第2話 幼なじみとの再会
ポケモンリーグに出場する為、そしてラティアスの兄であるラティオスを捜す為に故郷であるフレイムシティから飛び出したバクフーンとリザードン。
現在彼らはウォーターシティに向かっているのだが、途中で彼らの前にとある大きな森が立ちはだかった。
「森でけぇ〜」
森の第一印象をそのまま口にして驚いているバクフーン。
そんな彼の横でリザードンはおもむろにリュックからタウンマップを取り出した。
「何々……ここは別名“迷いの森”と呼ばれ、年中濃霧が発生していて非常に迷いやすく危険、不用意に入らないように……だってさ」
リザードンはタウンマップに載っていた森についての情報をバクフーンに伝える。
「マジか、俺すぐに道に迷っちまいそうだなぁ」
「……お前は何処に行っても道に迷ってるだろうが」
バクフーンに聞こえないくらい小さな小声でボソリと呟くリザードン。
「今なんか言ったか?」
「いや別に。それよりどうするよ? ちょっと遠回りになるけど迂回して森に入らないようにしながらウォーターシティに向かうか? それとも道に迷うのを覚悟で森を突っ切るか?」
「な〜に言ってんだよリザードン君、もっと簡単な方法があるじゃないか」
急にニヤニヤと笑みを浮かべ、普段呼び捨てのリザードンを君付けで呼びながら彼の肩を叩くバクフーン。
バクフーンが何を考えているのかすぐに分かったリザードンは苦笑いする。
「つまり……俺がお前を担いで空飛ぶと?」
「正解!」
満面な笑みを浮かべるバクフーン。
そんなバクフーンを見てリザードンは深くため息を吐く。
「はぁ……ったく、お前って奴はこういう事はすぐに思い付くんだから……しゃあねぇなぁ」
リザードンは両手でしっかりとバクフーンを抱え、翼を力強く羽ばたかせて空へと飛翔した。
「うひょー、良い眺めだぜぇ! マジで森でけぇなぁ」
空から見える森の景色に興奮するバクフーン。
「思ってた以上にでかかったのな森……こりゃ森に入っても迂回しても、ウォーターシティに到着するのは早くても夜になってたかもな」
想像していたよりも大きく広大な森に驚きつつ、リザードンはさらに加速して森の上空を飛んでいく。
しばらく飛行を続けていると海が見えてきて、その近くに大きな船が停泊している港町が見えてきた。
彼らが目指している場所、ウォーターシティである。
「見えてきたぞ」
「あれがウォーターシティかぁ、リザードンもっとスピード出してくれよ」
「了解、落ちないようにしっかり俺の手握っとけよ!」
さらにスピードを上げたリザードンはウォーターシティに向かっていった。
「やっほー、風が気持ちいいぜー!」
一方バクフーンはまるで子供みたいにはしゃいでいた。
そして彼らはあっという間にウォーターシティへと到着した。
港町なだけあって大勢のポケモン達がおり、ヴェステン地方ではあまり見かけない他の地方に住んでいるポケモンや商品を売っている店などがたくさん並んでいた。
「結構賑やかな場所なんだな、フレイムシティとは大違いだぜ」
静かでのんびりとした故郷のフレイムシティとは雰囲気がまるで違うウォーターシティに驚いているリザードン。
「おっ、彼処でなんかやってんじゃんか。見てみようぜ」
そう言ってバクフーンはたくさんのポケモン達が集まっている場所に向かって走り出してしまった。
「ちょっ、おいバクフーン! ……ったく、あいつもうラティオスを捜す事忘れてるだろ」
少し呆れた表情を浮かべながら、リザードンはバクフーンを追い掛ける。
「はいちょっとごめんよ〜」
大勢いるポケモン達の中を掻い潜っていくバクフーン。
そして先頭にたどり着いた時、彼が目にしたのは……
「うおーっ、バトルやってんじゃん!」
そこでは程よい大きさのバトルフィールドでポケモンが2人、大勢のポケモン達に見守られながらバトルをしていた。
ここは誰でも好きなポケモンとバトルが出来る場所になっているのだ。
「ストリートバトルってところか」
ようやくバクフーンに追い付いたリザードンが彼の隣にやってきた。
「やっぱ何処の場所でもバトルは盛り上がってんだなぁ、俺もバトルやりてぇ!」
「おいバクフーン、その前にやる事があんだろ。ほら行くぞ」
興奮するバクフーンの右手をしっかりと握り、彼を引っ張りながらポケモン達の中を掻い潜り、バクフーンと共に抜け出すリザードン。
「ちょっと待ってくれよリザードン、俺もバトルやりてぇんだって!」
「お前もう旅の目的忘れてんだろ? ラティオスを捜すんだろ?」
「あっ、そうだった」
ラティオスという名を聞き、バクフーンはようやく思い出したようだ。
「良いか、まずは聞き込みだ。誰かラティオスを見かけたっていうポケモンがいるかもしれないからな」
聞き込みをするというリザードンの提案にバクフーンは頷いて応える。
「よし、それじゃ早速……」
ラティオスの情報を入手する為、聞き込みをしようと決めたリザードンが振り向いた時、彼の前にとあるポケモンが立っていた。
「って、のわぁっ!?」
気配を全く感じなかったリザードンはいきなり目の前に現れたポケモンに驚いて後ずさりしてしまう。
バクフーンも同じで全く気づかなかった為、驚きの表情を浮かべている。
「ちょっ、なんだお前! いつからそこいた!?」
「いつからって……君達がここに来た時からずっと近くにいたよ。それより、久しぶりに会ったのにそんな言い方はないでしょリザードン。それにバクフーンも驚きすぎ」
バクフーンとリザードンの事を知っているこのポケモン。
青を基調とした体色で、硬い岩をも砕きそうな太くてたくましい腕を持ち、頭には立派なひれがある――ラグラージという種族のポケモンだ。
「ラグラージ!?」
バクフーンとリザードンは一緒になって彼の名を呼ぶ。
ラグラージはバクフーンとリザードンの幼なじみなのだ。
「うわっ、マジ久しぶりじゃんかよおい! 相変わらず影薄いのなお前」
「影薄いは余計だよバクフーン」
バクフーンに影が薄いと言われ不機嫌そうにムスッとしてしまうラグラージ。
「悪ぃ、そんな怒んなって」
「もう……それより、2人共ここで何してるの?」
「実は色々あってさ……」
ラグラージに今までの事を説明し始めたリザードン。
記憶を失ったラティアスの事、記憶を戻す鍵になるかもしれないラティオスを捜している事、そしてポケモンリーグ出場を目指している事などを。
「なるほどね……でも残念だけど、この街でラティオスってポケモンは見た事ないね」
「そっかぁ……」
ラグラージにラティオスはこの街で見た事はないと言われ、バクフーンとリザードンは残念そうに肩を落とす。
「はぁ……まぁ、そんな簡単に見つかる訳ねぇよな。落ち込んでてもしょうがねぇか」
そう言ってリザードンは前向きに考える事にして立ち直る。
「だな……そんじゃ気を取り直して、早速ジム戦だぜぇ!」
実はさっきからもうバトルがやりたく仕方なかったバクフーンはジムに向かって走り出してしまう。
しかし……
「バクフーン、ジムはそっちじゃなくて反対方向だよ?」
ジムとは逆の方向に走っていたらしくラグラージに呼び止められ、バクフーンはすぐに急停止する。
「えっ、あっ、そっち?」
「案内してあげるからついてきて」
そう言ってラグラージはジムに向かって歩き出す。
間違った方向に走ってしまったバクフーンは恥ずかしそうにしながらラグラージを追い掛ける。
「やれやれ……」
方向音痴なバクフーンに呆れながら、リザードンも歩き始めた。
しばらく歩いていき、バクフーン達はウォーターシティのポケモンジム、ウォータージムに到着する。
しかしジムには先客がいたようで、ジムの前には2人のポケモンが立っていた。
「ん? やぁ、君達もこのジムに挑戦しにきたのかい?」
バクフーン達に気づき、そのポケモンは和やかに笑みを浮かべながら優しい口調で話し掛けてきた。
山吹色を基調とした体色、背中には立派な翼、太くて長い尻尾があり頭には小さな角が1本に長い触角が2本あるドラゴンみたいな姿をしている――カイリューと呼ばれる種族のポケモンだ。
「あぁ、そのつもりだぜ。ところでお前は?」
「僕はカイリュー。残念だけど、今日はもうジム戦は無理だと思うよ?」
バクフーンに尋ねられて名を名乗ったカイリューに、今日はもうジム戦は無理だと言われバクフーンは驚きの表情を浮かべる。
「な、なんでだよ?」
「それはこのカイリューとジム戦をやったばかりでジムにいる皆がまだ回復していないからだ」
バクフーンの問いに答えたのはもう1人のポケモンだ。
オレンジを基調とした体色、黄色い浮き袋みたいな器官が首から腰辺りまであり、尾が二股になっていてイタチに似た姿をしている――フローゼルという種族のポケモンだ。
彼はウォータージムの関係者だ。
「もしジム戦をしたいのであればまた明日ここに来れば良い、その時は歓迎するぞ。では自分はこれで」
そう言ってフローゼルはジムの中へ入ってしまった。
「マジかよ〜、やっとバトル出来ると思ったのに〜」
ジム戦をお預けにされがっくりと肩を落とすバクフーン。
しかしすぐに立ち直り、バクフーンはカイリューを見つめる。
「あんた、ジム戦勝ったのか?」
「うん。ほらこれが証」
カイリューはウォータージムを勝ち抜いた証、青色をしたアクアバッジをバクフーンに見せる。
「って事はあんた強いんだな? なぁ、俺とバトルしてくれよ。もうバトルしたくてウズウズしてしょうがねぇんだ」
バトルしたくてしょうがないバクフーンはいきなりカイリューにバトルを申し込んだ。
「バトルを? うーん……」
ジム戦を終えたばかりのカイリューはバクフーンの申し込みを受けるかどうか考え始める。
「……うん、良いよ。ちょうど近くに練習用のバトルフィールドがあるからそこでやろう」
「おっしゃ、そうこなきゃ!」
バトルを受ける事にしたカイリューはジムの近くにあった練習用バトルフィールドへバクフーンと一緒に向かう。
バトルの邪魔にならぬよう、リザードンとラグラージは離れた場所で見学する。
「いつでも良いよ」
「そんじゃ、最初から全力全開でいくぜ!」
バクフーンとカイリュー、今2人のバトルが始まろうとしていた。