死神たちの集い
いつかの時代、どこかの場所。人工的な明かりのない暗い場所に、六匹のポケモンがいた。
一匹は、顔のついた丸い体に短い手足と耳のついた、真っ白なポケモン。
一匹は、犬のような体に悪魔のような装飾が施された、黒いポケモン。
一匹は、真っ白な毛に真っ黒な顔、鎌のような角を持ったポケモン。
一匹は、灰色で小太りの胴体に黄金色の顔のような模様のある、足のないポケモン。
一匹は、青紫色の炎を頭に携えた、蝋燭のようなポケモン。
一匹は、真っ赤な体に黒い模様、白いスカーフを首に巻いたような巨大な鳥形ポケモン。
皆が皆、何かに導かれるようにこの場所に集まった。そして、一匹ずつがそれぞれの身の上話をしてきた。同情を呼ぶ話もあれば、話だけ聞くと惨たらしい話もあった。
「なあ、俺たちこうしてここに集まって、順に話をしたわけだが、ここに来た理由を知っている奴がいたら教えてくれないか」
最初の一匹が声を上げる。高くも低くもない、青年のような声だ。
「ああ、それは私も聞きたいことだな」
紳士のような、それでいて気取ったところのない低い男のような声が言う。
「あたしも。気付いたらここにいたからさ」
今度は、調子のいい女性のような声が続く。
「あっしもですよ」
商売人のような口調の、癖のあるダミ声。
「ボクも……知らない……」
少し高い、不安げな少年のような声。
「残念ながら、私にも分からない」
最後に、誰よりも低く重い声。
そこにいる誰もが、首を横に振った。しばしの静寂が六匹を包む。
突然、ぱちぱちと手を叩く音が一つ聞こえた。
「みんな面白い話だったよ。苦労して呼んだ甲斐があったね」
どこからか、最初に聞こえた六つのどの声とも違う声が聞こえた。五番目の声よりさらに高い、のほほんとした声。そこにいた誰もが、驚いて辺りを見回した。誰の目から見ても、六つの影がある。自分を含めずに、だ。
「誰だ?」
六番目の低い声が尋ねる。七番目の声はいししと笑って、持っていた何かを掲げる。
それは、闇の中で金色に輝くリングだった。
「君たちと同じ、死神と呼ばれたポケモンだよ。それから――――君たちをここに連れてきた張本人さ」
七匹目の言葉に、他の六匹は言葉を失った。そもそも、信じられなかった。六匹ものポケモンを、ほんの一瞬のうちに連れてくることなど、到底できることのようには思えなかったのだ。気付いた時には目の前に六匹のポケモンがいたのだから。だが、七匹目は何の不思議もないとでもいうような口調で言った。
「何をそんなに驚くことがあるんだい?ボクにとっては、違う時代の全く別の地方から来た相手に、ここまで腹割って話せるほうが驚きなんだけどな〜。話を聞いていて思わなかった?この今話しているのは、いつの時代のポケモンなんだろうって」
闇の中でも分かるくらい白い歯を見せて笑う七匹目に、他のポケモンたちは互いに目を見合わせる。
「ふむ……確かに、聞いた感じは場所も時代も違うようだ。だが何故、どうやってここに連れてきた?」
二番目の声が尋ねた。七匹目は相変わらず白い歯を三日月型に浮かべている。それを挑発と取ったのか、六匹が一斉に殺気立った。
「まあまあ、まずは落ち着こうよ。まず、『何故』の方は、単純に同じ呼び名で呼ばれたポケモン同士話がしてみたかったからさ。みんなが話を聞かせてくれたから、今度はボクの話をしよう。『どうやって』の答えは、そこで分かるはずだから。大丈夫。話を聞いてくれて、質問に答えてくれたら、ちゃんと元の場所に帰してあげるから」
慌てた様子もなくその場を取り繕うとする七匹目。「帰す」という言葉に反応して、六匹の殺気が少しだけ和らいだ。
「本当か?」
一匹目は、期待するような疑いの目で七匹目を見つめて言った。
「お前を焼き焦がす準備は出来ている。偽りでなければその必要はないがな」
二匹目は、腹に炎をたぎらせながら言った。
「信じていいんだね?」
三匹目が、赤い目をぎらつかせながら言った。
「もし嘘だったら、賠償を請求するでやんす」
四匹目は、大きな手を揉みながら言った。
「あの子が……待っているから……帰してくれないと……」
五匹目は、炎を揺らめかせながら言った。
「少なくとも、同じ境遇の相手の命を奪いたくはないが、返答によっては容赦はせぬぞ」
六匹目は、誰よりも静かに言った。
「嘘はつかないよ。少なくとも、今はね……」
なだめるように言って、六匹の殺気が完全に消えたのを確認してから、七匹目はおもむろに話を始めた。
その時六匹はまだ知りもしなかった。
今話をしているのは、かつて世界を揺るがした、戒められし魔神だということを――――