張り、持っていたモンスターボールをゆっくりと腰のホルダーに戻した。
 ヴェラ火山公園は意外と人の行き来が多い。ハンサムは周りに誰もいないことを確認し、更にそれでも声を潜めて歩み寄ったエミリーに鋭い視線を浴びせながら口を開く。
「我々の情報が漏洩していたとは、聞いておくが誰かに喧伝していないだろうね」
「怖い怖い悪の秘密結社に目をつけられたくありませんからね、誰にも言っていませんよ。だからこうして私が来たんです」
「君が来たところで何になる。ウルトラビーストは人やポケモンに危害を加える危険な存在、その中でも危険度数の高いUB01のパラサイトが目撃されたとあっては穏便に済ますのは難しい」
「パラサイト? もしかして、国際警察ではウルトラビーストを数種類確認していて、それぞれに呼称をつけているんですか。随分、研究なされているんですね」
 薄っすらとした微笑みを浮かべるエミリーを見たハンサムは背筋に寒いものを感じつつ、彼女主導になりつつある会話を一度仕切るべく大きく咳ばらいをした。
「兎に角! ウルトラビーストは危険な存在なんだ。君とて一般人であり、我々国際警察が守る人々の1人。素直に言うことを聞くんだ」
「嫌です。勝手に守ってくれるのはありがたいですが、私は貴方達の言う事は聞きません。私は――」
 拒否の言葉を続けていたエミリーの声を砕き割るかのような轟音が一度だけ空から腹の底まで響き渡り、2人は咄嗟にモンスターボールを片手に辺り一目を見渡す。
 周囲に変わった様子はない。だがエミリーとハンサムが空を見上げるとそこには穴と形容すればよいのか分からないような、空の一部が内側へ吸い込まれているとでも言えばよいのか、世界の理が壊れたかのような異常な光景であった。
 直ぐにエミリーがエルフーンに捕まって飛ぼうとするも穴は瞬く間に塞がっていくと、数秒後には何の変哲もない元の空へと戻っていた。見たことはない。だが直感であれがウルトラホールであると2人は理解する。
 何も起きていない。何かが出て来た様子もない。残念そうに溜息をつくエミリーとは反対に安堵に胸を撫で下ろすハンサムだが、少し離れた場所から聞こえて来た男性の悲鳴らしき声に表情が共に一転する。
「まさか、ウルトラビーストが出て来ていたのか!? 肉眼で見えなかったと言う事は、よほど小さな個体もしくは透明性の高い個体に違いない。恐らくはパラサイトだ!」
「つまり他のウルトラビーストは多少遠めでも目視可能なものばかりと。色々教えてくれて感謝しますよ、アイテムさん」
「私を物知り用道具みたいに呼ぶでない! ハンサムと呼べ!」
 走りながら叫ぶハンサムは正面に何かを見つけたのか素早く右手にボールを構え、多少離れた場所だが鋭いスイングでボールを力強く放り投げると見事にそこまで届いた。
 尻餅をついて倒れていた男性の目の前に浮かぶ透明な物体の真上でボールが開く。中から現れグレッグルは指先から滲め出した毒を絞り出すとそれを真上から腕を振るって落とし、まだ上に気付いていない相手の頭上にベノムショックが炸裂する。
 毒の弾が直撃した相手は動きを止めると目の前で立ち上がって逃げる男性を無視して空を見上げ、体が虹色に輝くと同時に放たれた光線が空中で身動きの取れないグレッグルを弾き飛ばす。
「ミラーコートか。岩タイプを有すると言う事だけは分かっているから特殊技で攻めたのだが、大した効果がないようだな。ミラーコートの威力も弱い」
「そんな悠長なことを言っている場合でしょうか。先ほどまで穏やかであったパラサイトらしいウルトラビーストから、今は怒りが感じられます。いえ、それ以外にも……やはり、そうでしたか」
 吹き飛ばされ地面に着地する寸前のグレッグル目掛け数多の触手から放たれたパワージェムが直撃し、立て続けにお返しとばかりに放たれたベノムショックが転がるグレッグルを穿ち吹き飛ばす。
 タイプの相性的にこちらも大したダメージはなく体勢を立て直すが再び前に出ようとしたグレッグルの手をエミリーが両手で掴んで持ち上げ、後ろで退くように叫ぶハンサムの下へと放り投げた。
「な、何をするつもりだね! 見ての通りウルトラビーストは危険な存ざ――」
「貴方は道を聞いていた途中に横から暴漢が現れ攻撃してきたのに、正当防衛したほうが悪だと言うのですか。邪魔です。すっこんでいなさい」
 横目で睨み付けるエミリーの圧力にハンサムが一瞬気後れした直後にエミリーはパラサイトの前まで歩み寄り、威嚇気味にゆらゆらとさせている触手の1つを手に取り、しゃがんで視線を合わせる。
「貴方の怒りが聞こえました。それと同時に戸惑い、不安、焦燥……こうして触れて確信しました。貴方は別の世界のポケモンなのですね。そしてこんな見ず知らずの世界に来て、貴方は自分を守るため、人を知るため直ぐに行動を起こした」
「何をしているんだクラウン君、そいつの触手には毒素があるとの報告も上がっている! 直ぐに離れたまえ!」
「手っ取り早く教えてあげますよ。人間とはどういう生き物なのか、貴方はこれからどうすれば良いのか。貴方に降りかかった理不尽、私は見捨てません」
 先程までハンサムに向けていた視線とは打って変わって柔和な笑みを見せたエミリーはパラサイトの触手を手に取り、パラサイトの方も何かを感じたのか残りの触手も彼女の頭や手足に張り付けた。
 馬鹿なことをと叫んだハンサムが走り出したその直後、呻き声のような、ガラスが地面に落ちて割れるかのような、甲高い悲鳴を上げながら触手と本体がエミリーから離れていく。
 何が起きたのか、ハンサムには分からない。分かるのは少し呼吸を粗くして肩で息をしながら汗を流すエミリー、彼女を恐れるかのように逃げようとするパラサイト。だがエミリーは離れる触手を右手で優しく掴む。
 パラサイトに寄生された人は暴れ出したり恐ろしいほど冷静になると言う報告があったことを彼は思い出すが、目の前で繰り広げられるものはいずれとも異なる。
「ウルトラビースト……人は貴方達をそう呼ぶ。だがどうですか、人間はビーストどころではない。デビルです……明確な悪意を持ち、利己のためだけに理を歪曲し、それをわかってやっている」
「おい、クラウン君? 大丈夫なのか」
「だがそれが全てではない。こんな私でも、こんな悪魔の遺物にも、接してくれる人がいるんです」
 エミリーまであと少しの距離に近づいてきたハンサムだがパラサイトがいる手前迂闊に近づくことは出来ず、またパラサイトの方もまるで彼女の独白染みた言葉を耳を傾けているのか、先ほどの逃げようとした素振りを見せない。
 間近に近づくことでハンサムは初めて気付く。いや、初めて見たと言うべきかもしれない。資料の顔、実物で何度かあった時の表情、カメラ越しでの雰囲気、鉄仮面の下に隠れた彼女の素顔。人間相手には滅多に見せないであろう微笑み。
「だから私は決めているのです。抗えぬ理不尽に直面し、助けを求める者がいるならば、私は助けたい。でも、貴方はまだ知らない。人とは何なのか。悪魔なのか、良き隣人なのか……私と共に行きましょう。怯えず、逃げず、貴方の目で見て、耳で聞き、肌で感じ、理解するのです」
「待ちたまえクラウン君! 君は、何を考えているんだ!?」
 後ろで叫ぶハンサムを無視したエミリーは右手にモンスターボールを持って前に差し出し、パラサイトは不思議そうにその球をきょろきょろと観察する。
 ウルトラビーストの捕獲……捕獲と言う選択肢など鼻から度外視していたハンサムはしかし、伸ばされた触手がボールの開閉スイッチを押し、中に透明な体が吸い込まれていくのを見て愕然とした。
 何度かの報告例で報告されていた内容では通常のボールに収めることは極めて困難。捕獲しようとした国際警察の隊員が重傷を負わされ、入院する事件もあった。
「死神と怪物……共に行きましょう。貴方が人を理解し、迷わなくなるその日まで」
「捕獲するとは、信じられない。クラウン君、そ――」
「お断りします。先程の続き、言いましょうか。私は貴方達の言う事は聞きません」
「どうしてかね?」
「大嫌いだからです」
 神妙な表情で、しかし何か言いたそうにするも言い返せないハンサムは黙る。エミリーが国際警察が嫌いなことは恐らく、国際警察の中では誰よりも知っていると言っても過言ではない。
 故に「そのウルトラビーストをこちらに渡してくれ」と言う願いを断られても当然のこと。実のところ自分の中で抱いていたウルトラビーストのイメージが揺らぎ、信じていた殲滅の短絡さを疑い始めていた。
「クラウン君、これは独り言なのだが、聞いてもらう時間はあるかな」
「ないです。独り言なら独りで言えば良いではないですか」
「私は国際警察だ。犯人を追い、逮捕する。悪人を探し、捕らえる。だがウルトラビーストはどうだ? 前の前で人と手を繋ぐ姿を見て、私は揺らいだ。彼らは人とは違うのだと」
「……」
「私は本部へ具申する。ウルトラビーストは殲滅する対象ではない。保護すべき、救うべき命なのだと」
 エルフーンに飛び立つ準備をさせながら、しかしエミリーは横目でハンサムの方を見やる。独り言と言う割に、彼もしっかりと彼女の方を見据えていた。
「ウツロイド」
「は?」
「この子の名前です。まあ、国際警察流にパラサイトのままでも良いかもしれませんがね。この子達は惹かれるそうですよ。ウルトラホールを通る時、その身に浴びたエネルギーを持つ者に」
「話が見えないのだが」
 困惑するハンサムを無視してエミリーはエルフーンを浮かせるとその足に捕まり、ゆっくりと風に乗って足を地上から離す。
 本当に何が言いたいのか分からないらしい物分かりの悪いオジサンを前にエミリーはこれ見よがしな深いため息をつき、引き留めようと手を伸ばすハンサムに吐き捨てた。
「自分で考えられないんですか? 探せば良いじゃないですか、ウルトラホールを通った人間を」
「そんなトレーナー、いるのかね」
「さあ、私の知ったことではありません。ですが、最近スカル団が妙に活発だと聴きます。数年後か、あるいは今年中か、一波乱起きるのではないですか。それに期待したらどうでしょう。それに私はエーテル財団も嫌いです」
「何故そこで、エーテル財団の名前が出て来る。彼らは君の理念の体現者みたいなものだろう」
「ルザミーネ。あの人の目は気に食わないんですよ。"K20"と呼ばれていた私をじろじろ見て来たサカキと同じような目をしている……話過ぎました、では」
 舌打ちしたエミリーはエルフーンに視線を送ると頷いたエルフーンがふわふわと風に乗り出し、未だ理解が追いつかないでいるハンサムを置き去りにしてその場を後にする。
 ウツロイドの入ったボールを見ながらエミリーは腕に着けているウェアラブルコンピュータの日付に視線を移し、次なる目的地へ向かうべくエルフーンに指示を出した。
「……丁度3年。母さん、今回の土産話は少し多めですよ」

月光 ( 2018/07/16(月) 03:31 )