かわらないいろのひみつ
かわらないいろのひみつ




 とある南の島のお話です。

 そこには、たくさんのカクレオンたちが暮らしていました。

 遊びたいときに遊んで

 夜になったらみんな集まって眠り

 おなかがすいたら、長い舌で木の実を取って食べ

 短い時間ではありますが、時々海に潜ったりもしました。

 そこはカクレオンたちにとって、楽園のような島でした。
 天敵となるようなポケモンはいません。
 木の実も豊富にあります。
 たまにケンカをすることもありましたが、みんな仲良く暮らしていました。


 カクレオンはかくれんぼが得意です。
 周りの色に合わせて、自分の体の色を変えることができるのです。
 色を変えたカクレオンを見つけることはとても難しいのでした。
 それはカクレオン以外のポケモンや人間にとってもそうでしたが、カクレオンたちにとってもそうでした。



 ある日のこと。
「ねえねえ、みんなでかくれんぼをしましょうよ」
 一匹のカクレオンが言いました。
 他のカクレオンたちも、面白そうだといって次々に集まってきます。

 みんなで話し合って鬼を決めました。
 言い出しっぺのカクレオンが最初の鬼に決まりました。

「じゃあ、かぞえるよ〜」

 鬼になったカクレオンは、目を閉じて、両手で目を隠して数を数えます。
「い〜ち、に〜い、さ〜ん……」

 他のカクレオンたちは次々に体の色を変えて、姿を隠します。

 ジャングルの木に隠れたり

 長い草むらに隠れたり

「よ〜ん、ご〜お、ろ〜く……」

 海辺の岩に隠れたり

 砂の中に隠れたり

「し〜ち、は〜ち、きゅ〜う……」

 穴を掘ってその中に隠れたり

 海の中に隠れるカクレオンもいました。

「じゅう!も〜い〜かい?」

 鬼になったカクレオンが叫びます。

「も〜い〜よ」

 返事はすぐに、あちらこちらから帰ってきました。

「よ〜し!」

 鬼になったカクレオンは、目を開けて、仲間たちを探し始めました。

 でも、なかなか見つかりません。
 それもそのはずです。
 カクレオンたちは皆、周りの色に合わせて体の色をそっくりに変えているのです。
 ちょっと見たくらいで分かるはずがありませんでした。

 ジャングルの木を手で触ってみたり

 長い草をかき分けて歩いたり

 海辺の岩を叩いたり

 砂の上を走り回ったり

 誰かが掘ったような穴を見つけて潜り込んだり

 海に潜ったりして探しました。

 それでも、仲間たちを一匹も見つけることができません。

 鬼になったカクレオンは、仲間たちが隠れている所を一通り探しているのです。
 でも、鬼ではないカクレオンたちも、簡単に見つかりたくはありません。
 鬼になったカクレオンが近付いて来たら、見つからないように動いていたのです。

 日が暮れるまでかくれんぼは続きました。
 鬼になったカクレオンは結局、誰も見つけることはできませんでした。

 夜になってみんなが眠る時間になると、隠れていたカクレオンたちは続々と寝床に帰ってきました。
「僕は木の影に隠れていたんだ」
「私は長い草むらの中にいたのよ」
「俺は岩に隠れてたんだぜ」
「……砂に潜ってた」
「穴掘って縮こまってたよ」
「海を泳いでたの。息が苦しかった……」
 みんな口々に自分が隠れていたところを教えてくれました。

「おかしいなあ。ちゃんと探したのに」
 鬼になったカクレオンは首をかしげました。
 仲間が教えてくれた場所は、くまなく探したのです。
「明日は絶対に見つけるぞ」
 鬼になったカクレオンは決意を胸に、仲間たちと夜を共にしました。

 次の朝。
 カクレオンたちは、またかくれんぼを始めました。
 この日も同じカクレオンが鬼でした。
 鬼になったカクレオンが目隠しをしている間に、他のカクレオンたちは昨日と同じように体の色を変えて隠れ始めました。

 でも、この日はいつもとは勝手が違いました。

 この日、海辺には一隻の船が停まっていました。
 中から五人の人間が島に上陸しました。
 それは遠い国からやって来た調査団でした。
 世界中を旅して、珍しいポケモンを捕まえては自分の国に連れて帰る人間たちでした。


「この島には、まだわが国で発見されていないポケモンがいるかもしれない。ぜひとも、新しい発見を我が国に持ち帰ろうではないか!」

 人間たちは、グラエナやヨーテリーを島に放ちました。
 グラエナもヨーテリーも、鼻がとてもいいポケモンです。
 匂いを頼りに、まだ発見されていないポケモンを探させようとしていたのです。

 人間たちの思惑通り、ヨーテリーもグラエナも、隠れていたカクレオンたちをかぎ分けて見つけました。
 そのポケモンの匂いを知っているわけではありませんが、周りと明らかに違う匂いがしたら、そこに何かいることが分かるのです。

 ジャングルの木の根元に

 長い草むらの中に

 海辺の岩に

 広い砂浜に

 地面に掘られた穴の中に

 そして、獲物を見つけたことを主人に知らせるために吠え声を上げます。

 隠れていたカクレオンはびっくりして、体の色が元に戻ってしまいます。
 追いかけて来るグラエナやヨーテリーから逃げますが、足はそれほど速くはありません。あっという間に追い付かれてしまいます。

 隠れていたカクレオンたちは、次々と人間に捕まってしまいました。



 ただ、一匹を除いては。



 鬼になったカクレオンは、昨日と同じように、隠れている仲間たちを探して島の中を歩き回っていました。
 鬼になったカクレオンは、このとき人間たちが島にいることを知りませんでした。仲間たちを探している間、偶然人間にも人間の連れてきたポケモンにも出会わなかったのです。

「よし、これくらいでいいだろう」
 捕まえたカクレオンたちを連れて、人間たちは船に乗り込みました。

 ちょうど船が出ていくところを、鬼になったカクレオンが見つけました。
 鬼になったカクレオンは、見たこともない船にびっくりしながらも、連れていかれた仲間たちを探し続けました。

 そして、夜になりました。

 鬼になったカクレオンがいつものように寝床に行くと、そこには誰もいませんでした。
「おかしいなあ。いつもはみんな、この時間には戻ってくるのに」
 鬼になったカクレオンは、戻ってくる途中に見つけた木の実を食べて、ぐっすりと眠りました。きっと朝にはみんな帰ってくるだろうと思っていました。

 次の朝。

「起きて!ねえ、起きて!」

すやすやと眠っていた、鬼になったカクレオンを、誰かが揺り起こしました。
 目を開けると、一匹のカクレオンが覗き込んでいました。

 鬼だったカクレオンはとても驚いて、それからとても喜びました。
「み〜つけた!」

 でも、鬼だったカクレオンを起こしたカクレオンは、泣きそうな顔をしていました。
 かくれんぼをしていた時の楽しげな表情は、今はどこにもありませんでした。

「どうしたの?」
「みんな、連れていかれちゃったの」
「ええ!?誰に?」
「昨日、海に船が停まっていたのを見た?あれに乗って、人間がやって来たの」
「人間?」
「そう。ポケモンを連れた人間。私以外のみんなは捕まっちゃったの」
人間。鬼になったカクレオンも聞いたことのある生き物の名前でした。
 ポケモンよりも弱いけど頭が良くて、いろんな道具を使える生き物だと教わっていました。

「隠れていたのに?」
「人間の連れていたポケモンが見つけちゃったの……」
「凄いな……ボクは全然わからなかったのに」

 本当は感心している場合ではないのですが、鬼になったカクレオンは素直に感心していました。自分たちにも見つけられなかった仲間を探し出したのです。

「そのポケモンたちは、私たちと違って鼻がいいの。匂いで分かっちゃったの。私は海の中に隠れていたから、見つからなかったんだけどね」
陸の上では残る足跡や匂いも、海の中では残りません。
海に潜っていたカクレオンは、それまでそのことを知りませんでした。
「ふ〜ん……ボクはみんなを探して歩き回っていたけど、一度も他のポケモンには出会わなかったよ。」
 鬼になったカクレオンは特に誇ることもなく言いました。
 彼が見つからなかったのは、本当に偶然だったのです。

 二匹とも、とても運がよかったのです。

「人間が来たって気付いた時に、私がみんなに知らせてあげられたら、見つからなくて済んだのかな……」
 海に潜っていたカクレオンは、自分を責めるかのように俯いてしまいました。
「でも、体の色を変えられたら、ボクたちには分からないよ」
 慰めるように、鬼になったカクレオンが言いました。
 でも、心の中では同じことを考えていました。
 自分が早く仲間たちを見つけていたら、仲間たちが連れていかれることは無かったかもしれません。

 二匹は考えました。
 今回のような時のために、隠れた仲間を探せるようにしておかなくてはなりません。
 でも、姿が見えなくては探すことができません。
 グラエナやヨーテリーほど鼻がいい訳でもないので、匂いを嗅いで探すわけにもいきません。

 色々話し合った結果、二匹は体の色を変えて隠れる時のルールを決めました。

 隠れる時には、おなかのギザギザ模様だけは変えないこと。
 いざという時は、その模様を頼りに仲間を探すこと。

 二匹はこのルールを守って仲良く暮らしました。
そして、新しく生まれたカクレオンたちに、このルールをしっかりと教え込みました。



 初めに人間が訪れてから、三年の月日が流れました。
 南の島には、今も沢山のカクレオンが住んでいます。

 体の色を変える珍しいポケモンがいると聞いて、時々人間もやってきます。
 そして、カクレオンを自分の住んでいる地方に連れて帰って野に放つこともありました。

 最初に連れていかれたカクレオンたちも、指定保護区で飼育されて、やがて野に放たれました。
 彼らもまた、新しく南の島から連れて来られたカクレオンたちに出会い、残されたカクレオンたちが作ったルールを知ることになるのです。

 こうして、カクレオンの生息域は、人間の手によって広がっていきました。
 それは一時的に生態系を崩すのではないかと心配されていましたが、そんなことはありませんでした。カクレオンたちは南の島にいた時と同じように、長い舌で木の実を取って食べます。木の実の取り合いになることもありましたが、カクレオンたちは新しい土地に徐々に馴染んでいきました。

 彼ら彼女らが生息している場所では、運が良ければ、とても面白い光景が見られるかもしれません。



 それは、赤いギザギザ模様が宙に浮いて、あちらこちら動き回っている光景。
 先祖代々伝わって来た教えをきっちり守って、カクレオンたちがかくれんぼをしているのかもしれません。









おしまい



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円山翔 ( 2018/05/24(木) 07:16 )