ふしぎなはっぱ
にまいめ



 ある朝のこと。束になった五枚のはっぱの影に、小さな影が飛び込みました。こおろぎポケモンのコロボーシです。いつもは綺麗な音を響かせるコロボーシですが、今はぜいぜいと息を切らしていました。

「どうしたんだい?そんなに慌てて」
コロボーシが隠れているはっぱの根元から声がしました。
「ムックルに追われていたんだ」
 コロボーシは五枚のはっぱの隙間から向こうを覗きながら言いました。声の相手を確認する余裕が、今のコロボーシにはありませんでした。灰色の体に白い顔のむくどりポケモン、ムックルが空からコロボーシの方を伺っています。少しだけ顔を出したところで、目が合ってしまいました。

 ムックルは狙いを定めて、頭から急降下してきました。
「伏せて動かないでね」
 地面の下の声が言いました。コロボーシは声に従って、はっぱの影で体を低くします。
 地面に伏せたコロボーシのすぐ上を、はっぱに思い切りぶつかりながらムックルが通り過ぎていきました。

 ムックルが通り過ぎた後も、コロボーシは顔を地面に伏せてがたがたと震えています。こういう時は大抵、急降下した後すぐに急上昇して、もう一度襲ってくることが多いのです。事実、ムックルは急上昇して体制を整えようとしていました。
 コロボーシは体を固く丸めて、いつ襲われるか分からない恐怖に震えていました。

 でも、その瞬間は来ませんでした。ムックルは体制を整えた後で、コロボーシには目もくれずに飛び去ってしまったのです。
「もう大丈夫だよ」
 地面の下の声を聞いて、コロボーシは恐る恐る空を見上げました。
 コロボーシはおかしなことに気付きました。ムックルの動きが、少しぎこちないのです。
「君は、ポケモン?」
 コロボーシが尋ねて、
「そうだよ」
 声が答えました。ごそごそとはっぱが動いたかと思うと、むくりと地面が盛り上がって、草の下から紫色の顔が半分くらい出てきました。
「さっきムックルがぶつかった草にはね、毒の粉と痺れ粉がいっぱいくっついていたんだ」
 そのポケモンは二枚のはっぱをコロボーシに見せました。コロボーシがはっぱの表面をよく見ると、そのポケモンの言う通り、遠目では分からないほど細かい粉がたくさんくっついていました。
「きっと、毒や麻痺を治す木の実を探しに行ったんだね」
 そのポケモンはそれだけ言って、また地面の中に潜っていきました。

「待って」
 コロボーシが引き留めようとした時には、紫色の顔は地中に埋まって、頭に生えた緑のはっぱだけが顔を出していました。
「ボクは昼間は眠っているんだ。お日様の光は苦手だからね」
 そのポケモンは地面の下から眠そうな声で言いました。
「だったら、お礼に子守唄を歌ってあげる」
 ありがとうを言いそびれたコロボーシは静かに言って、頭の触角を優しく打ち鳴らしました。

 コロコロと心地の良い歌声が、五枚のはっぱの周りに響き渡りました。
 しばらく歌っていると、別の場所で同じ音がしているのが聞こえました。
 一匹だけではありません。それぞれの声に応えるように、そこかしこでコロコロという音が聞こえます。同時に、地面の下からすやすやと、気持ちよさそうな寝息が微かに聞こえてきました。

「おやすみ。それから、ありがとう」
 歌うのをやめたコロボーシは、そう言い残して、別の声のする方へと歩いて行きました。地面に潜ったポケモンのはっぱについた粉が、朝の日差しを浴びてキラキラと輝いていました。





円山翔 ( 2018/04/19(木) 07:11 )