いちまいめ
ある夜のこと、ねずみポケモンのコラッタが、森の中で行き倒れていました。
日が暮れて寝床に戻る途中でポケモンを連れた人間出会い、戦ってボロボロにやられてしまったのです。
もう少し元気な時には、木によじ登って木の実を齧ったり、地面に落ちている木の実を探して食べたりするのですが、今はそんなこともできないほどに傷ついていました。
近くに仲間はいません。助けを呼ぶために叫ぶ力も残されていません。周りに食べられそうなものもありません。いくら生命力の強いコラッタでも、このままでは死んでしまいます。
ふと、霞んでいく視界の向こうで、一束の草がカサカサと揺れました。何事かと目を見開くと、揺れていた草がトコトコとこちらに近付いてきます。
コラッタはびっくりして飛び上がりそうになりました。ですが、今はそんな元気もありません。
目を凝らしてよく見ると、それはポケモンでした。
五枚のはっぱと二本の足を生やした紫色の丸い体に、可愛らしい目と口がついているのが見えました。
「どうしたんだい」
そのポケモンは見た目に違わない可愛らしい声で尋ねました。
「人間にやられたんだ」
コラッタは今にも消えてしまいそうな細い声で答えました。
「それは大変だ」
そのポケモンはコラッタに歩み寄ると、頭に生えたはっぱの一つをコラッタの口元に差し出して言いました。
「このはっぱをかじってごらん。すぐにげんきいっぱいになるよ」
コラッタは言われたとおりに、そのポケモンが差し出したはっぱをかじりました。
それはとても苦いはっぱでした。
あまりの苦さに、コラッタは悲鳴を上げて飛び上がりました。同時にとても驚きました。それまでは飛び上がることもできないほどぐったりしていたのに、そうは思えないほど、コラッタは元気になっていたのです。
「元気になってよかった」
そのポケモンはにっこり笑って言いました。
「口が曲がってしまうかと思ったよ」
コラッタは涙目になりながら応えました。
そのポケモンは、コラッタのために木の実を一つ取ってきてくれました。
コラッタはもう十分に動けたのですが、体の傷がまだ完全には癒えてはいなかったからです。
コラッタはお礼を言って、そのポケモンがくれた木の実を半分に割りました。
「一緒に食べよう」
コラッタは木の実の半分を差し出して言いました。
そのポケモンは木の実を受け取るべきか拒むべきか迷いました。
元々コラッタの傷を癒すために持ってきた木の実です。
「せっかくだけど……」
そのポケモンは断ろうとしました。
でも、コラッタは差し出した木の実を引っ込めようとはしませんでした。
結局、二匹は木の実を仲良く分け合って食べました。そのポケモンのはっぱと、一緒に食べた木の実のおかげで、コラッタはすっかり元気を取り戻しました。
しばらくすると、暗かった空が次第に明るくなって、山の端が朝焼けに染まり始めました。
「朝になったからお別れだよ。またけがをしたらボクをさがしておいで。でも、ボクは日の光が苦手だから、起こすのならば夜にしておくれ」
不思議なはっぱを持つそのポケモンは、そう言い残して地面に潜ってしまいました。コラッタが何と声をかけても、そのポケモンが出てくることはありませんでした。
「ありがとう」
コラッタは最後にそれだけ言って、自分の住処に戻っていきました。その言葉に応えるように、地面に潜ったポケモンの頭の草がゆらゆらと揺れました。