第二章 時の声と新たなる仲間
第八話 カミングアウトと見張り番
「ふわぁ〜よく寝た……ってまだこんな時間か……」

窓を見るとまだ朝日は昇っていなかった。
こりゃ早く起きすぎたっぽいな……けど、二度寝するって気分でもないしな……。

「……少し散歩でもするか」

部屋を出て、大広間に入るとそこにはカガリが一人、窓辺に立っていた。
そういえば、あいつ部屋に居なかったな……にしてもあいつ一人で何してんだ?

そんなことを考えてるとわたしに気づいたのかこっちを向いた。

「……ん?アカツキか、早いな」

「おまえもな。何かあったのか?」

「……いや。少し考え事があっただけだ、気にするな」

考え方か……まあカガリらしいな、あいついつも考えてる様に見えるし。

「……そういえば、アカツキ一つ聞いてもいいか?」

「うん?何だ?別にいいが」

「……そうか。ならアカツキ、お前は何者なんだ?」

「は?」

いや、いきなり何言ってんだこいつ!どういう過程でそんな話になった!?
……それに、わたしが何者なのかって、それこそわたし自身が知りたいし……

「……あ、すまん言葉が足りなかったな。俺が聞きたいのはお前がどこからここに来たのかって事だ。マヒルはトレジャータウンでそれらしい姿をたまに見た事があるんだが、お前は一度も見た事が無いから、気になってな」

そうか……まあどっちにしてもわたしがどこから来たのかっていうのも覚えてないんだけどな。
…………どうせだし包み隠さずに全部伝えるか。カガリもリビルドに入った訳だし、いずれは話とかないとだしな。

「……悪いが、正直に言うとわたしは自分がどこから来たのか一切わからない。……まあ記憶喪失ってやつだな、覚えているのは自分の名前とわたしが人間だってことだけだ」

「!?人間か……だったらギルドに弟子入りしたのは自分が何者か探すためか?」

「まあそれも理由の一つ……って信じてくれるのか!?」

「?ああ。お前が嘘をついている様には見えないし、人間がポケモンになった話は聞いた事があるから実際あってもおかしくは無いからな」

……まさかこんなにあっさりと信じてくれるとは……まあ詳しく説明しなくてもよくなったから別にいいか。
それにしても、わたし以外にもポケモンになった人間っていたんだな……もしそうだったら会ってみたいな、わたし以外の人間に。

「……そうだな、わたしがギルドに弟子入りした理由は、さっきおまえが言ったのもあるけど、もう一つ、マヒルとチームを組むためってのもあるな」

「マヒルと?」

「ああ、マヒルはまだ見ず知らずの赤の他人だったわたしと探検隊になろうって誘われたんだ。だからその思いに応えたいって思ってる。……それに、嬉しかったんだ。誰も頼れる相手が居なかったわたしに居場所をくれて。……まあこんなことマヒルには言えないけどな」

わたしは笑いながらカガリにそう言った。
そんな風に話していると、うっすらと窓の外から朝日が差し込んできた。

「……っと、もうこんな時間か……そろそろマヒルを起こさないとな……それじゃ今日も頑張ろうな!」

~~~

「さあ、今日も仕事に掛かるよ♪」

「「「おーーーーっ!」」」

あの後、寝ているマヒルを起こすのに時間がかかって結局朝礼の時間ギリギリで大広間に来てしまった。
全く、せっかく早起きしたのに結局いつも通りじゃないか……本格的にマヒルを早く起こす方法を考えないとな。
……っと今は仕事だな

そうして、地下一階に行こうとした時

「待った、今日はお前達には別の仕事をしてもらう」

「別の仕事?」

「そうだ。お前達には見張り番をやってもらう」

見張り番って言うと……確かマヒルがずっとこのギルドに弟子入りすることができなかった理由だったけか。
マヒルの方を見るとその時のことを思い出したのか少し震えていた。

……まだ克服してなかったのかよ
まあそんなことは置いといて、わたしはヒビキの話の続きを聞く。

「いつもはグラドが担当しているんだか、今日は急な用事があるみたいでな……だからお前達に頼んだ訳だ」

「……なるほど、それでどうして俺達に頼んだんだ?」

そうだよな、どうしてわたし達に頼んだんだ?

「…………詳しい内容はボリスから聞いてくれ♪それでは頑張るように♪」

そう言うと、ヒビキはそそくさとと上の階へ向かって行った。

あいつ……露骨に話を逸らしてったな……もしかして適当に選んだだけなんじゃ……。
まあ今はひとまず言われた通りにボリスに話を聞きに行くか。

「お、来たな。ヒビキに聞いていると思うが、今日お前達には見張り番をしてもらう!」

「なあ、ボリス。見張り番をやってもらうって言っても、わたし達は具体的には何をすればいいんだ?」

「ああ、それは今から説明する。まずこの穴から見張り穴の真下まで向かう。そして、真下に着いたら見張り穴の上に立つポケモンの足形を見て、その足形からなんのポケモンが立っているのかワシに伝えてくれ。そうしたらワシが、怪しいポケモンでなければギルドの中に通す……と言う感じだ。わかったか?」

「ああ、それじゃマヒル、カガリ、行こうぜ」

そうして、わたし達は穴の中に入る。
穴の中は明かりも無くて暗かったがカガリの炎のおかげで特に問題も無く穴の真下にたどり着くことができた。

「ここが穴の真下だね……よしっ、ボリスー、穴の真下に着いたよ!

よしっ!それなら始めてくれ!

ボリスの声が合図にわたし達の見張り番の仕事が始まった

~~~

「えっと、足形はストライクだ!」

『よし!入れ!』

「……あの足形はハブネークだな」

そんな感じに序盤はまだ簡単だったが、昼頃になるとやってくるポケモンの数も増えて、その分わたし達がボリスに伝える間隔も短くなっていった。

「足形はザングース!……もう一人の足形はアブソルだ!」

「よし。二匹とも入って良いぞ!」

「よし、次は……って何だあの足形!」

「……すまん、わからん」

次にやってきたポケモンを伝えるために上を見ると、格子の上からうっすらと丸い影が見えるだけだった。

「えーっと……足形はゴース!」

『よし、入れ』

「いや、どうしてわかるんだよ……」

また上を見てみると格子の上にさっきとは違う丸い影が映る。
……やっぱ思ったけどこのシステム、常に浮いてるポケモンを判別するの難しいんじゃないかな……

「この足形はコイル!」

「いや!だからどうしてわかるんだよ!」

「え?」

「え?」

「「…………」」

「……お、次のポケモンが来たみたいだな」

……そんな事もあったが、なんやかんやあって夕方になって、ボリスとヒビキから戻ってくるように言われ仕事が終わった頃には、わたし達全員クタクタになってなっていた。

「や、やっと終わったぁ!」

「疲れた……休みたい」

「……同感だ……」

「お前達、ごくろうだったな♪これが今日の報酬だ♪」

そう言ってヒビキはわたしに報酬の入った袋を手渡す。
中には400ポケやキトサン、命の種が入っていた。

「あ、そういえば……ヒビキ、どうして今日はわたし達に仕事を頼んだんだ?他にもできそうな奴はいたと思うが……?」

「…………。お前達今日はもう疲れただろう?もうすぐご飯だからしっかり休め♪」

わたし達にそう言うとヒビキは食堂の方へと向かった。
また話を露骨に逸らしたな……やっぱり適当に目についたわたし達を選んだだけなんじゃ……。
まあ、報酬ももらったし、それに、カガリが入ってからの初めての依頼も達成できた訳だし、明日も頑張らないとな。
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氷華 ( 2021/11/02(火) 17:57 )