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あるところに、小さな集落があった。とある国から追放された人間たちが、森を切り開いて作った集落だった。人間たちが来る前は、当然森には元々沢山のポケモンが住んでいた。しかし、人間たちは開拓の邪魔をするポケモンを次々と殺していった。自分たちを迫害してきた人間への恨みや怒りが、理不尽にも森の先住民たちに向けられたのだった。
茶色の縞々の尾を持つイタチや丸眼鏡のフクロウ、紫の体毛を持つネズミたちは必死に抵抗したが、道具や武器を持った人間たちの前にはあまりにも無力だった。ある者は罠にかかり、ある者は鉈で切り殺され、またある者は銃で撃ち殺された。そうしてできた大量のポケモンの死体は、集落の端に開拓の犠牲者として埋葬された。その中に、後に「死神」と呼ばれるポケモンの子供がいたとも知らずに。
「グルオォォォォォ――――――」
何処からか、何かの吠え声がする。地獄から死神が呼ぶような、おぞましい声だ。それを聞いた者は、皆が皆震えあがって家に閉じこもる。
「怖いよ、ママ……」
あまりの恐怖に涙を流すことも忘れて震える我が子を抱きながら、母親は
「大丈夫、大丈夫だから……」
と、何度も何度も呟いた。
「グルオォォォォォ――――――!!!」
またあの吠え声だ。しかも、先ほどよりも近付いている。それだけではない。異様な熱を感じる。家の外から地獄の業火で熱せられているような、そんな感覚。心なしか、ぱちぱちという音が聞こえるような気さえする。
突然、バタンと扉が開いた。否、焼け崩れたのだ。焦げ臭いにおいが辺りに立ち込める。家が燃えているのだ。驚いた母親は、我が子を抱えて崩れ落ちた入り口から急いで家の外に出た。
家の外へ出て、母親は唖然とした。自分の家だけではない。集落にある家という家が燃えていた。しかも、ただの炎ではない。どうしたらこんな色になるのだろうかと思うくらい黒く、鼻を突くような異様なにおいのする炎だった。
閉じこもった住民たちが、次々に家から出てくる。唯一炎が燃え広がっていない集落の外れに集まって、焼け落ちる家々を眺めていた。ある者は涙を流しながら。ある者は茫然とした表情で。またある者は炎で焼け爛れた肌の痛みに悶えながら。幸い逃げ遅れた者はいなかったが、彼らは住む場所を一瞬にして失った。
夕焼けが空を包む中、どす黒い炎が揺らめく集落の奥から、黒い影が人々の方へと歩いてくる。黒い犬のような体。頭から生えた二本の角。悪魔のように先端が槍のようになった尾。胸元には髑髏のようなものが付いている。人々は皆、このポケモンを悪魔の使いか死神の類だと思った。その中の一体が、人々の集まる場所に近付いていく。ゆっくりと、人々を何処かへ追いやるように。
「グルオォォォォォ――――――!!!」
そのポケモンは立ち止まり、人間たちに向かってあのおぞましい吠え声を上げた。ここから出て行けと言わんばかりの、凄まじい気迫が滲み出ていた。人々はそのポケモンたちに背を向けて、一目散に逃げた。最早抵抗する気力は完全に失っていた。逃げ惑う人々の背中を見つめながら、そのポケモンはにやりと嗤った。
その後、その集落のあった土地は、長い年月をかけてかつての森の一部となった。人間たちがいなくなったことで、かつてここに住んでいたポケモンたちが戻ってきて、木の種を植えていったのだった。集落の家々が燃え尽きてできた灰は、土に命を吹き込み、木々が育つ栄養となった。復活した森は以前よりも豊かな緑を茂らせ、森の住人達に恵みと住処を与えた。
人間たちがこの森を壊そうとすることは、その後一度たりともなかった。そして、今でも人間がこの森を訪れると、地獄の底から響いてくるようなあの吠え声が聞こえてくるという。
*
とまぁ、これが私の話だ。確かに、我々の種族は人間の言う悪魔のような姿をしている。吠え声が「死神の呼び声」と呼ばれているのも確かだ。だが、この集落を燃やしたのは、この場所を取り戻すためだったのだ。
命を奪うつもりは――――なかったとは言えないな。いっそのこと人間を皆殺しにしてしまえという声もあった。だが、我々の目的は、我が子を、そして森の同胞を殺した人間どもへの報復と、我々の場所を取り戻すこと。殺してしまっては、住む場所を作るためだけに殺戮を行った人間どもと同じだからな。あやつらが逃げられるようにと、火を放った後真っ先に入り口の扉を壊しておいた上に、入り口は安全地帯として火を放たなかった。事実、火傷を負った者はいたが、死んだ人間はいなかった。あの人間どもは反省したのだろうか。 我々の放った炎で焼かれた者はいつまでも悶え苦しみ続けるというが、今はどんな火傷もたちどころに直してしまう薬が開発されていると聞く。もう二度と、我々の手を、いや、口を汚させないでもらいたいところだ。
今も時々、我々の森に人間が訪れることはある。だが、あの時のような人間は随分と減った。我々を追い出したり殺したりするのではなく、森の恵みを分けてもらいに来たり、自分の持つポケモンの鍛錬のために訪れる者たち。そんな人間には、我々もあまり干渉はしない。戦い傷ついても、森の恵みが我々を、そして訪れる者たちを癒してくれる。あの時の人間たちもこうだったなら、あのような大火事が起こることはなかったのだろう。共に生きるとは難しいことではあるが、自然界のルールさえ守れば、誰にでもできることなのだ。
姿はそのように見えるかもしれないが、私は死神ではない。止むを得ず命を奪うことはあるかもしれないが、それは自然界において仕方のないのことだ。死んだ者の魂を運ぶのは、生きている者にできる所業ではないと私は考えている。私が考える以外に別の定義があるとすれば、本当に死神というべきは――――
by No.229
ヘルガー
ダークポケモン
・口から 吹き出す 炎で 火傷すると いつまで経っても 傷口が 疼いてしまう。
・不気味な 遠吠えを きいた ポケモンは 震え 一目散に 自分の 巣に 戻る。
・口から 吹き出す 炎は 体内の 毒素を 燃やしたもの。突き刺すような 臭いがする。
・頭の 角が 大きく 反り返っている いる ヘルガーが グループの リーダー的 存在。仲間 同士で 争い リーダーが 決まる。
・ヘルガーの 不気味な 遠吠えは 地獄から 死神が 呼ぶ 声と 昔の 人は 想像していた。
・怒ったときに 口から 噴き出す 炎には 毒素も 混じっていて 火傷になると いつまでも 疼く。
――――ポケモン図鑑より