それから
あの奇妙な会合の後、死神と呼ばれたポケモンたちは、何処でどうしているのだろう?
まずは一匹目。色違いで真っ白な彼は、夜の闇の中でもよく目立つ。でも何かの影の中に潜って気配を消してしまえば、その存在に気付くのは容易じゃない。彼は相も変わらず月夜に道行く人々を脅かしては、恐怖に歪んだ顔を眺めてニヤニヤ嗤っているよ。
あなたも夜道を歩くときは、時々自分の影に目を向けてみて。不自然に歪んでいたり、何かと目が合ったと思ったら、彼が影に潜んでいるかもしれないよ。
次に二匹目。彼は森のポケモンを統率するリーダーだ。今日も森を荒らす者がいないか、見回りに出かけているよ。紳士的な心を持つ彼は、森のポケモンたちからも信頼が厚い。人々にはまだ怖れられているけど、彼の本当の良さが分かるのは、彼を仲間に引き入れた者だけだろうね。
森に足を踏み入れる時は気を付けて。森でごみを捨てたり、必要以上に木を切ったり、ポケモンを虐めたりしてはいけないよ。腹に煮えたぎる毒素を含んだ炎が、あなたを焦がしに来るからね。
次だ。三匹目。彼女は今も村の人々に災害を伝え続けているよ。時々あの少女を背に乗せて、山々を駆け回っているね。災いを伝えるためにはあの村だけでなく、通りかかった旅人の前にも現れる。背に乗った少女が災いのことを伝えてくれるから、誤解をされるようなことはなくなったそうだよ。
あなたも道中白いポケモンに乗った少女を見かけたら、すぐに避難しよう。彼女が吠えるのは威嚇のためじゃなく、何かよくないことが起こる前触れを、あなたに伝えるためだからね。
ちょうど真ん中だね。四匹目。彼は今日も、彷徨う魂を集めて冥界へと送っているよ。中にはいい霊のふりをして悪さをする悪霊もいるから、結構大変なんだって。それだけじゃなくて、彼はまだ生きる可能性のある霊のサポートもしているんだとか。といっても、現世に戻るヒントを与えて、何処からか見守るだけだけれどね。
あなたが死んでいないのに、魂が体から抜け出すようなことがあったら、黄色いアンテナを付けた灰色の幽霊を探してみよう。きっとあなたの力になってくれるだろうからね。
どんどんいこう。五匹目。彼は今日も少女の肩に乗って、散歩を楽しんでいるよ。彼が灯火を分け与えた青年は、今ではすっかり元気になって、少女と一緒によく出掛けている。青年は彼が灯火をくれた張本人だとは知らないけど、青年も、少女も、笑顔を絶やすことなく暮らしているみたいだね。
もしも夢枕に蝋燭が立ったら、燃え尽きないよう祈ってみよう。それで彼が助けてくれたなら、もらった火を無駄にしないように精一杯生きよう。それがあなたにとっても彼にとっても、幸せな道だからね。
あと少しだね。六匹目。今は繭の中で眠っているよ。傍らにはあの美しい木が寄り添うように立っている。近づく者がいなかった繭の傍にも、今は戻ってきたポケモンたちが戯れているそうだよ。なに、大丈夫さ。今は隣に、彼の対となる存在がいる。また時が満ちれば、彼は隣に眠る者と一緒に、命の輪廻を回す手助けをすることだろう。
黒い巨大な繭を見つけたら、間違っても攻撃してはいけないよ。それはあなたの身を滅ぼすだけでなく、不必要に自然を破壊して、何より彼の心に深い傷を負わせるものだからね。
最後に、七匹目。彼は住処の祠を抜け出して、金輪の力で世界中を旅しているよ。出会った人々に、集めた宝物を配ったり、時にはあの奇術師の男がしていたようにマジックを見せることもある。男はもうこの世にはいないけど、その志を引き継いで、世界に笑顔をばら撒いているよ。
死神の怒りを封じた壺は、祠の奥深くに大切にしまわれている。もし見つけても、絶対に蓋を開けようとはしないことだ。あの日の惨劇を繰り返したいとは、彼も思っていないだろうからね。
といったところで、死神と呼ばれたポケモンたちの物語はおしまいだ。とはいっても、もしかしたら今回出てきた以外にも、死神と呼ばれる者はいるのかもしれないね。私の耳に入った話があれば、また別の機会に話すことにするよ。
ところで、あなたは死神を信じるかい?もし信じているとしたら、あなたにとっての本当の死神はどんな奴だろうか?今回の会合みたいに全会一致とはいかないと思うけど、よかったらあなたの意見を聞かせてほしいな。
えっ、私は誰かって?私はしがない語り部さ。
そして私もまた、誰かを殺したり霊媒師であったりするわけではないのに、死神と呼ばれた人間だったりするのだけれど、それはまた別のお話。
完