夢とお告げ
No.--- ――――― ――ポケモン
人々を 深い 眠りに 誘い 夢を 見せる 能力を 持つ。 新月の 夜に 活動する。
月が 出ていない 夜には ―――――が 恐ろしい 夢を 見せるという 話が 伝わる。
深い 眠りに 誘う 力で 人や ポケモンに 悪夢を 見せて 自分の 縄張りから 追い出す。
自分を 守るために 周りの 人や ポケモンに 悪夢を見せるが ―――――に 悪気は 無いのだ。
目を開けると、そこは不思議な空間だった。どこかの島のようだが、周りは深い霧が立ち込めていてよく見えない。だが、霧は島には少しも上がって来ない。そこだけが、閉ざされた空間のようだった。どうしてこんな所に立っているのだろうか?そんなことを考えながら、何かに導かれるように、僕は島の奥へと足を動かす。いくつもの大きな木がアーチのようになっている所で、僕は足を止めた。
見るからに不気味な場所だったが、恐怖は感じなかった。ただ、この奥で何かが僕を待っている、そんな気がした。僕はゆっくりと足を進める。今度は、自分の意思で。
木々のアーチを抜けると、円形の空間があった。中央には、僕の背丈ほどの半径の水たまりがあった。周りは木々に囲まれて暗かったが、水たまりの上空だけは開けていた。
その水たまりの真ん中に、“彼”は目を閉じて立っていた。真っ黒な体に、真っ白な頭。真っ赤なマフラーを巻いているような首元。いつか絵本で見たポケモンにそっくりだった。
僕が水たまりの前まで来ると、“彼”は閉じていた目を開いた。深い空色の瞳が、じっとこちらを見つめてくる。強い光を携えた、何処か悲しげな瞳だった。何かを訴えているように見えて、僕は水たまりに足を踏み入れようとする。
『来るな!』
頭の中で、低い声が響いた。それは紛れもなく、“彼”の声だった。それまで聞いたことはなかったけど、何故か確信をもって“彼”のものだと思えた。が、遅かった。
僕の足先が水たまりに触れた瞬間、触れたところから真っ暗な穴が広がった。咄嗟に足を引いたが、穴は既に僕の足元にまで及んでいた。僕は何かを成す
術もなく、穴に呑みこまれていく。完全に呑まれる直前、黒い腕が僕の手を掴もうとする。おそらく、“彼”の腕だ。が、その手はむなしく空を切る。その刹那が、僕には何十秒にも何百秒にも感じられた。
ひんやりとした真っ暗な空間を、僕はどこまでも落ちていった。風は無いが、落下とともに少しずつ体温が奪われていく。いつもなら悲鳴を上げるところだったろうが、今は何故か冷静でいられた。落ちる途中で、さっき聞いたばかりの“彼”の声が聞こえた。
『また誰かを巻き込んでしまった……』
自分を責めているかのような声だった。本当は“彼”の忠告を聞かなかった僕が悪いはずなのに。“彼”は何も悪くない。そう思った時だった。
僕の体の落下が突然止まった。同時に、それまで感じていた肌寒さが消え、暖かい光が僕の目の前で弾けた。その光の中で、何かが動く。
『あなたが思っている通り、彼には何の悪気もないわ。ただ、彼の力が強すぎるだけ』
再び頭の中で声が聞こえた。今度は、柔らかな女性の声だ。今度も聞いたことのない声だったが、目の前の光の中に、声の主がいる。僕はそう確信していた。
『どうか、彼を救ってあげて』
光の中から、何か小さなものが僕の目の前に飛んできた。僕はそれを左手で包む。同時に、目の前の光が辺りの闇を包み込んでいく。それまで落ちてきた空間を、今度は真っ直ぐに昇っていく――――
弾かれたように体を起こすと、そこは見慣れた部屋だった。どうやら夢を見ていたらしい。左手の甲で目をこすろうとして、掌に何かが握られていることに気づく。指を開くと、不思議な色の光を放つ、三日月形の羽があった。寝る前はこんなものは持っていなかった。とすると、夢の中で受け取ったものだろうか?
どこからともなく声が聞こえる。
『それは“三日月の羽”。悪夢を振り払う力を持っているの』
夢の中で聞いた女性の声だった。部屋の中を見回してみるが、夢の中で見た光はどこにもない。だが、気配だけは感じられる。
「……貴方は、誰?」
僕は虚空に尋ねてみる。答えは返ってこない。代わりに、
『次の満月の夜、ミオシティから船に乗って。そこで全てを話すわ』
と返ってきた。
次の満月の夜か。昨日の夜が新月だったから、ちょうど14日後だ。
ん?新月?僕の心の中で何かが騒めいている。新月の夜、悪夢、黒いポケモン。聞き覚えのあるキーワード。確か、何かの本で読んだことがあったような気がする。何だったっけ?
考えている間に、声の主の気配は何処かへ消えてしまった。肝心なことは何一つ聞けていない。
どうやら声に従って、満月の夜を待つほかないようだ。