第3話 ライバル
「先手必勝、電光石火からのフレアドライブ!」
バトルが始まると同時にバクフーンは素早い身の熟しで一気にカイリューに近づき、体全体を強力な炎で包み込んで突進する。
しかしカイリューは和やかな表情を変えないまま、空へ急上昇してあっさりと回避する。
「にゃろ、火炎放射!」
勢いを付けて突っ込んだ為に急には止まれないバクフーンは地面を滑りながら振り向き、口から炎を吐き出して空中にいるカイリューに向かって放つ。
「水の波導」
カイリューは両手にエネルギーを集めて水色をしたエネルギー弾を作り出し、両手を勢いよく前に突き出す事でそのエネルギー弾を火炎放射に向けて放つ。
カイリューが放った技の方がパワーが上なようで、火炎放射をどんどん押し返していきながらバクフーンに向かっていく。
「くっ!」
バクフーンは火炎放射を中断し、すぐに電光石火を使ってその場から移動する。
バクフーンが立っていた地面に水の波導が直撃して大きな水柱があがった。
「ドラゴンクロー」
「のわっ!?」
いつの間にかカイリューはバクフーンの前にまで急降下していて、右手に生えている鋭い爪でバクフーンを攻撃する。
すぐにこれに反応したバクフーンはとっさに体を反らし、そのままの体勢で地面を滑る事でドラゴンクローを回避する。
(今のを避けるんなんて……なかなかやるね)
絶対当たると思っていたドラゴンクローを回避された事に、表情は和やかなまま変わっていないが内心驚いているカイリュー。
一方バクフーンはドラゴンクローを回避した後すぐに体勢を立て直し、カイリューに向かって突っ込んでいく。
「今度こそ当ててやるぜ、フレアドライブ!」
「冷凍ビーム」
向かってくるバクフーンの足下に向けて、カイリューは口から超低温のビームを吐き出して放つ。
放たれた冷凍ビームはバクフーンの足下にある地面を凍らせる。
「うわっ!?」
凍った地面に足を滑らせてしまいバクフーンはその場で転けてしまう。
すかさずカイリューは転んで動きが止まったバクフーンに再び冷凍ビームを放ち、バクフーンの腹部に直撃させる。
冷たい冷凍ビームが直撃した場所から氷が発生し、あっという間にバクフーンは氷漬けになってしまった。
「……フレアドライブ!」
しかしバクフーンはフレアドライブを使う事で一瞬で氷を溶かして脱出する。
「うぅっ、冷たかったぜ……」
実は寒いのが苦手だったりするバクフーン。
氷漬けにされた時の冷たさが忘れられないのか体をブルブルと震わせている。
「ふふっ、炎タイプなのに寒いのが苦手なんだね。面白いなぁ君」
炎タイプなのに寒さで体を震わせているバクフーンを見て思わず笑ってしまうカイリュー。
「しょ、しょうがねぇだろ寒いのは嫌いなんだからよ! そ、それよりバトルの続きだ続き!」
笑われて顔を赤面させながら、バクフーンは身構えてバトルの続きをやろうとする。
「笑っちゃってごめんね。さぁ、続けようか」
「いくぜフレアドライブ!」
バトルを再開させたと同時にバクフーンは再びフレアドライブでカイリューに向かって突っ込んでいく。
カイリューはまた空へ急上昇する事でこれを回避した。
フレアドライブを回避されたバクフーンだが、何故か笑みを浮かべる。
「そうくると思ってたぜ、噴火!」
バクフーンは背中から強力な炎を勢いよく大量に放出させる。
技名通り火山が噴火したが如く大量の炎がカイリューに向かっていく。
「これは避けきれないかな……なら竜巻」
カイリューは翼を力強く羽ばたかせて突風を作り出し、そこから竜巻を発生させてバクフーンが放った噴火を弾いてしまった。
「なっ!? うわっ!」
噴火を弾かれた事に驚いていたバクフーンに竜巻が直撃し、彼の体を空高く舞い上がらせる。
そして竜巻から弾き出されたバクフーンは背中から地面に落下する。
「ドラゴンテール」
地面に落下したバクフーンに向かってすかさず急降下していくカイリュー。
そしてその長く太い尻尾をバクフーンに叩きつけようとする。
(や、やられる!?)
この攻撃は避けられないとすぐに分かったバクフーンは思わず目を閉じてしまう。
(勝負ありだね)
ドラゴンテールがバクフーンの顔に当たる寸前でカイリューは攻撃を止めた。
攻撃を止めた事で発生した風がバクフーンの顔に当たる。
ゆっくりと目を開け、目の前にカイリューの尻尾がある事を確認してカイリューが攻撃を中断した事をバクフーンは理解した。
「この勝負、僕の勝ちだね」
バクフーンの顔から尻尾をどかし、右手を差し出すカイリュー。
バクフーンはその手を掴み、カイリューに引っ張ってもらって起き上がる。
「はぁ〜、全然俺の攻撃が決まんなかったぁ〜……カイリューって言ったよな? マジで強ぇよあんた」
「君も結構強かったよ。でも攻撃がちょっと直線的だったかな? それじゃ僕に勝つのはまだ早いよ」
「くぅ〜、なんかすっげー悔しいっ!」
両手で握り拳を作り地団駄を踏んで悔しがるバクフーン。
「それじゃそろそろ僕は行くよ。明日のジム戦頑張ってね」
笑みを浮かべながらジム戦を応援すると、カイリューはその場から離れていく。
「カイリュー! 次に会った時は絶対俺が勝つからなぁ!」
去っていくカイリューに向かって大きな声でリベンジ宣言するバクフーン。
カイリューは歩きながら右手を軽く振り、「楽しみに待ってるよ」とだけ言って去っていった。
「行っちゃったか……マジで強かったなあのカイリュー」
バトルが終わり、バクフーンに歩み寄ったリザードンはカイリューの強さに改めて驚いている。
「でもあのカイリュー、本気出してなかったみたいだね」
「うおっ!?」
ラグラージがバクフーンとリザードンの間に現れた事に2人は一緒になって驚いてしまった。
「おまっ、いつからそこいた!?」
「……リザードンと一緒に歩いてきたからここにいるんじゃないか」
2人に驚かれてラグラージは不機嫌そうにムスッとしてしまう。
「悪ぃラグラージ……にしても、手加減されたあげくに負けたとなったらますます悔しいなぁちきしょう! 次会ったら絶対勝つ!」
手加減された事を知り、バクフーンは改めてカイリューにリベンジする事を心に誓う。
「カイリューにリベンジするのは良いけどよ、その前に明日のジム戦だろ? 今日はゆっくり休んでジム戦に備えねぇと」
「あっ、そうだったそうだった」
リザードンに言われジム戦の事を思い出したバクフーンは両手をポンと叩く。
「休むんだったら僕の家に来る? すぐそこだし」
「マジで? んじゃ行っちゃうぜ」
ラグラージの提案で、バクフーンとリザードンは彼の家に泊めてもらう事にした。
そして歩く事数分、彼らはラグラージの家にやってきた。
「……これ、家?」
「家というよりこの広さとデカさじゃまるでホテルだろ……」
ラグラージの家を見て、驚きのあまり開いた口が塞がらなくなっているバクフーンとリザードン。
ラグラージの家は高級ホテル並に大きくて広い敷地がある立派な建物だったからだ。
「そういやお前んとこ金持ちだったんだっけ?」
バクフーンの言った事にラグラージは頷く。
「僕の父さん、今までポケギアとかポケッチとかヒット商品を作り出してきたからね。その結果こうなったって事……さぁ、行くよ」
ラグラージが先に家の中へと入っていき、追い掛けるようにバクフーン達も中へ入っていく。
「お帰りなさいラグラージ……あら、お友達?」
家に入ると1人のメイド服を着たポケモンがラグラージ達を出迎えてくれた。
白を貴重とした体色、細い手足に胸には赤い突起があり、白いロングドレスを着た女性のような姿をしている――サーナイトと呼ばれる種族のポケモンだ。
彼女はこの家でメイドとして働いているのだ。
ちなみにラグラージに対して敬語を使わないのは彼からの頼みで、友達みたいに話してほしいと言われたからである。
「ただいまサーナイト、この2人は幼なじみのバクフーンとリザードンだよ。今日は家に泊める事にしたんだよ」
「そうなんだ。いらっしゃい2人共、空いてる部屋ならいっぱいあるから好きに使ってね。それじゃ、私はまだいろいろとやらなきゃならない事があるからまたね」
そう言ってサーナイトは家の奥へと向かっていった。
「メイドまでいるのか……俺メイド見たの初めてだ」
「俺も……」
バクフーンとリザードンはメイドを見たのは初めてなようで、しばらくサーナイトの後ろ姿を見つめていた。
「ほら、いつまでサーナイトに見とれてんの? 部屋は2階だからついてきて」
「お、おう」
ラグラージに連れられて、バクフーンとリザードンは2階へ。
2階にはいくつもの部屋へと繋がる扉が廊下にずらっと並んでいた。
「好きな部屋使って良いからね」
「好きなって……まさかこのフロア全部か!?」
リザードンの問いにラグラージは表情を変えないまま頷いて応える。
「僕の部屋は3階だから。じゃ、また明日」
ラグラージはバクフーン達と別れ、自分の部屋へと向かっていった。
「……金持ちはレベル違うなぁ……とりあえず、俺はあの部屋使わせてもらうか」
リザードンは目の前にあった部屋を利用する事に決めた。
そして扉を開けようとした時、何故かバクフーンも一緒についてきた。
「……何してんだ?」
「一緒に寝ようぜっ!」
「子供かっ!」
にっこり笑みを浮かべながら言うバクフーンにすかさずツッコミを入れるリザードン。
「だってよぉ〜、部屋に1人だけとか寂しいじゃんか〜。それにこういう所に来たらあれやりたいじゃんか」
「あれってなんだよ?」
「枕投げ!」
「だから子供かっ!」
枕投げがやりたいというバクフーンに再びツッコミを入れるリザードン。
「良いじゃんやろうぜ枕投げ〜」
まるで子供みたいに一緒にやろうと頼み込むバクフーン。
こうなったバクフーンがちょっとやそっとじゃ諦めない事を知っているリザードンは深くため息を吐く。
「はぁ……分かったよ」
「よっしゃ!」
嬉しそうにしながらバクフーンはリザードンと一緒に部屋へと入っていった。
そして枕投げやちゃっかり持ってきていたバクフーンのトランプで遊んだりなどして夜を過ごすのであった。