ポケモン不思議のダンジョン 集いし想い

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救助隊の章
第1話 出会い
「レスキュー、ファイッ!」

「オー……」

 とある小さな森、真っ直ぐ続く道を走る2人のポケモンがいた。1人はオレンジ色をしたトカゲに似た姿をしていて、腹部から尻尾の裏側までの直線はやや薄みがかった黄色となっており、可愛らしい大きな瞳を持っている。そして尻尾の先には炎が点っている――ヒトカゲと呼ばれる種族のポケモンである。
 そしてもう1人、亀のような姿をしており体色は青、茶色の甲羅を背負っていてこちらも大きな瞳を持っている――ゼニガメと呼ばれる種族のポケモンである。

「レスキュー、ファイッ!」

「オー……」

 森の中を走るヒトカゲとゼニガメ。ヒトカゲが元気よく掛け声をかけているのだが、ゼニガメは疲れてしまっているようで元気なく答えていた。

「ちょっとソラ! もっと大きな声を出してよ、まだ走り出してからそんなに経ってないよ?」

 ヒトカゲは立ち止まりゼニガメの事をソラと呼び、両手を腰に当てながら声が小さいソラにもっと大きな声を出すようにと怒る。

「んな事言ってもよぉ……オイラはアルトと違って走るのは苦手なんだよ。疲れたからもうここから1歩も動けないっ」

 ヒトカゲの事をアルトと呼んで、もうここから動けないと言ってその場に座り込んでしまうソラ。そんなソラを見て困った表情になるアルト。

「もうしょうがないなぁ……じゃあちょっと早いけど休憩にする?」

「休憩賛成っ!」

 アルトが休憩と言った瞬間それに即座に反応し、満面な笑みを浮かべながら立ち上がるソラ。

「んじゃオイラちょっと川で泳いでくるな!」

 そう言ってソラは先程とは違い素早くその場から走り出して近くに流れている川に向かっていった。
 そんなソラの後ろ姿をキョトンとした表情で見つめるアルト。

「え〜……1歩も動けないんじゃなかったの?」

 あっという間に姿が見えなくなってしまったソラにアルトは苦笑いする。

「はぁ……」

 ため息を吐きながらアルトは近くにあった木に寄りかかり、尻尾の炎が燃え移らないようにしながらゆっくりと座り込む。

「こんな調子で、兄さん達みたいな立派な救助隊になれるのかなぁ……」

 少し不安そうな表情を浮かべながら、アルトは空を見上げる。天気は雲1つ無い快晴、上空では鳥ポケモン達が気持ち良さそうに飛んでいた。

「鳥ポケモン達は良いなぁ空を飛べて……僕も早く進化して空を飛んでみたいなぁ」

「おーい!」

 空を飛ぶ鳥ポケモン達をアルトがうらやましそうに眺めていたら、川に向かった筈のソラが慌てた様子で戻ってきた。

「どうしたのそんなに慌てて……トサキントにでもつつかれたの?」

「いやそうじゃなくて! とにかくアルトも来てくれ!」

 細かい事情は話さずソラはアルトの手を掴んで無理矢理起こし、アルトを引っ張りながら走り出した。

「ちょっ、ちょっとホントどうしたの!?」

「いいから早く!」

 ソラに引っ張られながらしばらく走り続け、アルトは川辺までやってきた。

「ほら彼処!」

 ソラが川辺の近くを指差す。アルトはソラが指差す方へ視線を向ける。

「ん? えっ、あれって!?」

 アルトが見つめる先には、川辺で気を失って横向きになって倒れている1人のポケモンがいた。そのポケモンを見てアルトは驚きの声をあげる。

「だからお前を連れてきたんだよ。なっ、なぁどうしたら良いんだ?」

 1人では何をどうしたら良いのか分からなかったソラは簡単にアルトをここに連れてきた理由を説明し、そしてどうすれば良いのかアルトにたずねる。

「どうしたらってそんなの決まってるじゃないか! 行くよ!」

 アルトは迷うことなく倒れているポケモンに向かって走り出し、それに続いてソラも走って倒れているポケモンに駆け寄る。
 倒れているポケモンは体色が黄緑色で可愛らしい小さな尻尾を持ち、首回りには小さな緑色をした突起物がいくつかあり、頭には特徴的な大きな葉っぱが生えている――チコリータと呼ばれる種族のポケモンである。

「ねぇ君、大丈夫? しっかりして!」

 チコリータに近づき声をかけるアルト。ソラは心配そうにしながら2人を見つめる。

「……うっ、うーん……」

 アルトの呼びかけに反応してチコリータはゆっくりと目を開ける。

「ここは……?」

「はぁ、良かったぁ。君大丈夫? どっか痛いとことかない?」

 目を覚ましたチコリータはゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。そんなチコリータとアルトの目線が合い、アルトはチコリータの目を見つめながら体に痛みはないかと質問する。

「……えっ?」

 アルトに質問されたチコリータだが、何故か何も答えずアルトの事を見つめる。そんなチコリータの反応が不思議で、アルトとソラはなんで何も答えてくれないんだろうといった表情をしながら首をかしげる。

「なぁ、お前大丈夫か?」

 今度はソラがチコリータに話しかけた。

「……えっ? えっ?」

 普通に話しかけているだけなのだが、チコリータは何かに驚いているようでアルトとソラの顔を交互に見つめる。
 なかなか話が進まなくてアルトとソラは困った表情で互いを見つめる。

「えっと、何か僕達変な事を――」

「えぇーっ!?」

「うわぁっ!?」

 突然チコリータは大きな声を出し、アルトとソラはそれに驚いて尻餅をついてしまう。

「ヒっ、ヒトカゲと、ゼっ、ゼニガメが……ポケモンなのに言葉を喋ってる!?」

「……へっ?」

 どうやらチコリータはアルトとソラが喋った事に驚いていたようである。しかしアルトとソラは普通に喋りかけただけなのにこんなに驚かれるとは思っていなかったので2人共キョトンとした表情をしている。

「言葉を喋るって……そりゃ喋るさ。そんな事言ったらお前だってポケモンなのに言葉喋ってるぜチコリータ?」

「えっ? 私が……チコリータ?」

 ソラが言った言葉を聞き、チコリータは自分の姿を確認しだす。

「……えっ、えっ、えぇーっ!?」

 自分の前足と後ろ足、そして体と頭から垂れている葉っぱを見て本日2度目の叫び声を出すチコリータ。

「私、チコリータになってるの!? 嘘ぉっ!?」

「うっ、うん君はチコリータだよ?」

「チコリータになってるって……なんか違う姿をしていたみたいな言い方だな?」

 動揺しまくりなチコリータにアルトは苦笑いし、そしてチコリータの言い方が気になってソラは不思議そうな表情でチコリータを見つめる。

「そっ、そうよ私本当は人間なのよ! 人間で、私の名前は天城明日香って言うの!」

「……人間?」

「アマギ……なんたら?」

 チコリータは自分の事を人間で名前は天城明日香だとはっきりと答え、アルトとソラは困った表情をしながら首をかしげる。

「でもなんで私がポケモンに……あれ、ポケモンになる前私は何をしてたんだっけ……あれ、何も思い出せない、あーっ、もう何がどうなってるのよ!?」

「おい、アルト」

 自分が何故ポケモンになってしまったのかそれを思い出そうとするチコリータだったが、自分が人間だった事と名前以外の記憶を思い出せないらしく、チコリータは混乱してその場で慌てふためく。そんなチコリータを見てソラはアルトに肩を組んでひそひそ話を始めた。

「なぁ、あのチコリータなんか変だろ? いや絶対変だって」

「確かにポケモンなのに自分を人間だって言うのは変だし名前も聞いた事ないけど……でもあの子嘘を言ってるようにも見えないし……」

 チコリータを変な奴だと決めつけているソラにたいし、アルトはチコリータが嘘を言ってるようには見えないと少し悩んだ表情を浮かべる。

「うーん……あっ! きっとあれだよ! あのチコリータはどっかで頭をぶつけて記憶が変になっちまったのさ!」

「そう……なのかなぁ? いやでも――」

「そうさそうに違いない!」

 アルトの言葉を最後まで聞かないでチコリータが何処かで頭をぶつけて記憶が変になったと決めつけたソラは自信満々な表情をしている。そんな自信満々な表情をしたままソラはチコリータに近寄り、チコリータの左側の首にそっと右手で触れる。

「えっ、何?」

「心配すんな、そのうちよくなるって!」

 左手で拳を作り親指だけを上へ突き立て、満面な笑みを浮かべながら右目でウインクをするソラ。

(あ〜……このゼニガメ絶対に信じてないわ)

 満面な笑みを浮かべるソラにチコリータは困った表情を浮かべる。

「あっ、そうだ。ねぇ、えっとアマギ……」

「天城明日香よ……覚えにくかったらアスカでも良いけど」

「じゃあそうさせてもらうね。あっ、僕はアルトっていうんだ、そしてこっちがソラ。それでアスカ、君――」

「助けてください! 誰かーっ!」

 アルトが軽く自己紹介を済ませてからアスカに何か話そうとしたその時、何処からか慌てているような声が聞こえてきた。アルト達が声がする方に顔を向けると、体色は紫、赤く大きな複眼を持ち頭には触角が2本あって蝶々に似た姿をしている――バタフリーと呼ばれる種族のポケモンが飛んでくる姿が見えた。

「なんだなんだ?」

「おーい! 何かあったんですかー?」

 手を振りながらアルトは大きな声でバタフリーに声をかける。アルトの声に気づいたバタフリーはアルト達の所へ。

「はぁ、はぁ……た、大変なのよ、私の子供のキャタピーが洞穴に落ちちゃって……」

「えっ!?」

 バタフリーの子供が洞穴に落ちたという事を聞き、アルト達は驚きの声をあげる。

「突然地面が割れてその中に……まだ幼いから自分じゃ出られないのよ! 助けに行こうとしたらポケモンに襲われてしまうし……」

「えっ、ポケモンに襲われた!?」

 ポケモンに襲われたと聞きまた驚きの声をあげてしまうアルトとソラ。

「きっと自分のナワバリが荒らされたと思って怒ってるんだと思うんだけど、私の力じゃ弱くてとても子供を助け出す事が出来なくて……あぁ、早くしないとあの子が」

 子供の身の安全が気になりバタフリーは落ち着かずその場であたふたし始める。

「なら、早く広場に行って誰かに助けに行ってもらわねぇとな。オイラすぐに行って――」

「待ってソラ!」

 助けを呼ぼうとしてその場から離れようとしたソラを呼び止めるアルト。

「今から広場に行ったんじゃ時間が掛かりすぎる、僕達で助けに行こう!」

「はぁっ!?」

 真剣なまなざしでソラを見つめながらアルトは自分達で助けに行こうと力強く言った。そんなアルトの言葉を聞いてソラは驚きの声をあげる。

「いっ、いやアルト、オイラ達まだちゃんとした救助隊じゃねぇんだぞ?」

「でも救助隊になる為のトレーニングはずっとしてきた、今助けに行けるのは僕達しかいないんだ! バタフリーさん、その子供が落ちた場所は何処ですか?」

「えっ? あっ、あっちの方だけど……」

 アルトに聞かれたバタフリーは自分が飛んできた方を見つめる。

「あっちですね? 分かりました、行くよソラ!」

 場所を確認したアルトはそう言ってバタフリーが飛んできた方角に向かって走り出した。

「あっ、待てよアルト!?」

 走り出してしまったアルトを慌ててソラも追いかける。それに続いてアスカも走り出してあっという間にソラを追い抜いてアルトの横に追いつく。

「私も一緒に行くわ!」

「えっ、でも君は救助隊じゃ……」

「あのソラって子が言ってたけど、あなた達もまだその救助隊ってやつじゃないんでしょ? それに、目の前で困ってるポケモンがいるのに放っておく事なんか出来ないわよ」

 アスカはアルトに真剣な表情で自分も一緒に行くと言う。少しの間だけ考えるアルトだが、アスカの真剣な表情と「困ってるポケモンがいるのに放っておけない」という言葉を聞いてアルトは一緒に行く事を決めて頷いて応える。

「分かった、じゃあ一緒に行くよアスカ!」

「えぇ!」

 アルトとアスカはさらに走る速度をあげてバタフリーの子供であるキャタピーを助けに向かう。

「まっ、待ってくれよーっ!?」

 走るのが苦手なソラは遅れながらも必死にアルトとアスカを追いかけていった。
 そしてしばらく走り続け、アルト達は地面に出来た地割れがある場所までやってきた。アルト達が立っている場所からでは全体を把握する事が出来ないほど大きな地割れが何処までも続いていた。

「ここだね」

「はぁ……はぁ……なっ、なぁ、本当に行くのか?」

 走ってきたせいですでにヘトヘトになっているソラ。息を乱しながら、そして不安そうな表情をしながらアルトとアスカに本当に行くのかとたずねる。

「当然だよ、助けを待っているポケモンがいるんだから。さぁ、行くよ!」

 ソラの質問に即答し、アルトは迷うことなく洞穴の中に飛び込んでいった。

「私達も行くわよ!」

 アルトに続き、アスカも洞穴の中に飛び込んでいく。

「ちょっ!? あーっ、もうしゃあねぇなぁっ!」

 アルトとアスカを追いかける形でソラも洞穴の中に飛び込んだ。中は広い空洞になっており、天井に開いた地割れから差し込む太陽の光により空洞内は明るくなっている。

「森の地下にこんな空洞があったなんて……よくトレーニングで森の中を走ってたけど、こんな所があるなんて知らなかったなぁ」

 先に中に入っていたアルトは地下に空洞があった事に驚きながら中を見回している。

「やけに静かね……バタフリーが言っていた子供のキャタピーと襲ってきたポケモンは近くにいない?」

 アルトの横に並び立ち、彼と一緒に空洞の中を見回してキャタピーを捜すアスカだがキャタピーの姿は見えなかった。

「襲ってきたポケモンから逃げる為に奥へ行っちゃったのかもしれないね」

「そうね……ん?」

 アルトと話してる時、アスカはあるものを見つける。空洞内の至るところに張り巡らされている白い糸である。
 アスカは白い糸に近づき、右前足で糸に触れてみる。粘着力が高いようで糸はアスカの右前足にくっついた。

「これは……ここをナワバリにしているポケモンが出した糸かしら? それに長い事ここに住んでるのかしら、糸に木葉や木の枝がたくさんついて……」

「アスカ、早く奥へ進もう。こうしてる間にもキャタピーが危険な目にあってるかもしれない」

「あっ、うん」

 アスカは右前足にくっついた糸を地面に擦り付けて剥がし、アルトと一緒に奥へ向かおうとした。

「お〜い……誰か起こしてくれ〜……」

 しかしその時、アルトとアスカの背後から助けを求める情けない声が聞こえてきた。2人が振り向くと、着地に失敗したのか甲羅を背に地面にひっくり返ってジタバタもがいているソラの姿を見つける。

「もうソラったら……」

 これから救助活動するという時に情けない姿をしているソラを見て、アルトは右手を顔に当てて呆れたような声を出す。

「しょうがないわね、ほら掴まって」

 アスカがそう言ったあと、首回りにある緑色をした突起物の1つがまるで植物のつるみたいに伸びる。アスカから伸ばされたつるをソラは掴もうとする。

「えっ!? なんか出た!?」

「ちょっ!?」

 自分の首から伸ばされたつるに驚いて後ずさりしてしまったアスカ。アスカが後ずさりしてしまった事でソラはつるを掴み損ねてしまう。

「それつるのムチだね。草タイプのポケモンが使える技なんだけど……」

「これがつるのムチ……まるで自分の手みたいに動かせるし感覚もある。私本当にポケモンになっちゃったのね」

 アルトの説明を聞き、アスカは自分が出したつるを見つめ改めて自分がポケモンになった事を再確認する。

「お〜い……早くオイラを起こしてくれよ」

「あっ、ごめんごめん」

 アスカは再びつるを伸ばしてソラの手に巻き付けて彼を起こしてあげた。

「それじゃ急ぐ――」

「また俺のナワバリに勝手に……ふざけんなよてめぇら……」

 ソラが起き上がったのを確認しアルトが先に進もうとしたその時、何処からか怒りの感情がこもった声が聞こえてきた。
 その声を聞いてアルトとアスカはすぐに戦闘体勢に入って周囲を見回して声の主を捜す。一方ソラは正体が分からない相手が怖いのかアルトとアスカの後ろに隠れ、身体をブルブルと震わせながら周囲を見回している。

「あっ、いたわよ!」

 アスカが声の主であるポケモンを見つけ、そのポケモンを見つめたまま大きな声でアルトとソラに伝える。アスカが見つめている先へアルトとソラも視線を向け、1人のポケモンの姿を確認する。
 クモに似た姿をしており、体色は明るめの赤紫。頭部に1本の角を持ち、尻には針が生えている。脚は黄色と紫の縞模様となっている――アリアドスと呼ばれる種族のポケモンが空洞内に張り巡らされた糸をつたって、壁をまるで地面を歩いているかのように進みながらアスカ達にゆっくりと近づいてきていた。

「ここは静かで良い場所だったのに天井にデカイ穴を作りやがって……てめぇら、さっきのガキの仲間だな? ガキには逃げられたがてめぇら全員ただじゃおかねぇぞ」

 天井に出来た地割れをアスカ達がやったと思い込んでいるアリアドスは険しい表情をしながら怒り口調でアスカ達に近づいていく。

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! これはオイラ達がやった訳じゃ――」

「言い訳なんざ聞きたくねぇ、覚悟しな!」

 怒りで冷静さを失っているアリアドスは話を聞かず、ソラ達に向かって飛びかかった。

「危ない! 皆離れて!」

 アルトの大きな声と共に3人はバラバラに離れてアリアドスから逃げる。アルト達が離れたあと、彼らが立っていた地面にアリアドスは着地する。

「やるしかないみたいだね、いくよ皆!」

「こうなりゃもうやけくそだっ! 水鉄砲!」

 アリアドスからある程度離れた時、怖がっていたソラは開き直ってその場に立ち止まってすぐに振り返り、口から勢いよく水を吐き出してアリアドスの顔に向けて放つ。

「んな攻撃当たらねぇよ!」

 アリアドスは素早く壁に向かってジャンプする事でソラが放った水鉄砲を回避、水鉄砲はアリアドスを通過して壁にぶつかる。

「毒針!」

 水鉄砲を回避したアリアドスは反撃で、口から紫色をした無数の小さな針を吐き出してソラに向けて放った。

「わわっ!?」

 とっさにソラは頭や尻尾、手足を甲羅の中に収納して身を隠す。アリアドスが放った毒針は全てソラの硬い甲羅によって弾かれてしまった。

「つるのムチ!」

 壁に張り付いているアリアドスに向かってアスカは先程使ったつるのムチを勢いよく2本伸ばして叩きつけようとする。

「当たらねぇよ!」

 アリアドスは再び素早くジャンプしてアスカが放った攻撃を回避し、反対側の壁に張り付いた。

「これでもくらいな!」

 アリアドスは次に口から糸を吐き出してソラの体に巻き付ける。そして口から吐き出した糸を切らないようにしながら、ソラを引きつけてそのまま円を描くようにぶんぶん振り回し始めた。

「おらおら!」

「めっ、目が回るーっ!?」

 アリアドスによる糸を巻き付けて振り回される攻撃によりソラは目を回してしまう。

「ソラを放せ!」

 振り回されているソラを助ける為にアルトがアリアドスに向かって走っていく。

「だったらお望み通り放してやる、おらよっ!」

 アルトがこっちに向かってくるのを確認したアリアドスは振り回している途中で糸を切り、ソラをアルトに向けて勢いよく放り投げた。

「うわっ!?」

 勢いよく放り投げられたソラにアルトはぶつかり、そのまま後方へソラと一緒に吹き飛ばされてしまい背中から地面に倒れてしまう。

「痛ぅ……ソ、ソラ大丈夫?」

「うぅ……世界がグルグル回ってるぞぉ……」

 ダメージを受けているアルトだが自分よりもソラの事が気になり声をかける。声をかけられたソラは目が回っていてすぐに動く事が出来ず、アルトのお腹の上に乗ったままぐったりしている。

「こいつでトドメだ! 毒突き!」

 倒れているアルトとソラに向かってジャンプし、頭部にある角にエネルギーを集めて紫色に光輝かせ、それでアルト達を刺そうとするアリアドス。

「させないわよ!」

「ぐはっ!?」

 アルト達に飛びかかったアリアドスの横っ腹にアスカが全体重をかけた渾身の体当たりを決めた。
 アスカの体当たりを受けたアリアドスは吹き飛ばされて壁に激突する。

「2人共大丈夫?」

「う、うん。助かったよアスカ」

「まだ世界がグルグル回ってるけど、なんとか大丈夫……」

 ダメージが小さかったアルトはすぐに立ち上がるが、まだ目が回ってるソラはフラフラな状態である。

「くそっ……よくもやりやがったなてめぇ……」

 アスカの体当たりを受けて吹き飛ばされ壁に激突したアリアドスだがすぐに起き上がり、怒りの表情を浮かべながらアスカを睨んでいる。

「こうなったら僕の火の粉で一気にダメージを――」

「ちょっと待って!」

 アルトの口から炎が溢れて今まさに吐き出されようとした時、アスカがアルトの前に立ってそれを妨害した。

「なんで邪魔するのアスカ、虫タイプのアリアドスには僕の炎技はよく効くんだよ?」

「落ち着いてアルト、よく見て。糸に木葉や木の枝がたくさんついてるでしょ? もしあなたが使った炎技がアリアドスに避けられたら糸についてるそれが燃えてここは一気に火の海になっちゃうわ、確実に当たる時に使わないと」

 アスカに言われ辺りを見回し、確かに木葉や木の枝がたくさん糸にくっついている事を確認したアルト。冷静に回りを見ていたアスカの言葉を聞き、納得したアルトは放とうとしていた炎技を使う事をやめる。

「なるほど……分かったよ、だけどどうやって確実に僕の火の粉を当てる?」

「任せて、私に考えがあるの。ちょっとこっち来て」

 アルトの質問に、アスカは自信があるようで笑みを浮かべて任せてくれと答えた。そしてアスカはアルトとソラに小声で自分の考えを話す。

「何をごちゃごちゃ話してやがんだ、まとめて始末してやるぜ! 毒針!」

 アリアドスはアスカ達に向かって再び毒針を放って攻撃する。

「またきたっ!? 避けて皆!」

 アルトは右方向へ走り、そしてアスカはまだ目を回してフラフラしているソラにつるのムチを巻き付けて一緒に左方向へ無理矢理走らせて毒針を回避した。

「それじゃ作戦通りお願いねアルト!」

「任せて!」

 アスカの言葉に頼もしく答えたアルトは真っ直ぐアリアドスに向かって突っ込んでいく。

「ひっかくだ!」

 右手の鋭い爪でアリアドスを攻撃しようと目の前まできたアルトは右手を振り上げてから勢いよく降り下ろす。

「くらうか!」

 これをアリアドスは左方向へ軽くステップする事で回避、アルトの攻撃は空を切る。

「まだまだぁっ!」

 攻撃を回避されてもアルトは諦めず、今度は両手を使って連続攻撃を仕掛ける。
 左右から連続で繰り出されるアルトのひっかく攻撃だが、これをアリアドスは軽くバックステップする事であっさり回避してしまう。

「今度はこっちの番だ、毒突き――」

「煙幕!」

 アリアドスが毒突きで反撃しようとした瞬間、アルトは口から黒い煙を吐き出してアリアドスを包み込んでしまった。

「ちぃっ、小賢しい真似しやがって!?」

 アルトが吐いた煙幕で何も見えなくなってしまったアリアドスは煙幕から抜け出そうと急いで後方へジャンプする。
 アリアドスは煙幕から抜け出す事に成功するが、背後には壁があってこれ以上後ろへ下がる事が出来なくなってしまう。

「今よ!」

 アスカは大きな声を出して合図する、そしてその合図でアルトはアリアドスの左側、アスカは右側へ移動して逃げ道を無くす。

「ソラ!」

「待ってたぜ! さっきの仕返しだ、水鉄砲!」

 アルトが攻撃を仕掛けてる間に回復したソラがアスカの合図で正面からアリアドスに向けて水鉄砲を放った。

「それで俺を追い詰めたつもりか? だったら考えが甘いぜ!」

 後ろへ下がる事も左右へ逃げる事も出来なくなったアリアドスだが、上に向かって高くジャンプする事でソラが放った水鉄砲を回避してしまった。

「この時を待っていたのよ! つるのムチ!」

 ジャンプしたアリアドスに向かってアスカはすかさずつるのムチを2本勢いよく伸ばし、アリアドスの胴体にしっかりと巻き付けた。

「なにっ!?」

「さあ2人共! やるわよ!」

「うん!」

「おっしゃ、やってやるぜ!」

 アルトとソラがアスカのつるのムチを掴み、3人力を合わせてつるのムチを巻き付けたアリアドスを壁から離れながら円を描くように勢いよくぶんぶん振り回し始めた。

「目っ、目が回るっ、やめろぉっ!?」

 先程ソラにやっと事を自分もされて、目を回し始めるアリアドス。

「そろそろ仕上げいくわよ2人共! せぇーのぉーっ!」

 アスカのかけ声と共に3人はアリアドスを穴が空いた天井に向かって放り投げた。

「アルト!」

「分かった、火の粉!」

 アスカの合図で空中へ放り投げられたアリアドスに向かって、アルトは口から小さな炎をたくさん吐き出した。吐き出された炎は全てアリアドスに直撃する。

「がはっ!?」

 アルトが放った火の粉を全て直撃され大きなダメージを受けたアリアドスはそのまま地面へ落下、頭から地面にぶつかってしまった。それが決め手となり、アリアドスは気絶して仰向けになって倒れてしまう。

「やった、僕達の勝ちだ!」

「おっしゃぁーっ!」

 バトルに勝つ事が出来て、アルトとソラは嬉しそうに満面な笑みを浮かべながらガッツポーズをする。そんな2人を見てアスカも嬉しくなって笑みを浮かべる。

「まっ、オイラが本気出したらざっとこんなもんよ」

「なぁに言ってるのさ、途中目を回してフラフラだったくせに」

「それにバトルが始まる前は怖がってたのにねぇ」

 アリアドスを倒した事で調子に乗ったソラは腕組みして胸を張りながら自慢気にしている、そんなソラをアルトとアスカは呆れた表情をしながら冷静にツッコミをいれる。

「アルト、ソラっていつもこんな感じ?」

「うん、まぁ……お調子者さんだからね」

 アスカにソラの事を聞かれ、アルトは苦笑いしながら答える。

「ちぇっ、なんだよなんだよお前ら2人して俺の事を……ん?」

 アルトとアスカの会話を聞いていたソラはいじけて膨れっ面になる。しかしその時、ソラは少し離れた場所で何か動く物を発見する。

「なんだ?」

 気になったソラはアルトとアスカから離れて動く物がある場所に向かっていく。

「あっ、そうだ。アスカ、君がいなかったら僕達だけじゃこうはいかなかったよ。協力してくれてありがとう」

「えっ? いやっ、別にいいわよお礼なんて……私はただ困ってるポケモンが目の前にいるのに何もしないでいるなんて事が出来なかっただけだし……」

 笑みを浮かべながら協力してくれたアスカにお礼を言うアルト。一方アスカは急にお礼を言われて照れているのか少し顔を赤くしている。赤くなった顔をアルトに見られたくないのかアスカはアルトから顔をそらす。

「そっ、それより早くキャタピーを捜さないと。お母さんのバタフリーが心配してる筈よ」

「そのキャタピーなら見つけたぞ」

 アスカがキャタピーを捜そうと言った時、何処かに行っていたソラが戻ってきた。頭に1人の小さなポケモンを乗せて。
 体色は緑色、クリっとした大きくて丸い目、頭には枝分かれした角があり、幼虫のような姿をしている――キャタピーと呼ばれる種族のポケモンである。

「その子が?」

「おう、ずっと岩陰に隠れながら俺達のバトル見てたんだってよ」

「お兄ちゃん達かっこよかったです、あの怖いポケモンを倒しちゃうなんて凄いです!」

 ソラの頭に乗っているキャタピーは目をキラキラとさせてアルト達を見つめている。

「はは、ありがとう。さあ、お母さんが心配してたよ? 僕達と一緒に帰ろ」

「はいです!」

 優しい笑みを浮かべながら一緒に帰ろうというアルトの言葉にキャタピーは元気よく返事した。

「んでよ、帰るのはオイラ大賛成なんだけども……こっからどうやって抜けるんだ?」

「……あっ」

 ソラがこの洞穴から抜け出す方法をアルトにたずねるが、抜け出す方法を何も考えていなかったようでアルトは思わず声をもらす。

「何も考えてなかったんかいっ!?」

「いやぁ、早くキャタピーを助けなきゃって事しか考えてなかった……あはっ、あはは……ごめん」

 アルトは笑ってごまこそうとしたがすぐに申し訳なさそうにしながら頭を下げてソラに謝る。

「えっと……さっきの感じだとまだいけそうな気がするから……ちょっと失礼」

「うわっ!?」

 何かを試そうとしているアスカは頭にキャタピーが乗ったままなソラの体につるのムチを巻き付けてひょいっと持ち上げる。急に持ち上げられてソラは思わず驚きの声をあげてしまう。

「うん、次はアルト」

 ソラを地面へ降ろしてから次にアルトを持ち上げるアスカ。

「えっと……アスカ、何してるの?」

「……うん、これくらいなら全然余裕ね。あとは私のつるのムチが何処まで伸ばせるかだけど……」

 アルトの質問に答えず、アスカは次に天井に空いた穴に向けてつるのムチを伸ばす。伸ばされたつるのムチは軽々と天井に空いた穴を通り過ぎ、地上にある木まで届いた。

「結構伸びるもんね。よし、その子を私の背中に乗せて」

「えっ? おっ、おう」

 アスカに言われて頭に乗せていたキャタピーを彼女の背中に乗せるソラ。それからアスカは1本のつるのムチをアルトとソラの体に巻き付け、もう1本は地上にある木に巻き付けた。

「じゃっ、行くわよ。落ちないように掴まっててよ」

「行くって何処――うわぁっ!?」

 ソラが喋りきる前に、アスカはつるのムチを体に収納する力を利用し、まるで誰かに引っ張りあげられるようにどんどん地上に向かって上っていく。背中にはキャタピー、もう1本のつるのムチでアルトとソラを掴んでいるにもかかわらず上るスピードは落ちる事なく、あっという間にアスカは皆を連れて地上に戻ってきた。

「はい到着っと」

「お姉ちゃん凄いです!」

 自分を背中に乗せて、さらにアルトやソラも一緒に地上まで運んだアスカの事を目をキラキラさせながら見つめるキャタピー。そんなキャタピーに見つめられて照れてしまったようでアスカは少し顔を赤くさせて照れ笑いをする。

「坊やーっ!」

 その時、遠くからキャタピーを呼ぶ声が聞こえてきた。声がする方に視線を向けると、キャタピーの母親であるバタフリーがこちらに向かって飛んでくる姿をアスカ達は確認する。

「あっ、お母さん!」

「あぁ、良かった……本当に良かった」

 キャタピーの前までやってきたバタフリーは涙を流しながらキャタピーを優しく抱きしめる。そんなバタフリー達を見てアスカ達は笑みを浮かべる。

「本当にありがとうございました、私の子供を助けてくれて……感謝してもしきれません」

 キャタピーを助けてくれたアスカ達に向かって、バタフリーは深々と頭を下げてお礼を言う。

「今手持ちには何も無いのですが、次お会いする時に何か贈り物をさせてください」

「えっ、いやそんな、僕らは当然の事をしただけですから……」

「僕もお兄ちゃん達に贈り物したいです」

 バタフリーに贈り物をしたいと言われ、アルトは断ろうとしたがキャタピーに笑みを浮かべながら贈り物がしたいと言われてしまい断りにくい状況になってアルトは苦笑いする。

「では、私達はこれで……今日は本当にありがとうございました」

「お兄ちゃん達、ありがとうです」

 最後にバタフリーとキャタピー、笑みを浮かべながらアルト達に感謝の言葉を言い2人はその場から去っていった。

「行っちまった……いやぁ、なんとか無事に終わったけど、すげー疲れたぁ。俺達も帰ろうぜ?」

 キャタピーの救助を無事に終えられた事でほっとしたのか、ソラはその場に座り込む。そしてソラは座ったまま、アルトに帰ろうと提案する。

「そうだね……あっ、そういえばアスカ。さっき言い損ねた事なんだけど、君は何処か行く場所あるの?」

「行く場所? いえ、私ここの事全く知らないから行く場所なんて無いけど……」

「だったら、僕達についてきて。良い場所があるんだ」

「良い場所?」

 アルトに良い場所があると言われ、どんな場所なのか想像出来ないアスカは首をかしげる。

「来たら分かるよ、行こう?」

「えっ、えぇ」

「ほらソラも行くよ」

「あいよ」

 座り込んでいたソラを立たせ、アルトはアスカを連れてとある場所に向かって歩き始めた。 森を抜け川沿いにしばらく歩き続けて、アルト達は木で作られた川をまたぐ橋がある場所までやってきた。
 その頃にはもう太陽は沈みかけ、青かった空もオレンジ色に染まっていた。

「ほら、ここだよアスカ」

 アルトは橋の近くにある木造の小さな家を指差した。その家は木で出来た柵で囲まれ、木で作られた手紙などを入れる郵便ポストがあり、小さな中庭には綺麗な花が咲いていた。

「うわぁ……」

 そんな家を見てアスカは感動したのか目を輝かせている。

「あっ、気に入ってくれたみたいだね? 兄さんから聞いた話だと、大工をしてるってポケモンが草タイプのポケモンが快適に暮らせるようにって建てた家らしいんだけど、まだ誰も住んでないんだよね……もし良かったらアスカ、ここに住まない?」

 突然アルトにこの家に住まないかと聞かれ、アスカは驚きの表情を浮かべる。

「えっ、勝手に住んでも良いの?」

「本当は手続きとか色々あるんだけど大丈夫、兄さんに頼めば問題解決さ」

「アルトの兄ちゃんはすっげー有名人だからな、心配ねぇさ」

 家に住むには本来手続きなどが必要であると言いつつ、アルトの兄に任せれば問題ないと2人は笑顔で答える。
 住む本人が手続きしなくて本当に大丈夫なのかと心の中で思いながらアスカは苦笑いする。

「そっ、そうなんだ……じゃあ、他に行く場所も無いし住ませてもらおうかな。ありがと、アルト」

 しかし他に行く場所もない為、アルトの提案を受け入れる事にしたアスカは笑顔でお礼を言う。

「んじゃ、今日はもう疲れたからオイラは先に帰るわ。じゃあな2人共」

 ソラはアルトとアスカに疲れたからと言ってさっさとその場から去ってしまった。

「もう行っちゃったわねあの子」

「あはは……ソラはマイペースだからね。あっ、そうだ。これはお願いなんだけど……アスカ、僕達と一緒にポケモン救助隊になってくれないかな?」

 マイペースなソラと別れたあと、アルトはアスカに救助隊にならないかとお願いをした。

「えっ、私が救助隊に?」

「今回の救助、アスカは回りの状況を冷静に見る事が出来てたしバトルの時もすぐに作戦を考えてくれた……僕とソラだけじゃあんなに上手く出来なかったよ。僕とソラとアスカ……この3人ならどんな難しい救助もきっと上手くやれる、そう思ったんだ。だからどうかな、救助隊になってくれないかな?」

 アスカを救助隊に誘おうと思った理由を話し、アルトはお願いをする。アスカはすぐには答えずしばらく考える。

「救助隊になればたくさんのポケモン達から依頼を受ける事になるし、もしかしたらアスカが人間からポケモンになった理由とかの情報も手に入るかもしれないよ?」

 お願いと言いつつ、どうしてもアスカを救助隊に入れたいと考えているアルトは救助隊になれば何か情報が手に入るかもしれないと話す。

「……分かったわ、私を救助隊に入れて」

 しばらくしてアスカは決心してアルトに救助隊に入れてくれと言う。救助隊に入ってくれると分かってアルトは満面な笑みを浮かべた。

「本当に!?」

「情報を探すにしても手がかりが何も無いしね。それに、困ってるポケモンを助けるなんて素敵な仕事じゃない? 喜んでやらせてもらうわよ」

 笑みを浮かべながら喜んで救助隊をやるというアスカの言葉を聞き、アルトは嬉しそうにガッツポーズをする。

「じゃあ早速救助隊になる申請出してくるね、今のうちに申請しとけば明日には救助隊に必要な道具が届くと思うから! それじゃアスカ、また明日ね!」

 アルトは満面な笑みを浮かべながらアスカに別れを言い、救助隊になる申請を出す為にその場から走り去っていった。

「ふふ、あんなに嬉しそうにしちゃって……私も疲れたし、そろそろ休もうかな」

 走り去っていくアルトを見送り、アスカは扉を開けて家の中へ入っていった。家の中は誰も住んでいないにもかかわらず毎日掃除されているかのように綺麗な状態で保たれており、四角い形をした窓が扉の近くに1つと左右の壁に2つ、合計3つ窓があり外の景色がよく見えるようになっていた。そして壁際には物を置ける大きめな棚、奥には大量の草が敷き詰められたベッド、家の中心にはテーブルと椅子があり全て木製で出来ていた。

「へぇ〜、結構良い感じね……あら? 何かしらこれ?」

 アスカが見つめる先にあるのは壁に取り付けられた四角い形をした透明な水晶があった。

「綺麗ね……あっ、天井にもある」

 家の天井付近にも少し大きめではあるが壁に取り付けられた水晶と同じ物が取り付けられていた事に気づき、壁と天井両方に取り付けられた水晶を交互に見るアスカ。

「これってただの装飾かしら? でも何か意味ありげな感じよね……」

 そう言いながらアスカはつるのムチを1本首から伸ばして壁に取り付けられた水晶にそっと触れてみる。すると壁に取り付けられた水晶は光を放ち、それと連動して天井に取り付けられた水晶も光を放って家の中を明るく照らし出した。

「わぁ、これ凄い! 電気が通ってる訳でもないのに明るくなるなんて……どういう仕掛けなのかしら?」

 アスカはもう1度水晶に触れる、すると今度は光が消えて家の中は暗くなった。

「面白いわねこれ、仕掛けが気になるけど……ふぁ〜……」

 キャタピーの救助で疲れてしまったようでアスカは大きなあくびをする。

「ダメ、眠いわ……また明日アルトに聞けば良いか。よっと」

 アスカは草が敷き詰められたベッドに飛び込んだ。アスカはベッドの上で寝転がり、寝心地を確認する。

「うーん……草の良い香り、寝心地も良い感じだわぁ……これもチコリータになったから感じる事なのかしら……」

 草のベッドが気に入ったらしく、アスカは幸せそうな表情を浮かべる。

「……私、本当なんでポケモンになっちゃったんだろ……アルトが言ってたように救助隊をやってれば何か分かるのかな……」

 幸せそうな表情だったアスカだが、これから先の事を考えたらやはり心配になってきたのか不安そうな表情を浮かべる。

「……何か分かると……良いなぁ……」

 草の良い香りと寝心地が良い事で一気に眠気に襲われたアスカのまぶたがだんだんと閉じていく。

「……すー……すー……」

 それからほどなくして完全にまぶたを閉じ、アスカは眠りについた。
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バクフーン ( 2016/06/22(水) 04:14 )