さんまいめ
南の空を太陽が横切る頃、さいほうポケモンのクルミルは、服を作るためのはっぱを探していました。それまで小さな木の葉でしか服を作ったことがなかったので、今度はもう少し大きなはっぱを使いたいと思っていました。
木の上から地面を見下ろしていると、クルミルの見たことのないはっぱが五枚、束になって生えていました。木の葉と同じような形をしていますが、木の葉よりももっと大きいはっぱでした。
クルミルは口から糸を吐き出して、木の枝に巻き付けました。そこから糸を少しずつ伸ばしてゆっくりと地面まで降りていきました。
はっぱの近くまで行って、よく見ると、五枚のはっぱはどれも、太陽を浴びてのびのびと良い色に育っています。これならいい服ができそうです。
はっぱをちょうどいい大きさに噛み切ろうとした時、風もないのにそのはっぱがガサガサと揺れました。
「そのはっぱは食べない方がいいよ。食べると混乱してしまうよ」
どこからか、誰かの声がしました。
野生のポケモンがいるのかもしれないと思ったクルミルは、はっぱの根元に小さく寝転がりました。
でも、はっぱの向こうには野生のポケモンは潜んでいませんでした。
代わりに、寝転がった土の下からさっきと同じ声がしました。
「隠れなくてもいいよ。今この辺りにはボクくらいしかいないから」
草の周りの地面が割れて、中から紫色の丸い体が半分ほど顔を出しました。それは頭に草を生やしたポケモンでした。小さい真っ赤な目はとろんとしていて、何だか眠たそうです。
「食べるためじゃないの。はっぱで服を作りたいの」
クルミルはそのポケモンに背中を向けて、着ていた葉っぱの服を見せました。
ちょっと前にクルミルが若葉で作った、柔らかくて着心地のいい服でした。
でも、随分長い間着ていたので、そこかしこにつぎはぎの跡がありました。
「いいよ」
そのポケモンは言いました。
「でも、明日の夜まで待ってくれないかい」
「分かった。待ってる」
クルミルが答えると、そのポケモンは欠伸を一つして、紫色の体を地面にうずめました。
次の日の夜、月が山の向こうから顔を出した頃に、クルミルはそのポケモンの元を訪れました。
クルミルがはっぱに近付くと、はっぱがもそもそと動いて地面から紫色の体がぴょこんと飛び出しました。
「このはっぱを、君にあげるよ」
そのポケモンは頭のはっぱのうち一枚を、クルミルに差し出しました。
月の光を浴びて輝く、艶のある綺麗なはっぱでした。
「ありがとう!」
クルミルはそのはっぱを根元から噛み切って、ちょうどいい大きさに切り取っていきます。
今度は口から糸を出して、切り取ったはっぱを器用に縫っていきます。
はっぱをくれたポケモンは、クルミル服を作るところをじっと見ていました。
クルミルの服ができたのは、月が空のてっぺんに昇った頃でした。
小さいクルミルの体に合わせた小さい服でした。
クルミルは早速新しい服に着替えました。
新しい服は、肌触りも着心地も抜群の服でした。
「ありがとう!君のおかげで、いい服ができたよ」
クルミルはにっこりと笑って言いました。それから、はっぱをくれたポケモンに、はっぱでできた何かを渡しました。
「お礼にこれをあげる。君がくれたはっぱで作ったの」
それは、星と月の形をした髪飾りでした。服を作る合間に、はっぱの余りで作ったものでした。
艶のあるはっぱでできたそれは、本物の月や星のように輝いて見えました。
「ありがとう。大切にするね」
そのポケモンは優しく微笑んで、髪飾りを頭のはっぱの一つに通しました。
一枚切り取ったはずのはっぱはなぜか、五枚ありました。
「またね」
「うん、またね」
お別れを言って、はっぱをくれたポケモンはトコトコとどこかへ歩いて行きました。
クルミルは近くにあった木に登って、はっぱの影に隠れてすやすやと眠りました。