第二章 時の声と新たなる仲間
第五話 脳裏に響く小さな声
わたしとマヒルが探検隊になって数日が経って、依頼をこなしていく内に、だいぶ探検隊の仕事にも慣れてきた。その甲斐もあって、探検隊ランクもノーマルランクからブロンズランクへと上がることができた。

「「「みっつー! みんな笑顔で明るいギルド!!」」」

「さあみんな仕事にかかるよ♪」

「「「おーーーっ!」」」

いつもの朝礼が終わると弟子達が一斉に自分の持ち場へと向かって行った。
わたし達も依頼を受けに行こうと思ったらヒビキが話しかけてきた。

「お前達、ちょっとこっちに来てくれ。」

「?どうしたんだろ……。ひとまず行こっか。」

「そうだな。」

ヒビキの居る方へ行くと、ヒビキはいつもわたし達が依頼を受けている掲示板とは反対側の掲示板の前に立っていた。

「お、来たな。今日お前達にはこっちの仕事をしてもらうよ♪」

「こっちの仕事……。って今まではあっちの掲示板の仕事をしてたけど、あっちとどう違うの?」

「ああ、掲示板をよく見てくれ。」

掲示板を見ればいいのか?
……ん?こっちはあっちの掲示板と違ってポケモンの顔が描かれているな……依頼主……とは違うよな?

「ここに描かれているポケモンは全員お尋ね者……つまり悪い事をして指名手配されているポケモンだ。…と言うわけで今日はこの中から一匹を選んで捕まえてきてくれ♪」

「…………は?」

何言ってんだこいつ。いきなり犯罪者を捕まえてこいって……。
それにたぶん……。

「お、お尋ね者をつ、捕まえるなんて……そんなの絶対無理だよ!」

……ま、やっぱりこうなるよな。

「ハハハ♪安心しろ♪お尋ね者と言ってもピンキリだ、強い奴もいれば弱い奴もいる。だから、この中から弱そうな奴を選んで捕まえてきてくれ♪」

「そ、それでも悪いポケモンと戦うなんて怖いよ……。」

「まあ、これも修行のうちだよ。頑張りな♪」

そう言ってヒビキは梯子を降りて行った。

「それじゃ、準備しに行こうぜ。」

「……うん。それじゃあトレジャータウンに行こっか。」

~~~

「ここに来るのは二回目だけど。やっぱり探検隊のポケモンが沢山居るよな。」

「まあ、ここには探検の助けになる施設が揃ってるし、近くにギルドもあるからね。」

探検の助けになる施設……って言うと確か……。
お金が預けれるヨマワル銀行に、わざの連結とかできるエレキブル店(絶賛店主不在)と、橋を渡った先に、物の売り買いができるカクレオン商店と道具を預かってくれるガルーラの倉庫があるんだよな。前に来た時にマヒルに説明されたからよく覚えている。
……そう言えば前来た時も思ったけど、マヒルってトレジャータウンのことに詳しいよな……。

「じゃあ。カクレオン商店に行こう。」

「ああ、そうだな。」

そう言ってわたし達はカクレオン商店へ向かった。すると、商店の前に銀色のスカーフを身に付けたヒトカゲが店主のカクレオンとと話していた。

「あ、カガリ!」

「うん?アカツキとマヒルか、お前らも買い物か?」

「ああ。これからお尋ね者を捕まえに行くから準備をな。」

「そうか、最近は悪いポケモンが増えてるからな……気を付けろよ。」

そう言ってカガリは前を空けてくれた。 

「トウさん、コウさん久しぶり!」

「あ!マヒルくんとアカツキちゃんじゃないですか。いらっしゃいませ〜」

そう声をかけたのはこの商店の店主の一人のカクレオンのトウ。そして、隣にいるのはトウの双子の弟で色違いのカクレオンのコウ。二人で担当する商品を分けてこの商店を運営している。

「それで。今日は何の御用で?」

「それじゃオレンの実6つとリンゴ4つと……後は縛り玉を2つ頼む。」

ちょっと多いかもしれないけど何があるのかわからないしな。これくらいあればダイジョブだろ。

「えーでは600ポケになります。」

「はい。600ポケ。」

そう言ってお金を渡して道具を受け取ってバッグに仕舞おうとした時……。

「すみません。リンゴください!」

「おお〜!ソウくんにランちゃん!いらっしゃい!リンゴだね?はいどうぞ。」

「ありがとうございます!あ、マヒルさんお久しぶりです。」

「うん。二匹とも久しぶり!あ、紹介するね。マリルのソウくんとルリリのランちゃん。二匹は兄妹なんだ。」

「わたしはアカツキ。マヒルと一緒に探検隊をしているんだ。よろしくな。」

「はい!よろしくお願いします。アカツキさん!」

そんな感じに少し話した後、ソウとランの二人は一緒に帰って行った。

「偉いな……あの二人。まだ小さいのにお使いなんて。」

「そうですよね。実は、最近あの子のお母さんの具合が悪いんで、ああやってたまに買い物に来るんです。」

「そうだったのか……。」

そうトウさん達と話していると。ソウとランが急いで戻ってきた。何か忘れ物でもあったのか?

「トウさん。リンゴが一つ多いです。僕達そんなに多く買ってないです。」

「ああ、それはオマケだよ。二匹で仲良く分けて食べるんだよ。」

「……!!ありがとうございます!トウさん!コウさん!それじゃあ!」

そう言ってまた帰ろうとしたその時

「イテッ!」

ランが転んで持っていたリンゴが転がり落ちる。幸い、ランには怪我は無さそうだった。
そして、わたしは近くに転がってきたリンゴを彼女に返した。

「す、すみません。ありがとうございます。」

「気にすんな。」

そしてわたしの手がランに触れたその瞬間に急な目眩が襲ってきた。

(ううっ、なんだ……これ……目眩か?)

目眩は続き、辺りが真っ暗になり、周りの音が聞こえなくなる。その刹那、目の前に一筋の閃光が通る。

『た……助けてっ!!』

「……!?」

な、なんだったんだ今の?
今、確かに声が聞こえたような……?それに、今の声って……。

「…………?どうかしましたか?」

「おーい!ラン。早くいくぞー!」

「うん。今行くよ!」

そう言ってランはわたしにお辞儀するとソウのいると方へ走って行った。

どういうことだ?いきなり目眩がしたと思ったら助けを求める声が聞こえて……。

「可愛いねあの二匹。アカツキもそう思わ…アカツキ……?」

それにさっき聞こえた声はたぶんランの物だ。だか、ラン本人はそんなことをしゃべった様子は無かった……。
なら、どうしてランの声が聞こえーー

「……アカツキッ!!」

「……!!どうした?マヒル。」

「い、いや。どうしたの?そんなにぼーっとして。」

もしかしてマヒルにはさっきの声が聞こえなかったのか?

「なあマヒルさっき悲鳴が聞こえなかったか?」

「悲鳴?僕は聞こえなかったよ?カガリは何か聞こえた?」

「いや、俺も聞こえなかったぞ。気のせいじゃないのか?」

「うん。きっと気のせいだよ!それじゃあ早く行こう。アカツキ。」

「あ、ああ……。」

……本当にさっきの声は気のせいだったのか?

~~~

「…………。」

やっぱり。さっきの声は気のせいだとは思えないんだよな……けど、マヒルもカガリも聞いて無いって言ってたしな……。せめてもう一度声が聞こえれば確信が持てるのにな。

「あ!アカツキ。あれ!」 

「ん?何だ?」

マヒルの見ている方向に目を向けると、広場の端の方でソウとランが黄色いポケモンと話していた。確かあの黄色いポケモンはスリープだったよな。

「リームさん。ありがとうございます!」

「いやいや。お安い御用ですよ。」

「これで見つかるね!お兄ちゃん!」

あのスリープ…リームって言うのか……。それにしても、見つかるってことは二人は何かを探してるのか?

「二匹ともどうしたの?」

「あ!マヒルさん。実はわたし達まえに大切なものを落としちゃってずっと探してるんです。」

「けれど、中々見つからなかったんです。ですが、リームさんが見たことがあるって。それで、一緒に探してくれるって言うんです!」

なるほど。さっきは落とし物のことをリームに聞いて、それでリームがそれらしき物を見たから手伝うって言ってたのか。

「いえ、困っているポケモンを見たらほっとけないですから。早く探しに行きましょう。」

「はい!それじゃあまた。」

そう言ってソウ達は去って行った。その途中でわたしとリームがぶつかった。

「おっと。これは失礼。」

そして、リームは二人の後ろを歩いて行った。その時、リームの顔が一瞬笑ったように見えた。

「何で今、あいつ笑って……うっ……!!」

「リームって親切なポケモンだよね。最近は悪いポケモンが増えてるのに……。」

うっ、また……目眩が……。
そして、また辺りが真っ暗になり、目の前に閃光が走る。

『言うことを聞かないのなら痛い目に遭わせるぞ!』

『た……助けてっ!!』

また……聞こえた。それに、今度は声だけじゃなくて映像まで見えた。それに、あの映像……リームがどこかの山でランを襲おうとしていたってことは!

「マヒル!ランが危ない!!」

「え!?どうしたのアカツキ?」

「また声が聞こえたんだ!しかも今度はリームがランを襲おうとしていたのが見えたんだ!」

わたしはマヒルが突然のことで驚いているのも気にせずにさっき見た映像のことを伝えた。マヒルはその話を聞いて少しずつ考えた様子を見せた。

「……けどリームさんはとてもそんな事をするようには見えないよ?」

「だけど確かにリームがランを襲おうとしたのを見たんだよ!だからーー」

「……アカツキ!」

「……!」

マヒルの一言で頭に登った血が一気に引いていく。

「アカツキはきっとポケモンになってから色々あって疲れてるんだよ。それで、声が聞こえたりしたんじゃないかな?」

「…………。」

「確かにリームさんの事はちょっと気になるけど、ひとまず今はギルドに戻ろ?」

「……そう…だな。」

マヒルに言われて、わたしとマヒルはギルドへと戻った。だけど、わたしはまだ悪い予感を拭えきれないままだった。

氷華 ( 2021/09/02(木) 18:15 )