第1話 旅立ち
「……うっ、うーん……ここは?」
怪我をして気絶していたところをバクフーンに運ばれてリザードンの家にやってきていたラティアス。
彼女はリザードンの部屋で意識を取り戻し、ゆっくりと上体を起こす。
頭にはリザードンが施した応急処置によって包帯が巻かれている。
「私……なんでこんな所に?」
ベッドの上でラティアスは部屋を見回し始める。
そしてラティアスはすぐ近くで椅子に座ったまま眠っているバクフーンを発見する。
バクフーンはラティアスの事が心配で、ずっと側にいたのだ。
「おっ、目が覚めたか」
ラティアスがバクフーンを発見したと同時に、薬と包帯を持ったリザードンが部屋に入ってきた。
「あ、あなたは?」
「俺はリザードンだ、怪しいもんじゃねぇから安心しな。頭に巻いてる包帯、新しいのに代えるからじっとしててくれな」
そう言ってリザードンはラティアスの頭に巻かれている包帯を解き、薬を湿らせたガーゼを怪我をした箇所に当てながら持ってきた新しい包帯を巻き始める。
「あの……私、なんでここに?」
「バクフーンが怪我をして気絶していた君をここに運んできたんだ、あいつが起きたらちゃんと礼を言いな」
包帯を巻きながらラティアスの問いに答えるリザードン。
バクフーンの名を聞き、ラティアスはまだ眠っている彼を見つめる。
「……よし、これで大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます」
新しい包帯をリザードンに巻いてもらい、ラティアスは軽く頭を下げて礼を言う。
その後リザードンは近くにあったもう1つの椅子に腰掛ける。
「……んあっ? あれ寝てた……うおっ! 目が覚めたのか、良かったぁ〜」
リザードンが椅子に腰掛けたと同時にバクフーンが目を覚まし、ラティアスが意識を取り戻していた事に喜び笑みを浮かべる。
「起きたと思ったら騒がしいなぁお前……この子は怪我してんだから静かにしろよ」
「あっ、悪ぃ」
リザードンに注意され、バクフーンは右手を後頭部に当てながら申し訳なさそうに謝る。
「それで……一体何があったんだ? 頭にあんな怪我をしたんだ、何かあったんだろ?」
リザードンはラティアスに一体何があったのかを尋ねる。
「それが……よく覚えてないんです。なんで怪我をしたのか、私が何処から来たのか……」
ラティアスから返ってきた返答に、バクフーンとリザードンは驚いて思わずお互いの顔を見つめ合う。
「ほ、本当に何も覚えてないのか? 家族の事とかもか?」
バクフーンが聞いた質問に、ラティアスは「はい……」と元気なく頷きながら答えた。
「じゃあ、名前も?」
今度はリザードンが尋ねる。
「名前……それだけは覚えています。私はラティアスです」
唯一名前だけは覚えていたようで、すぐに自分はラティアスだと彼女は答える。
「ラティアス……なら、あなたにはお兄さんの“ラティオス”がいる筈よ」
不意に扉の方から声が聞こえてきて、バクフーン達は声がした方へ振り向く。
そこには黄緑色を基調とした体色で首が長く、さらに首周りには大きな花びらがあり、草食恐竜に似た姿をしている――メガニウムという種族のポケモンがいた。
メガニウムはリザードンの母親である。
「って母さん、いつからそこいたのっ!?」
まさかいるとは思ってなかったリザードンは思わず驚きの声を上げてしまう。
「バクフーン君がラティアスちゃんを見て喜んでたあたりからかな? それよりも、ラティアスっていうポケモンにはお兄さんのラティオスっていうポケモンがいる筈なのよ。昔旅をしてて聞いた情報だから間違いないと思うわ。ラティアスちゃんがお兄さんであるラティオスに出会えれば、記憶が戻るかもしれないわよ」
「なるほどな……でもそのラティオスって奴は何処にいるんだ?」
首を傾げながらバクフーンはメガニウムに尋ねた。
「ごめんね、さすがに私もそこまでは分からないわ」
首を左右に振りながら、申し訳なさそうな表情で分からないと答えるメガニウム。
「そっか……なら、俺がラティアスの兄ちゃんを見つけて連れてきてやるよ。ジム巡りながらあちこち旅してれば、そのうち見つかるかもしれねぇし」
ラティアスの兄であるラティオスを自分が捜し出して連れてくると言い出したバクフーン。
それを聞いたリザードンが少し心配そうな表情をする。
「お前大丈夫か? バトルに夢中になりすぎてラティオス捜し忘れたりとかしないよな?」
「心配すんなってリザードン、ちゃんと見つけて連れてくっからよ。だからそれまでこの娘を頼むぜ、そんじゃ今度こそ行ってくるぜ!」
そう言ってラティアスをリザードン達に任せ、バクフーンは荷物を持って再びウォーターシティに向けて出発した。
「……あいつマジで大丈夫かなぁ? バトルの事になるとあいつよく他の事忘れるし……やっぱ心配だなぁ……」
幼なじみ故にバクフーンの悪い所もよく知っているリザードンは、やはりちゃんとバクフーンがラティオス捜しをするのか不安なようだ。
「だったら、あなたも彼と一緒に行けば良いでしょ?」
そんなリザードンに、メガニウムがバクフーンと一緒に旅へ行く事を提案してきた。
「えっ、でも俺がいなくなったら店が――」
「お店の事は私と父さんがなんとかするから大丈夫よ。それに、あなたも本当は彼と一緒に旅へ行きたいんでしょ?」
メガニウムに本心を見抜かれ、リザードンは驚きの表情を浮かべる。
「な、なんで分かったの?」
「そりゃ分かるわよ。“血は繋がっていなくても”私はあなたの母親よ? 子供が考えている事くらいちゃんと見抜けます……ほら、ぼやぼやしてるとバクフーン君に置いてかれちゃうわよ?」
「母さん……ありがとう!」
メガニウムに礼を言うと、リザードンはすぐに旅に必要な道具をリュックに詰め、先に出発してしまったバクフーンを追い掛けて飛んでいった。
「行ってらっしゃい……さて、あの子達がお兄さんを連れてくるまでラティアスちゃん行く場所ないでしょ? ここに泊まってて良いからね」
「えっ、でも私がいてご迷惑になりませんか?」
「迷惑だなんてある訳ないじゃない。ここを自分の家だと思って、好きなだけ泊まってきなさい。歓迎するわよ」
「あっ、ありがとうございます」
バクフーン達がラティオスを連れてくるまで家に泊まる事を許してくれたメガニウムに、ラティアスは深く頭を下げてお礼を言う。
一方バクフーンはもうすでにフレイムシティを離れ、ウォーターシティに向かってラティアスを見つけた海岸付近を歩いていた。
「おーい!」
「ん?」
そんなバクフーンに誰かが声を掛ける。
バクフーンは声がした方へ振り向き、そして自分の所へ向かって飛んでくるリザードンを見つける。
「リザードン!?」
まさかリザードンが来るとは思ってなかったバクフーンは驚きの声を上げてしまう。
リザードンはゆっくりとバクフーンの前に着地する。
「どうしたんだよお前?」
「母さんから許しが出たんだ、俺もお前と一緒に行くよ」
「マジか!」
「それに、お前1人だけだとラティアスの兄さん捜しを忘れる可能性があったからな」
一緒に来ると聞いてバクフーンは笑みを浮かべたが、最後に言われたリザードンの言葉を聞いた瞬間バクフーンはその場でずっこけてしまった。
「お、俺そんなに信用されてない訳?」
「まぁとにかくこれからよろしくって事で。さぁ、まずはウォーターシティに向けて出発だな」
リザードンはバクフーンを置いて先に歩き出した。
「ちょっ! 待てよリザードン!」
慌ててリザードンを追い掛けるバクフーン。
バクフーンとリザードン、2人のポケモンはポケモンリーグ挑戦とラティアスの兄、ラティオスを捜すという目的を持って故郷を旅立っていった。